「言われなくても、俺たちメンバーはアンテナ感度がいいと思うんだけど、何で…そんなに俺たちは頼りなく見えるのかなあ」
と、言いながら麻也は後悔していた。
自分の起こした事件を考えれば…
しかし諒は、
「いや、そういうことじゃなくて…」
社長や須藤の方が、むしろ東京ドームに舞い上がったり、緊張したりしているのだという。
それを聞いて、麻也は笑ってしまった。
「みんな、それぞれの立場で、ドームに向かってるんだね」
諒は満面の笑みで、
「あの2人は特に親みたいなもんだからね。少しでも恩返しになればいいよね」
そう、今の事務所は本当にいい事務所だと麻也は思う。
前のバンドの時の事務所は本当にひどかった。
そこで聞いた言葉が「スターは一代、スタッフ末代」という言葉だった。悪口らしいニュアンスだった。
ステージに立つ人間は、たった一回しかそのアーティスト人生を過ごせない。一度売れなくなったらそれまでだ(当時、再ブレイクはほとんどなかった)。
それに引き替え、スタッフとして活動している人間は、一組のスターが終わってもまた次々とアーティストを手がけることができるという…
それはそうかもしれないが…
そんな当てこすりを言われることもなく、みんなが熱心に動いてくれている今の環境が、麻也には本当に嬉しかった。
「諒、じゃあ早速テレビ見ようよ。いつもの美術番組録画してないの?」