読書の森

暗き世に 続き



次は地。

耳遠き 父はいくども 弔問の
客に語りぬ 母の最期を

これは哀切な相聞歌であると私は感じた。

作者の母の通夜の出来事であろうか。

妻を看取った夫も老いて耳が遠い。
一人遺された彼は連れ合いの末期を繰り返し語る事で、寄る辺なさから逃れたいのだと思う。

耳が遠い夫に妻だけは飽きずに喋りかけてくれた。
きっと何度も繰り返し喋ってくれたのだろう。
夫はその妻を真似ている。
最早それしかこの孤独感を紛らわすものはない。

自分より先に死んで欲しく無かった。
愛よりもっと切実な恋しさを感じた。



最後に人。

男子に 手とられて 女子は腕ひらく
検電器の箔の ごとくふわあと

これも想像力を巡らして情景描写が出来る歌である。

おそらくフォークダンスではないだろうか。
初々しい若い男女が手を取り合う。
女子の生硬な手が柔らかく開いて艶めく。

検電器の箔とは静電気の有無を調べる機器のごく薄い金箔の事。
閉じていた箔は電気を感じるとふわあと開く。

箔とはひょっとして男子学生の想いに例えたのかも知れない。

微かな色香が学生用語に隠されている。



暗き世の意味、母の最期の情景、ふわあと開く腕に秘められた想い。

豊穣な物語が隠されている事を今更感じた今回の歌選だった。

読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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