風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

第四小学校より 「風の向こうに(第一部)(第三部四小編)」完結の挨拶

2010-04-21 10:31:00 | 校舎(精霊)の独り言

ああ、ようやく、夢ちゃんに卒業証書を手渡すことができました。私にとって、ここまで

来るのは長い長い道のりでした。夢ちゃんと始めて会った日、あの日、『6年たったら

卒業証書を渡すことができる。そうね、6年なんてあっという間だわ。』と思って

いたのに。なんと長いことかかってしまったのでしょう。それは、夢ちゃんが二年生に

なった時、六小の所に行ってしまったから・・・・・。あのまま、私の所にいれば、

昭和46年のあの日、卒業証書を渡すことができたのに。フフッ・・・・でも、それは

夢ちゃんのせいではありませんね。あの時、夢ちゃんはそうするしか

なかったのですから。六小も、夢ちゃんのために一所懸命だったと聞いています。

だから、きっと夢ちゃんは六小の所でも幸せだったのでしょう。ただひとつ、私が

六小から聞いていることでは、夢ちゃん、あなたは四年生の時、1年間いじめに

あったそうですね。それを聞いた時、私は胸がしめつけられそうでした。どんなにか

寂しく、つらい1年間だったでしょう。そして、思いました。ああ、もしあの時、あのまま

私の所にいられたなら、いじめにあうこともなかったかもしれないのに、と。

もし~だったら、なんてことを思うことはナンセンスだということはわかっています。

でも、つい思ってしまうんです。夢ちゃんは、私の大切な、とても大切な

友だちだから。あの頃も、今も、そしてこれからも。

夢ちゃん、どうか、子どもの頃の純真な心を、直な心をいつまでも忘れないでいて

下さい。あなたがそれらの心を忘れないでいる限り、私は、またいつでも、あなたに

会えるでしょう。会って、心通わせることができるでしょう。

そう・・・・・・これからも。


風の向こうに(第三部)四小編 其の拾弐

2010-04-20 23:54:17 | 大人の童話

四小は、しばらくちょっと考えているような感じでしたが、やがて、決心したように

静かに話し始めました。

「あのね、夢ちゃん。」

「うん、なあに?四小さん。」

夢は一所懸命、四小の思いを汲み取ろうとしながら四小の言葉に耳を

澄ませました。

「あのね・・・・・・・。」

四小は、まだ言いよどんでいます。夢は今までにない四小の様子に、『四小さん、

よほどのことなんだな。わたしに言おうかどうしようか考えたり、なかなか

言えなかったり。』と思いながら、四小が話せるようになるまで、気長に待つことに

しました。そんな夢を見て、ようやくはっきりと決心がついたのか、四小は、また

話し始めました。そして話し終わると、「ふぅ」と小さくため息をついたのです。夢は、

四小の話を聞き、驚いて声も出ませんでした。四小の話したことは、夢が今まで

考えもしなかったこと、いえ、考えたくもなかったことだったのです。夢は、がっくりと

肩をおとし、泣きだしそうになりました。しかし、夢はそれはぐっとこらえていました。

実際、本当に泣きたいのは四小のはずです。それを、四小はこらえて

いるのですから、夢が泣くわけにはいきません。夢は、やっとの思いで四小に

言いました。

「そっか。まあ、しかた・・ないか。でも・・・・。」

四小が言います。

「ええ。まあ・・・そうね。ふふ・・・・でも、まあ、夢ちゃんに話したら、少し気が楽に

なったわ。」

「そう?」

「ええ。」

夢と四小、二人はそれっきり黙ったまま、長いこと見つめあっていました。四小は、

チカッチカッと小さく何度も光っています。夢は、その光を見ながら、始めて四小と

心通わせた日のことを思い出していました。あれから長い年月がたち、夢も四小も

変わって来ています。しかし、これから先また、どのように夢と四小、二人の姿形が

変わろうとも、二人の間は変わることはありません。そう、夢と四小の絆は、

あの日から既に固く結ばれているのです。夢が言います。

「四小さん、わたし、そろそろ帰るから。またね。」

四小も言いました。

「ええ、今日は来てくれてありがとう。うれしかったわ。」

四小が、最大限の大きな光で夢を見送ります。夢はその大きな光の中、ゆっくりと

歩きだしました。『その時になったら、また必ず来るからね。』と、心の中で

誓いながら。

                                             完

 

 

 

 

 


