「たしかにしかたのないことですが、その結果、投票を棄権する有権者が増えれば、組織票を持つ候補者の思うつぼです。あるいは、メディア時代においては目立つことに長けた人物が有利になるでしょう。さらに、絶対評価で当選資質が高い人が選ばれるのではなく、有権者は候補者同士の相対評価を余儀なくされる上、前任者との比較が後任を選ぶ際に大きく影響します。行動経済学で言うところの認知バイアスの問題です。人間は、ある目立ちやすい特徴によって、他の特徴の評価がゆがめられます。具体的には、前任者が『自分にとって理想的でなかった』という理由で真逆の人物が有利になることが繰り返されれば、クリントン後任者の取る政策はABCとなるでしょう」
「ABC?」
「All But Clinton(すべてクリントンの真逆)の略です。前任者個人がどんなに気に入らなかったとしても、うまく行っていた施策まで否定してしまえば、リスクを抱え込むことになります。振り子の原理が20世紀前半まで機能していたのは、民主党の貧困対策のリベラルな施策と、共和党の富裕層中心の保守的施策が交代で行われていたからです。しかし、クリントンは中道路線を取り、有効だと思えば節操の無いくらいイデオロギーに囚われない政権運営で成功しましたが、ポスト中道政治の処方箋は見えていません」
「なるほど分かってきたわ。今後の大統領は、対立軸のない国民感情に基づく振り子の原理による人物が選ばれるようになるかも知れないと言いたいのね」
「さすがにご理解が早うございます。演説下手な人物の後にスムーズな語り手が選ばれたり、不人気な戦争を始めるなど国を分断させる大統領の後に統合の象徴的人物が選ばれたりする可能性もあります」
「だけど、州知事の時代は必ずしも悪い時代じゃないのでは? 俳優出身のレーガンを偉大な大統領と見なすアメリカ人は多いし、クリントンだって大きな業績を残しつつある」
「レーガンは、ハリウッドの俳優組合書記長を経てカリフォルニア州知事時代に行政府の長としての経験を積み、有能なスタッフにまかせるスタイルを作り上げていました。クリントンはアーカンソー州で当時の最年少検事総長、最年少州知事で、全国州知事会議や党内部でも一目置かれる才覚の持ち主でした。今後も彼らほどの手腕を持った人物が出てくるかは疑問です。さらに危惧されるのは、白人中心の政治に有権者が幻滅して黒人やアジア人から大統領が誕生したり、政治家全体に幻滅する空気が生まれ、ビジネス界出身者や知名度が高いだけの芸能人が選ばれる可能性です。誤解して欲しくありませんが、黒人やビジネス界出身者を大統領にすべきでないと言っているわけではありません」
「わたしは能力第一主義だし、肌の色なんてその人物の本質とはまったく関係ないと思うけど、隠れた差別心の問題ね」
「その通りでございます。選挙では有利に働いたアウトサイダーという特徴を持った候補者は、就任後に政治基盤の脆弱性という問題に直面するでしょう」
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