見出し画像

読書の森

宮部みゆき 『不文律』

『不文律』は宮部みゆきの短編集『地下街の雨』の一編です。
この短編集は作者の書きたい盛りの作品でしょうか、
どの作品も新鮮な目線で書かれて面白くて一気に読めます。
宮部さん、ストーリーテラーの面目躍如です。


『不文律』はこの中では目立たない作品です。残酷な殺人も哀切なロマンも目新しい工夫もないです。
ただ、身につまされて、こわ〜い話かも知れません。

書き出しから「埠頭から死のダイビング 一家四人ごと海中へ 無理心中の疑い」事件の概要が示されます。

後は、この家族の周りの人々(隣人、会社の友達や部下、親兄弟、かかりつけ医、学校の友達)の談話で構成されてます。

水没した車の中で亡くなっていたのは、ごく平凡で謹厳実直なサラリーマンの一家、夫婦と小学生の子供二人、教育熱心で生真面目な妻、購入した分譲マンションでもあまり目立たない一家でした。
運転手は夫です。

事故か、事件か、一家心中か、心中を装った殺人で自分も死んでしまったのか?
殺人ならば一体何が原因か?

まるで「藪の中」の事件のように人々は憶測します。
夫は会社で一方的に思いを寄せた若い部下に失恋したそうで、その女の子は「自分が原因か」とか言い出します。近所の人は内心興味しんしんで、噂を始めます。

「別れてくれ」とか言っていた、ノイローゼだった、離婚したいと打ち明けた、などなど、憶測混じりの話が飛び交うのです。
ただ、それにしては、状況が合わない。

一家はデズニーランドに出かける途中で、夫の鞄には財産一式が入っていた。
夫が何かから逃げたかったことは確からしいけど。

そして、思いもかけぬ真相が判明しました。結果「事故」という事で収められたこの不幸な事件の真相は何か?
それが、軽い悪戯を本気にして起きた出来事だとしたら、どうでしょう。
そして、悪戯を仕掛けた張本人に何の悪意も無いとしたら。

どの人の中にも不思議な魔物が住んでいるようです。
不安に包まれた風船の様な心は一旦針で突っつくと、理性で制御できない行動を起こす事があるようです。

ちょっと周り道して、状況を俯瞰すると、考え直す時間が出来て悲劇を避けられるかも知れない、とも思いました。

ちなみに「不文律」という言葉は「お互いに心の中で分かっている掟」「文書で示されない法律」の意味を持ちます。
実際この事件を起こした真犯人はいるのですが、何故罰する事が出来ないのでしょうか?
そこでこの不文律という言葉が生きるのですが。





甘い練り味噌(味付けはお好みで)を作っておくと便利です。
上は茄子の味噌田楽風、下は鱈を焼いて味噌をかけただけのものです。
あまり長持ちはしませんが重宝します。


読んでいただきありがとうございました。

コメント一覧

airport_2014
@hayane-hayaoki 早寝早起きさん(この言い方でごめんなさい)、読書家ですよね。図書館のお仕事(ボランティア?)もなさってるし。
宮部みゆきについて挙げられた小説はまさに名作ですが、読みでがあり過ぎて、歳取ると疲れちゃうので、もっぱら短編ばかり読んでます。
この『地下街の雨』は買ってまで読むという感じではないけど、面白いです。
この頃、自分じゃもう書けないから、いかに読む気を起こす書評を書くかという事に凝ってるのよ。
宜しくお願いします。
hayane-hayaoki
宮部みゆきさんはたいがい読んでいるつもりですが、覚えがないです。
最近の作品より、「火車」や「理由」「模倣犯」のあたりが、現代に切り込む社会派小説で引き込まれます。
機会があれば、その短編も読んでみたいです。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

最近の「書評」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事