風の向こうに(第三部)四小編 其の拾壱

2010-04-19 10:57:30 | 大人の童話

その後も夢は、一・二度四小に会いに行きました。が、四小を呼び出すことは

ありませんでした。ただ遠くから、その姿を眺めていたのです。四小は静かでした。

夢は、そっとその場を離れようとしました。すると遠くから、ほとんど聞こえない

くらいの、小さな声が何やら聞こえてきます。耳を澄ましてよく聞いてみると、それは

四小の声でした。夢は一所懸命、四小が何を言おうとしているのかわかろうと

しました。四小は、消え入りそうな声でこう言っていました。

「夢・・・ちゃん、待って。帰ら・・・ないで。話し・・たい・・ことが・・あるの。」

声とともに弱弱しい光が放たれ、四小が必死なことが夢にはわかりました。

「四小さん!いいよ、わかったから、帰らないから。何?わたしに話したいことって。

ゆっくり話していいよ。言って!」

夢は、歩きだそうとしていた足を止めて四小に話しかけます。四小はそれを聞くと、

安心したように話し始めました。弱弱しかった光も、いつもと変わらない光の

大きさになっています。声の調子ももどっていました。

「夢ちゃん、ほんとは、去年再会した時に言おうと思ったんだけど、どうしても

言えなかった。それで、今日になっちゃったんだけど、ほんとはどうしようかなとも

思ったのだけど、でも、やっぱり大事なことなので、言っておくわ。」

声の調子はもどっても、四小の話し方は、いつもとはどこかちがうように、夢には

感じられました。四小はいつも、夢に語りかけるように優しく話すのですが、今回は、

四小らしくないまとまりのない話し方をするのです。『きっとそれは、四小さんにとって

よほどのことなのだろうな。』と、夢は四小の気持ちを察するのでした。


風の向こうに(第三部)四小編 其の拾

2010-04-17 23:35:11 | 大人の童話

式は、校長先生の式辞・保護者会会長のお祝いの言葉と進み、いよいよ来賓が

紹介されます。夢は、『わたしは四小の卒業生じゃないけど、先生はなんていって、

わたしを紹介するのだろう。』と思ってどきどきしていました。すると、

「大丈夫よ。ちゃんと紹介するから。」

と、四小の声がしました。

「そうなの?」

夢が言うと、四小は

「ええ。」

と答え、「安心していなさい。」というように、微笑んでいました。夢は、それでもなお、

『どうするんだろう。』と思いましたが、四小の言葉を信じることにしました。来賓が

次々と紹介され、いよいよ夢の番です。

「本校卒業生、藤木 夢様」

夢は、驚いて声もでません。まさか、『卒業生』と紹介されるなんて。夢は感激で

胸がいっぱいになり、なにも言えませんでした。立ち上がって、卒業生の保護者の

方に、「おめでとうございます。」とあいさつするのが精一杯でした。四小は、そんな

夢の様子を見て、

「喜んでくれて良かったわ。わたしもやっと、夢ちゃんに卒業証書渡すことできたし。」

と、うれしそうに微笑みました。そうです。このサプライズは、実は、四小が

用意したものだったのです。四小が先生に、夢のことを「卒業生」と紹介するように

頼んだのです。どうやって頼んだのかは、夢にもわかりません。まあ、それはいいと

して、とにかくこれで夢は四小を卒業することができました。もちろん、実際に

卒業したわけではありませんが、夢も四小も、これで、それぞれ自分の心の

整理がついたのでしょう。式が終わって夢が帰る頃には、二人ともさわやかな笑顔に

なっていました。

 


風の向こうに(第三部)四小編 其の九

2010-04-16 23:32:58 | 大人の童話

「四十四年前のあの日、わたしは夢ちゃんと六年間いっしょにいて、わたしから

夢ちゃんを送りだ出せると思っていたわ。でも・・・・・できなかった。送りだすのを

楽しみにしていたのに。だから、今日、この卒業式を借りて、今回の卒業生とともに

夢ちゃんを送り出すことにしたの。ね、いいでしょ。四十四年たってあなたに渡す

わたしからの卒業証書よ。受け取ってくれるわね。」

四小の声は震えています。四小の姿は見えませんが、おそらく泣いて

いるのでしょう。夢も泣きそうになっていました。泣くのをこらえながら、心のなかで

四小に言いました。

「本当に?本当に、わたしに卒業証書くれるの?うれしい!ありがとう、四小さん。」

十六人の卒業生は、皆、無事に校長先生から卒業証書を受け取りました。それを

見届けると、四小は、凛とした厳かな響きの声で夢に言い渡しました。

『六年二組、藤木 夢。あなたはここに、小学校の全課程を修了したことを証する。

平成二十一年三月二十五日、戸久野市立第四小学校(精霊)』

夢は、いつの間にか大きな金色の光に包まれています。夢ばかりでなく、夢の

周りにも光はあふれていました。夢は、うれしくてうれしくて、四小から渡された

証書を持ってただただ泣いていました。次から次へとあふれでてくる涙も、もう

拭おうとはしませんでした。そんな夢を見ながら、四小もまた泣いていました。

そして、

「さあ、みんなでわたしの校歌を歌うわよ。夢ちゃん、まだ覚えてる?」

と、まだ少し泣き声でしたが、優しく夢にいいました。

「うん、もちろん!」

夢は、『大好きな四小さんの校歌だもの、忘れるわけないわ。』とでも言うように、

大きな声で四小に答えました。そして、

「美しい・・・続く・・・・の 戸久野第四小学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もまた」

と、1番・2番ともまちがわずに四小に歌ってみせました。夢といっしょに校歌を

歌いながら、四十四年間大勢の子どもたちと、この校歌を歌ってきたのねと改めて

思う四小、その眼からは、またひとすじ涙が流れていました。