ジェフは話を続けた。例えば、黒人大統領が誕生した場合、エスタブリッシュメントからどこまで支持を受けられるかは疑問であり、大胆なビジョンを打ち出して成功するより、個々のプログラムを目の敵にされる危険があります。ビジネス界出身者の場合、さらに問題は深刻でこれまで批判してきた政治家に今や自分がなってしまったという根本的な矛盾を解決できません。行政経験がないくせに自信満々で政策的迷走を繰り返す結果として、政界主流派や官僚からそっぽを向かれ、支持層だけに顔を向けるポピュリストになりかねません。そうした状況が続けば、『機会の国』という移民国家の理念より白人中心国家の復権というノスタルジーが支配する国になっていくでしょう」
「ありがとう。気がかりの理由が少し分かった気がするわ。今後、アメリカは悪夢が支配する国になりかねない。『アメリカの夢』がむしばまれて、国が内部から弱体化していく……人間とは本当に救いようがない。短期的な対応として火急の手段を取っても、長期的にはマイナスに働くことが見えない。長期的に必要だと思ったことでも、短期的なマイナスがあれば実行を避けてしまう」
その時、3年前に感じたのと同じ波動を感じて、彼女は総毛立った。
「まさか、またみんなが!? ジェフ、すぐ屋上に」
二人は屋上へ直行する高速エレベータに飛び乗った。
前回はクリストフが一緒だったが、今回はカル、ルル、キルだけがマクミラについていった。エレベータを飛び出したジェフは、かつて見た悪夢を思い出し鳥肌が立った。
目の前で時空間がゆがみ、裂け始めていた。
星空が消え去って、景色が真っ暗になる。
焚き火に爆竹を投げ込んだような音を立てて裂け目が渦巻き、冷たい炎が吹き出す。子供の絵本にあるファイヤー・ドラゴンが、夜空に浮かび上がった。3年前には、口から紫の煙をあげるドラゴンの背には、おそろしく不機嫌な顔をした紅色に燃えたつ髪をした男が乗っていたが今回は誰もいない。
次の瞬間、眠りについた街をたたき起こすような轟音が鳴り響き、冥界の神々が再び降臨した。インフェルノがファイアー・ドラゴンからヌーヴェルヴァーグ・タワー最上階にはき出された。炎の中から、マントを羽織った三人の姿が浮かび上がった。
しばしの静寂の後、彼らのオーラを感じてマクミラがニヤリとする。
彼女のハスキー・ボイスが闇夜に響いた。
「お兄様たち、ミスティラ、また会えてうれしいわ」
肩幅が広く筋肉質のアストロラーベが、セクシーな声で答える。「マクミラよ、緊急事態だ。挨拶をしている暇もないほどの……プルートゥ様も冥界で対応にかかり切りになられている」
2メートル近い大男スカルラーベは、以前は脳みそも筋肉で出来ていそうな雰囲気だったが、ライムと恋愛してクールな軍人のようになっていた。頼りがいのある声で言う。
「マクミラよ、俺が来たからには何も心配するな」
ミスティラが、蚊の鳴くような声で言う。
「お姉様、今回こそ足手まといにならないようがんばりますわ……」
「挨拶はそこそこに。分断、怒り、怨みが世界にマグマのように煮えたぎっている。何が起こりつつあるのは感じてたわ。お兄様たちとミスティラまで来たのには、それと関係が?」
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