読書の森

自由への遁走 その2



それから一年後、加奈子は妊娠した。
朝田は大いに喜んだ。
女は子を持つと変わると言う。
お嬢様育ちの加奈子も成熟した母親に成長するだろう。

自分の妻と子どもの待つ暖かい家庭は、不遇な家庭に育った朝田の夢だった。
彼は分厚い育児書を買って妻に買い与えた。
加奈子は迷惑そうだったが、素直に読んでいる。

しかし、いかにも華奢な身体の彼女のお腹は一向に大きくならなかった。
それをいいことに、加奈子は度々昔の学校友達に会うと行っては車で出かけていた。



その出先で加奈子は転んでしたたかに腹を打ち流産した。
直ぐに救急車で都内の病院に運ばれ、本人の身体に別状はない。
知らせてきたのは彼女の大学時代の友人、斎藤龍だった。

このような事態を、男から知らせてきたのが、朝田には驚天動地の出来事だった。

病院に駆けつけると、二三人のいかにも垢抜けた男女が迎えた。
大学時代の遊び友達と自己紹介する。
どういう遊び友達か?
朝田はスラリとした斎藤龍に疑問を投げてやりたかった。

妊娠三ヶ月で遊び歩いた加奈子は、それきり子どもの生めない身体になった。
多少窶れたが美しさは変わらなかった。

しかし、朝田の心は冷え切っていた。
果たして彼女の腹に宿った子は俺の子だろうか?
どうしようもない疑心暗鬼に駆られるのだ。

こんな女と別れたいと痛切に思った。

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