カタチあるもの

宇宙、自然の写真をメインに撮っていますが、時々、読書、日常出来事について書きます。

【村山 早紀】 桜風堂ものがたり

2018-05-15 06:09:50 | 読書_感想

 

【概 要】
 作  者 : 村山 早紀
 初版年度 : 2016年
 出 版 社 : PHP研究所

【ストーリー】
   主人公の月原 一整は、幼い頃に母親を病気で、7歳の時には父親と姉を交通事故で亡くして祖父母の家に引き取られた。祖父母は、将来を嘱望していた娘を駆け落ち同然で奪われたと感じていたこともあり、一整に対して冷たかった。その上、事故の原因を父親の飲酒運転にされてしまい、父親が飲酒などしていなかったということをどんなに主張しても祖父母でさえ信じてはくれなかった。
 心の傷が癒えないまま少年期を過ごした一整は、他人との積極的な交流を避けるようになっていった。そんな主人公の唯一の救いが本だった。
 大学生の頃から書店でバイトし、卒業後もその書店に就職した。店長や同僚が皆本好きという居心地の良い環境を得て、充実した毎日を過ごしていた。
 前々から注目していた団 重彦が小説を出版することを知り、一整はその本を多くの人に届けていきたいと願い活動を開始する。団 重彦は一整が少年期にずっと見ていたドラマのシナリオを書いた人物だったが、現在では活動していなかった。ブログでは大病を患って入院していることが記されていた。
 そんな中、書店で中学生の万引き事件があり、一整は犯人の少年を追いかけていたが、その最中に少年が車に撥ねられてしまう。この事故に対して書店に抗議や非難が殺到し、一整は書店を辞めることを決断する。

【感 想】
   ひとつのことに真摯に向き合う姿は、周囲に大きな影響を与え、関わった人の人生を豊かにする原動力となる。
 一整がそこまで責任を負う必要はないのではないか。書店の仲間は誰もがそう感じた不運な事故。しかし、事情を知らない他人は、車に撥ねられるまで万引きした少年を追い詰める必要はなかったのではないかと非難する。抗議や非難が書店が入居しているデパートにまで及んできたことから、一整は自分の未来を描いていた書店を辞めることを決断をした。
   一整が売り出そうとしていた小説「四月の魚」の主人公リカコは40代で癌になり余命宣告を受ける。様々な宗教書を読みあさり、命のこと、夢見ること、誰かや何かを愛することについて考え、思い出を振り返る。叶わない思いを抱いたまま愛する家族と別れなければならない、その過去な運命を受け入れることの苦さ、聖書に記されている「苦い杯を受け入れて初めて永遠の命を得る」という一節、主人公の一整もその生い立ちを考えると、苦い杯を何回も受け入れている。そして、この不運な事故に対する無関係な他人からの抗議という苦い杯を受け入れた時、一整は田舎の書店という自分の居場所を与えられ、新たなステージに進んでいる。その間、一整の仕事に対する真摯な姿に共感したかつての同僚達が連携し、「四月の魚」を売り出すためのキャンペーンに奔走する姿が描かれていて、苦い杯を何回も飲まざるを得なかった、しかし、それに真摯に向き合ってきた人への応援ソングのような物語に感じた。
   物語の冒頭で描かれている廃校となった田舎の小学校とその図書室に住む子猫、読んでいる時は、なぜ物語とほとんど関係していないエピソードを冒頭に持ってきたのかと疑問を感じたが、読み終わってみると、これが作者が描いた物語の原風景なんだと納得した。物語全体を通してそんな原風景が見えてくる、そして、桜の季節の香りをかすかに感じる物語です。

 

 

 



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