風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)四小編 其の八

2010-04-14 23:40:22 | 大人の童話

平成二十一年三月、四小から卒業式の案内が届き、卒業式に出るため、夢は再び

四小を訪ねます。夢は、自分が卒業するんでもないのに、式が始まるのを待つ間、

胸がドキドキして、落ち着かない気持ちを覚えていました。式は体育館で行われます。

夢の小学生時代には体育館がなかったため、小学校の体育館に入るのは

始めてでした。始めて入る小学校の体育館、夢は、『今の子は、体育館があって

いいなあ。』と、ちょっぴりうらやましくなりました。館内の壁上方には、幾つか

卒業生の卒業記念作品が飾ってあります。体育館に入って席に着くと、夢は

それらをじっと見ていました。やがて、式が始まりました。来賓・保護者・先生方・

在校生全員ー四小は全校生が少ないので、全員式に出席して卒業生を送ります-

の待つなか、卒業生十六人がちょっぴり緊張した面持ちで入ってきます。夢は、

卒業生の子たちを見ながら、『わたしもこんなふうだったな。』と、遥か昔に

過ぎ去った自分の卒業式を思い出していました。その時、四小の声が響きました。

「夢ちゃん、今日は夢ちゃんの卒業式でもあるのよ。ちゃんと見てってね。」

「えっ?」

夢は、四小が何を言いたいのか、よくわからずにいました。四小は続けて言います。

 

 

 

 


風の向こうに(第三部)四小編 其の七

2010-04-13 18:19:23 | 大人の童話

四小からは、毎月『学校便り』が夢のもとに届けられました。夢は、毎月

『学校便り』を見るのを楽しみにしていました。九月、四小からその『学校便り』と

ともに、運動会の案内が届きます。小学校の運動会なんて何十年ぶりでしょう。

夢は案内を見てすぐに『行ってみよう。』と思いました。九月の最終土曜日、四小の

運動会の日、あいにく天気は曇りでしたが、運動会はできそうです。夢は、自分が

出るわけでもないのに、わくわくしながら四小へと向かいました。四小へ着くと、

係りの方に丁寧に挨拶され、夢は感激ひとしおでした。校庭にでると、四小の声が

聞こえてきます。

「夢ちゃん、いらっしゃい。何十年ぶりの運動会、楽しんでね。子どもたち、みんな

一所懸命やるから応援してね。ああ、夢ちゃんとまた一緒に、運動会を見ることが

できるなんて、本当に夢のよう。」

四小は、遠い日を見てるような感じで夢に話しかけました。夢は、四小の言葉に

静かに頷いて答えました。

「本当、こうしてまた、四小さんといっしょにいるなんて夢のよう。一年生の頃を

思い出すなぁ。あ、そうだ。四小さん、毎月『学校便り』ありがとう。毎回楽しみ、

ちゃんと読んでるわよ。」

夢は、四小を見上げて『学校便り』のお礼を言いました。

「あら、そう。読んでくれてるの。うれしいわ。よかった、夢ちゃんに喜んでもらえて。」

四小は、夢を見てうれしそうにそう答え、また競技の方を見ました。そして、

二人は運動会が終わるまでずっと、いっしょに楽しそうに競技を見ていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


