偏差値の中程度の公立高校の中より上の成績を取り、スポーツが得意という他特徴がない。
しかし、人のいない場所で彼を見た人は、彼の瞳が普段見られない光に満ちているのに
驚くであろう。
仁は本来才知が溢れた子供だった。
3歳の時、字が読め、簡単な計算が出来た。
最初に気づいた祖母は、幼い仁に優しく言って聞かせた。
「仁ちゃんは本当にお利口さんね。でも本当のお利口さんはそれを人に
隠すのよ」
彼は、共稼ぎで忙しい母以上に、優しくて美味しい料理を一杯作ってくれる祖母が
好きだった。
祖母が珍しく強く言った有無を言わさぬ言葉をずっと守り抜いた。
「人並みが一番。人並みな幸せが一番の幸せなのよ」
仁は当たり前の事のように受け入れ、並外れた能力を抑えて毎日を過ごす、ちょっと可愛げのない子供であった。
自分の持つ不思議な能力を、知ったのは中学に入学した時だった。
下校中、妙に胸騒ぎがした。
祖母の声が聞こえる気がする。
「苦しい、苦しい!」と耳元で叫ばれている気がする。
居ても立ってもいられない。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
次の瞬間、彼は我が家の茶の間にいた。
祖母は胸を押さえてうつ伏せに倒れていた。
「薬を」
救急車を呼ぼうとする仁の手を止め、祖母は棚の上の木箱を指さした。
木箱の中の薬を飲むと、祖母は生き返ったように艶々した顔になった。
祖母、喜和子は60になる。
その年齢の女性には決して見えない若さを保っている。
そんな祖母が仁の自慢であった。
しかし、祖母は夕方買い物に出るだけで、殆ど家事をして暮らしている。
何か祖母は秘密を持っている。
仁はそう思いながらも、決して尋ねようとしなかった。
しかし、その謎は明かされる時が来たようだ。
蘇った祖母は真剣な顔になって仁に尋ねた。
「仁、あなた今突然この部屋にやってきたわね。どうして?」
どうしてとは彼が聞きたいのである。
「お祖母さん危ないと思った途端にここに来たんだ」
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