「ダメージを与えたつもりか?」アストロラーベにこたえた様子はない。「私もサラマンダーの血を継ぐもの。冥界の業火は、逆に力を与えてくれるわ」
「お兄様、お分かりになりませぬか?」リギスが、マクミラの声で言う。「それは本当の狙いではありません。お手元をご覧くださいませ」
言われたアストロラーベが半透明の槍を見た。中身がゴボゴボと音を立てて沸騰していた。
「これでどこに消えても現れた瞬間、音でわかりますわ。お兄様」
「さすがだな。マクミラの姿を取る以上、それくらいはしてもらわないと。今、お前が沸騰させたのはアケロンの水だ。まだ、他の3つの川の水が残っている。水を取り替えてしまえば、もう沸騰音など役には立たないぞ」
フン。アストロラーベが力を込めると業火が体内に引っ込んだ。同時に、槍の内部がすんだ半透明に戻った。「今度の槍の内部は火の川ピュリプレゲドンから取ってきた水。地獄の業火程度では、沸騰させることはできぬぞ」
「ククク、お兄様、楽しませてくれるわ」
マクミラの姿のリギスが、再び高々と両腕を高く上げた。
ファントム・パラダイス!
リギスの全身が再び光につつまれた次の瞬間、そこにいたのは数千の鏡に写ったスカルラーベだった。
「やれやれ、今度は将軍殿か。楽しませてくれるとは、こちらのセリフよ」
「軍師殿と闘うのは夢でござった」スカルラーベの声で、リギスがうそぶく。「いざ勝負とまいろう」
言うが早いか、巨大な鎌が一閃された。だが、アストロラーベは造作なく半透明の槍で受け止める。
激しいつばぜり合いが続いた。優男風のアストロラーベだが、スカルラーベに力でもひけを取らない。
スカルラーベを思いっきり、はじき飛ばして距離を取る。アストロラーベの漆黒のマントがビリビリと裂けて、青い羽が左右にゆっくり広がった。半透明の剣が宙を切り裂いて、青い炎が次々と生み出される。生命を持ったかのように炎は、獲物を求める3つ首ドラゴンになった。
はじき飛ばされたスカルラーベも白いマントをビリビリと切り裂いて、真っ黒な羽をゆっくり広げた。大鎌を振り回して、白炎を次々と生み出す。
鎌を一閃する度に炎の数がふえて、やがてひとつの兄弟な炎になり、すべてを焼き尽くそうとする3つ首白色ドラゴンになった。サラマンダーの血の薄いマクミラの場合、出せる炎は摂氏三千度の熱。それに対して、サラマンダーの血が濃いアストロラーベの炎が六千度、性格が母親そっくりなスカルラーベの炎は九千度から時に一万度さえ超える。
白色ドラゴンが、アストロラーベに襲いかかった。
アストロラーベの青い3つ首ドラゴンが、白い3つ首ドラゴンによって燃え尽きたように見えた。だが、炎が消えた時、そこにあったのは宙に浮かぶアストロラーベの姿だった。
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