カタチあるもの

宇宙、自然の写真をメインに撮っていますが、時々、読書、日常出来事について書きます。

【恩田 陸】 チョコレートコスモス

2018-06-08 07:36:27 | 読書_感想

 

 

【作品概要】
  作 者  恩田 陸
  発 表  2012年
  出版社  角川書店

【ストーリー】
 佐々木 飛鳥は今年W大に入学した。実家は空手道場を経営していて、飛鳥も小さい頃から空手の手ほどきを受けてきた。小学生の頃は勝負に執着を持ちすぎて恐怖心を持っていないことを心配した兄は、空手の初心者と対戦させた。対戦相手の予測できない動きに動揺した飛鳥は勝負に負けた上に手と足を骨折してしまった。

 入院中、隣のベットの患者に誘われて観た黒澤映画に魅了された。お隣の入院患者は映画関係者らしく、持ち込んでいたビデオデッキで名作映画を次々と飛鳥に見せてくれた。
 退院して日常生活に戻り、再び鍛錬の日々が始まったが、そこに映画が加わった。飛鳥は何でも観た。ミステリードラマ、連続ドラマ、ホームドラマや時代劇、映画も観られるものは片っ端から観た。飛鳥は興味を持ったら突き詰めずにはいられない性格だった。記憶力がずば抜けている飛鳥は観たものすべてを記憶していった。そして、いつしか飛鳥の興味は、映画の面白さよりは、物語の背景の構造や進行、人物相関図に移っていった。

 高校生になって初めて観た芝居の舞台、東 響子が主演する「ハムレット」だった。飛鳥は東 響子が醸し出す奥深い世界に魅了された。その晩、暗い道場で東 響子の芝居を再現していた。物語のストーリー、台詞どころかちょっとした仕草までも記憶していた。飛鳥は、なぜ東 響子があんなにもキラキラしていたのか知りたかったのだ。それからは、街を歩く人のちょっとした仕草を演技でコピーしていった。

 大学では演劇部に入部しようと思って見学したが、どうもしっくりこなかった。そんなある日、公園でW大の演劇部をはみ出て劇団を結成したグループの練習を見た。彼らはあまりにも個性がありすぎて演劇部になじめなかったのだ。彼らから東 響子に似たエネルギーが感じられた。すぐに、彼らのところに行き入団希望を伝えた。劇団のリーダー新垣は、実演販売の演技をしてみろと飛鳥に言った。飛鳥は夢中で演技をした。

【感 想】
 物語の中で描かれている飛鳥は、興味あることを納得のいくまで突き詰めるということに懸命な女性。中学生の頃から映画・舞台・ドラマのストーリー組立てや台詞・演技の構成がどのようになっているかを考察することが興味の中心だった。東 響子の舞台を観てからは、演技を突き詰めた人だけが感得することのできる舞台のひとつ高次の空間を体験してみたいということが加わった。
 飛鳥はどんなことをしても女優になりたい、他人から評価を得たい等ということは全く考えていない。ましてや自分が女優としての才能があるなどとは思いつきもしない。ただ知りたい、自分も感じてみたいという想いだけで女優への道を走っている。

 どんなことをしてでも女優になりたいという欲望、そのために演技を磨く。あるいは女優という立場が好きで、そんな姿にあこがれて演技を磨く。
 観ている人に何かを感じさせるストーリー組立て、演技、台詞の構成に興味があり考察することが好きだ、舞台のひとつ奥の世界を体験してみたいという純粋な欲望、そのために演技する。
 どれも欲を基盤として高みを目指しているのであり、優劣があるわけではないのですが、純粋な欲望は他人の評価を気にしない、脇道にそれない、好きで突き詰めていく、結局は成長が速いということなんだと思います。
 ちょっと前までの卓球は中国の独壇場でしたが、今は、10代の選手が中国のトップ選手に追いつこうとしています。純粋な欲望の年代だからこれほど成長が速いのかもしれません。チョコレートコスモスを読み終わり、感想を考えている時にこんなことが思い浮かびました。

 本作では残念ながら、女優としての入り口に立った段階で終わっています。本来は三部作で予定されていたようなのですが、連載していた雑誌が休刊になってしまい、第二部の途中で中断状態のようです。飛鳥がこれからどうなっていくのか興味あるところなんですが残念。

  



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