特発性側弯症の治療は長い年月が必要になると考えて欲しいのです。
治療を途中で止めてしまうことによる悲劇を繰り返して欲しくないので、
カテゴリーに「側弯症治療を途中でやめないで」を追加しました。
これは同カテゴリー2番目の症例報告となります。
(参考「13歳発症、3年間で側弯症治療を中止し、その後36歳で死亡した例」)
状況説明
・12才のときに特発性側弯症の診断により通院していた。しかし、やがて途絶した。
↓
・23才、腰痛により来院。コブ角測定より 胸椎カーブ92度、腰椎カーブ39度
高度体幹バランス不全、著明なリブハンプ発現していた。
・25才、脊柱固定手術施行 (前方侵入、後方侵入の両手術に加えてPonta骨切り術その他を併用)
☞この症例報告が専門誌(整形外科と災害外科 66)に掲載されたのは 昨年2017年 です。
おそらく2002年ないし2003年当時12才の女の子が特発性側弯症と診断を受けた後、
どうして途中で通院しなくなったのか、その理由は記載されていませんが
手術にいたるまでの 13年間 カーブが進行を続けていたことになります。
一般的には カーブが50度から60度になると、外見に変化が現れてきます。
この患者さんの場合は、リブハンプもかなり目立っていたことが記載されていました。
個人差はありますが、70度を超えると洋服の上からも、バランスの違いが目立つようになってきます。
☞コブ角90度の手術というのは、「大手術」と言えるものです。いかに側弯手術の技術が進歩した
とはいえ、90度のカーブを矯正するには、とてもリスクの高い手術と言えます。
リスクとは、患者さん側もそうですが、手術をする医師側にもあることを知って欲しいと思います
おそらく10数年~20年以上前であれば、リスクが高すぎて医師側が手術することをためらう事例は
たくさんあったと思います。
この術後のレントゲン写真から見えてくるのは、脊柱固定手術の技術の進歩です。
手術のテクニックは言うに及びません。まさに素晴らしいの一言につきると思います。
それに加えて、術前の(CTやMRIなどを含む)検査能力の向上
これだけ曲がった脊柱では、どこに血管があり、どこに神経があるかは個人個人で異なってきますので
それを正確に検査する医療機器の進歩はかかせません。もちろん実際には、それらの検査結果を
踏まえて、正確なメスさばきをする医師の技術が必要とされるわけです。
「神経モニターシステム」も絶対必須な医療機器であり、脊椎手術を実施する医療機関に
広く普及しています。(神経モニターについては、カテゴリ「脊椎手術術中モニタリング」
を参照ください) この装置を手術中に用いることで、患者さんの脊髄、神経を傷つけることなく
進行させることが可能です。この装置で術中モニタリングを行う技師の皆さんの知識、経験も
安全な手術には欠かせません。
患者さんからはなかなか見えない分野ですが、麻酔医師の存在と、麻酔関連の医療機器の進歩も
安全な手術には絶対必須なものです。いわば手術を支える縁の下の力持ち的存在です。
数え上げたらきりのないほどに、側弯症手術 (にかぎらず全ての手術が) 大きな進歩を遂げている
そのことをぜひとも知っていただきたいと思います。
でも、できるうるならば、いろいろな事情があったのだと思いますが
もっとコブ角の小さいときに 50度、60度とかで手術することのほうが、患者さんの今後の生活には
よりメリットが大きいことも、どうか忘れないで欲しいと思います。
(参考「手術をするならいつが良いか (私見)」)
(参考「側わん症 手術のタイミングを逃さない事 ! それは親の責任です」)
(参考「側湾症手術のタイミングについて」)
☞いろいろな事情があって通院することを止めてしまったのだと思いますが
こうして大手術を乗り越えて、術後コブ角 25度 というのはとても素晴らしい矯正を得ることができ
本当に幸いだったと思います。
こどもが罹る病気はどれも比較することのできない、辛い出来事です。
本人はもとよりのこと、ご両親にとっても。
特発性側弯症のひとつの特徴は、特に思春期の女の子に多く発症するということ。自我が芽生え
女の子らしい姿にあこがれが強くなる年頃に、その大切な姿を失うかもしれないという恐怖は
男の私にはとても想像のできないものです。
その恐怖と10年以上も戦い続けていた、この女性のこころを想像すると、言葉がでません。
手術を決断するまでも、心の中での葛藤は続いていたと思います。
でも、あなたはそれに立ち向かって、ひとつの壁を乗り越えたのですから
どうか、ご自分の中に自信を取り戻してください。 あなたの姿は守られたのですから、
そして命が守られたのですから。
あなたの人生はまだこれからも続きます。
辛かったこと、悲しかったことを
どうか ひとつの糧に変えて
人生に立ち向かって欲しいと願います
この試練を乗り越えることのできた あなたですから
これからは、どんな壁もきっと 小さく見えるのでは ないでしょうか
☞ここから先は、このような事例を繰り返さない為の一般論として記載します。
なぜ通院することを途中で止めたのか、どういう経緯で改めて病院で診てもらおうと考えたのか
そのあたりの事情はまったく不明ですので、ここから先はいわば仮説のことになりますが、
次のような幾つかの背景はありえると思います。
・医者からの誤った説明によるもの
2002~年当時12才頃にはすでに骨成熟が完了していて、これ以上のカーブ進行はない、
と医師から言われ、それを信じて、いつのまにか時間が経過してしまった。
・急激な進行によるもの
12才当時は、かなりコブ角は小さなもので、医者にせよ本人にせよ、あまり気にするものでは
なかった。それが13年間に急激に進行した。
・装具療法を受け入れることができなかった
病院に行き、カーブ進行時は装具療法になると説明を受け、装具を受け入れられず、
病院に行くこと自体を忌避してしまった。
整体などの民間療法が関与したかどうかはわかりません。
ただ、私は、「側弯は治る」という安易なキャッチコピーを流し続ける側弯整体をはじめとする
民間療法者の宣伝広告は絶対に取り締まるべき。ということを ここに幾度でも
申し上げたいと思います。
側弯症の治療は、経験豊富な専門医師のいる専門病院で行われるべきであって
マンションの一室で行うような民間療法者が手をだす疾患ではありません。
このカテゴリー「側弯症治療を途中でやめないで」に記載していますように
思春期特発性側弯症は、骨成熟が終えたのちも、大人になってからも進行する性質を持っています。
大切なことは、専門医師に診てもらい、先生がたと長くつきあっていく、という治療ルートと
経験を持つことです。 側弯症の正しい知識を持つことです。
正しい知識を持つために、専門とする先生から話を聞くことです。
たとえば「患者の会」に入会して、より身近な話として情報を得ることです。
お父さん、お母さんがたに伝えたいことは
お子さんの身体を守るのは、民間療法者ではありません
お子さんのこれからの長い人生を守るのは、
ご両親の見識と、そして愛情 です
ご両親がすべきことは、専門医師のいる専門病院を探して
そこに お子さんを連れていくことから 始めて欲しいのです
august03