風の向こうに(第三部)四小編 其の六

2010-04-12 22:13:39 | 大人の童話

しばらく沈黙が続いた後、夢は、また話しだしました。

「あのね、四小さん。わたし、四小さんとの約束果たせなかった、ごめんね。」

「え、わたし、夢ちゃんと何か約束した?」

四小が、『そんなことあったかしら。』というような顔で夢を見ながら言うと、夢は、

「うん。あの鉄棒で逆上がりができなかった時・・・・・」

と、遠く校庭の向こうに見える鉄棒を指さして、

「四小さん、わたしを励ましてくれたよね。覚えてる?」

と、四小に訊きました。四小が、『ああ、そういえば。』と思い、

「ええ。」

と答えると、夢は

「あの時、わたし、心の中で思ったの。卒業までに、逆上がりできるようになるって。

でも、だめだった。できなかったの、どんなに練習しても。」

と下をむき、地面を見ながら四小に言いました。四小は、夢を慰めるように、

「いいのよ、できなくたって。本当はね、わたし、思っていたの。逆上がり、

できるようにならなくたって別にいいって。だから、気にしないで。わたしの方こそ

ごめんなさいね。励ましたつもりが、なんか夢ちゃんに負担かけちゃったみたいね。」

と優しく話しかけました。夢は、顔を上げて大きく首を振って言いました。

「ううん、そんなことない。あの時、四小さんが励ましてくれたおかげで、わたし、

一所懸命練習できたもの。あれがなかったら、わたし、できなかった。ありがとう

四小さん。」

「どういたしまして。」

四小は夢の言葉に、にこっと笑って答えました。四小と語りあううちに、夢には

四十三年前の一年生の頃のことが、次々と思い出されてくるのでした。時間は

またたく間に過ぎていきます。四小と語りあいだして、どのくらいたったでしょうか。

ふと気がつくと、空は茜色に染まり、もう、夕方になっていました。夢は、

「いけない、もうこんな時間、帰らなくちゃ。」

と、あわてて立ち上がり、おしりの汚れをはたくと四小に言いました。

「四小さん、久しぶりに会えて、それだけじゃなくお話することもできて、すごく

すご~くうれしかった。まさか、お話できるとは思ってなかったから。本当に

今日はありがとう。また、来るから。待っててね。」

「ええ、楽しみにしてるわ。」

夢は、

「またね。また、必ず来るから。」

そう、一人呟くように言うと、四小の方を振り返り振り返り帰っていきました。

四小は、夢の帰って行く後ろ姿を見送りながら、「ほぅーっ」とひとつ小さなため息を

つきました。そして呟きます。

「わたしは、あと、どれくらいこうしていられるのかしら。」

その眼からは、涙が幾重にも重なって零れ落ちていました。

 

 

 


風の向こうに(第三部)四小編 其の五

2010-04-11 23:31:57 | 大人の童話

四小の光に包まれた夢は、校庭側に行き、校舎の前にある階段に腰かけて、

まぶしげに四小を見上げながら話し始めました。

「懐かしいな、ここ。あの頃と変わってないね。変わったことといえば、桜の木が

植わり、その木が大きくなって、四小さんの体を隠しているってことくらいかな。

四小さん自身も、あの頃と全然変わってないし。」

四小は、ふっとため息をついて言いました。

「変わったわよ。あれから、もう四十三年もたったんですもの。だいいち、わたしの

ところにいる子どもたちが減ったわ。夢ちゃんの頃は八百人くらいいたけど、今では

七十八人よ。」

それを聞いて、夢は驚いたようにかえしました。

「七十八人?なんで、そんなに少なくなっちゃったの?団地の建て替えのせい?」

四小は、横に首を振って淋しそうに答えました。

「それもあるけど、それだけじゃないと思うわ。まずは少子化、それから、わたしの

通学区の狭さね、きっと。」

夢は、『ああ。』と納得しました。実は、夢が高校生の時、市の人口はピークに

達していました。四小も、子どもの数が増えて満杯状態だったのです。そこで、

市は四小の近くに、もう一校小学校を造ったのです。ところが、あまりに四小に

近すぎて、四小の通学区が狭くなってしまったのです。

「まあ、でもこれも社会の変化で、しかたないことかもしれないわね。」

「四小さんのところの子が減ってしまったこと?」

「ええ。」

四小は、まだ何か言いたげでしたが、何も言わずにそれだけ言うと、夢に向かって

淋しそうに笑いかけました。夢は、四小の淋しげな笑顔が気にはなりましたが、

四小が何も言わないので、そのまま黙っていました。

 


風の向こうに(第三部)四小編 其の四

2010-04-10 22:15:05 | 大人の童話

「四・・・小・・・さん、わたし、変。四・・小・・さんの姿が、声が、見える、聞こえる。

わたし、もう子どもじゃないのに。大人なのに。ねえ、四小さん、わたし、変だよね。」

夢は、ともすれば、大声で泣いてしまいそうな自分を、必死で抑えながら四小に

聞きました。四小は涙ぐんだ眼のまま、四十三年前、始めて夢に語りかけた時と

同じように、優しく夢を見つめて言いました。

「いいえ、ちっとも。わたしは、あなたを見てうれしくて話しかけたの。気づいて

もらえるかどうかはわからない、それでもいい、そう思って。半分諦めてもいたわ。

でもあなたは、わたしの声に答えてくれた。そう、あの時と同じようにね。ありがとう、

気づいてくれて。うれしいわ、夢ちゃん。」

それを聞くと夢は、四小の体から放たれるまばゆいほどの光のなか、とうとう

泣き崩れてしまいました。

「わたし、ラジオであなたの名を聞いて、いてもたってもいられなくなって

会いたかったの。すぐにでも会いに来たかった。でも、いろいろあって今に

なっちゃった。会いたかったよ、四小さん。」

夢は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭きもせず言いました。

「わたしもよ。でも、会うことはないなと思って、諦めていたの。それなのに、会えて

うれしい、本当にうれしい。今日は、ゆっくりしていけるの?」

「うん。」

「そう。じゃあ、ゆっくりお話しましょうか。いい?」

「うん。」

夢と四小はお互いに見つめあい、四小の放つ光のなか、長いことうれしそうに

微笑んでいました。