カタチあるもの

宇宙、自然の写真をメインに撮っていますが、時々、読書、日常出来事について書きます。

【恩田 陸】 夜のピクニック

2018-05-18 06:36:47 | 読書_感想

 

 【概 要】

作  者  : 恩田 陸
発表年度 : 2004年
出版社  : 新潮社
受  賞  : 2005年度 本屋大賞

【ストーリー】
 主人公は進学校に通う甲田 貴子と西脇 融。二人は同じ歳で、貴子は融の父親が貴子の母親と浮気してできた子供、融の家はそのことが原因でいつでもぎこちなく、心通わない雰囲気があった。そんな環境で育ったこともあり、甲田親子を認めたくない気持ちが強かった。
 二人の父親は中学生の時に亡くなり、貴子は母親とともに葬儀に出席した。母親は違っても兄妹、少し期待する気持ちを持って葬儀に出席したが、融の冷たい視線を受け、西脇親子に恨まれていることを自覚した。
 二人は偶然に同じ高校に進学し、3年生の時に同じクラスになる。融は貴子を徹底的に無視、貴子は冷たい視線に耐えていた。もちろん、学校の友人達にも二人の関係を話したことはないが、周りの友人達は二人がお互いに意識しあっていると感じていた。
 毎年秋に開催される大歩行祭、二人の友人達は、それぞれに歩行祭を通して二人の関係を進展させてあげたいと画策する。
 一方、貴子は歩行祭の時に融に話しかけて返事をもらうという賭けをしていた。

【感 想】
 父親の浮気相手の異母兄妹が同じクラスにいる。こんな状況はそうそうないと思うが、そんな設定がこの物語のベースになっている。
 融は家庭を壊した憎むべき親子と思い込もうとしている。一方、貴子は、世界で二人だけの兄妹だから、いがみ合うのではなく助け合ったり、励まし合ったり、協力し合える関係になりたいと願っている。
 貴子の親友である美和子と杏奈は、貴子の母親から融のことを聞いていたが、貴子はこのことを知らなかった。二人は貴子と融の関係を側から見ていて、ひそかに一歩進ませてあげたいと思っている。特に杏奈は融への想いもあり、アメリカから弟を起爆剤として差し向けていた。貴子の性格や心情を十分に理解した上で、”新たな段階へ登らせてあげたい”というちょっとだけレベルの高い思いやりで接していたところが好感が持てた。高校生という年代でここまで考えてあげられる。頭が良いというだけではなく、人間としてのレベルの高さがうらやましく思えるような関係だった。
 一方、融の親友の忍は、融と貴子がお互いに意識し合い、ふっ付きたいと思っているように感じ、密かに持っていた貴子への想いを断ち切って二人の願いを叶える手助けをしようと画策する。
 80kmをただ歩くだけという過酷な歩行祭、それを共に歩いたという一体感の中でこそ変えることのできる関係、それぞれの心情や積み重ねてきた想い、そして友人への思いやり、物語は歩くようなペースで進んでいく。
 女性に読んでほしい小説第○位なんて帯に書かれていて、レジに持って行くのにためらった部分もあったが、読後は80km 歩いた充実感? 一体感? のようなものがあり、読んでよかったと思える小説だった。

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