「ムダだ・・・・・・スカルラーベ将軍の力の源泉は怒りだ。単なる現身の熱では、サラマンダーの血を引く私を倒すことはできないと言ったではないか」
「軍師殿、狙いは兄上ご自身ではござらぬ。槍をご覧くだされ」
皆が槍をのぞき込むと、沸騰しないはずの炎の川ピュリプレゲドンの水が蒸発してなくなっている。
「さあ、どうされます? これで槍の力は残り2つ・・・・・・」
「楽しませてくれるな」アストロラーベが再びフン、と力を込めると、槍に新たな水が満ちる。「まさかここで我が技を自身に使うことになるとは・・・・・・」
落ち着きをもたらす「癒しの物質セロトニン」と恍惚感をもたらす「脳内麻薬エンドルフィン」が大量に含まれているステュクスの水が槍の中に現れた。それが身体に入ると、落ち着きと恍惚感に引き裂かれた味方は痛みを感じなくなる。アストロラーベが、槍を自分自身に突き刺した。
「さあ、もう残るは冥界の忘却の川レテの水のみ。勝負は、私がお前の記憶を消すか、私がお前にやられるかだ」
「軍師殿、我が最大の秘技をまだ使っていないことを、お忘れではあるまい?」
ライムが変化したスカルラーベが身構えた。まるで目の前の空気をつかもうとするかのように交差した両手の爪が動くとブルブルと震えて、その爪が後ろに引っ張られる。
次の瞬間、スカルラーベが叫ぶと腕が目の前の空気を上方に引き裂いた。
秘技スーパー・バックドラフト!
回りの空気が吸い込まれるようになくなって、強大なコロナが誕生した。
ドッカーン!
大音響の後、一面が炎に包まれた。核爆弾が炸裂したかのような光の流れのせいで、中心部はまったく何も見えなかった。炎が燃え尽きた後、今度はそこに誰もいなくなっていた。
「軍師殿も、我がファントム・パラダイスによって滅びたか。実の弟の手にかかるのであれば本望であろう」スカルラーベの声でリギスがつぶやいた。
次の瞬間、突然、現れた半透明の槍がスカルラーベの胸をつらぬいた。手にしていたのは、全身が炎につつまれたアストロラーベだった。
「油断したな。炎はサラマンダーの血を引く私を強化すると言わなかったか? 熱はすべて私自身の体内に取り込んだ。今、お主に注入したのは、手つかずで残っていたレテ川の水だ」
忘却の川の水を注入されたリギスが、がっくり頭を垂れた。
アストロラーベは思った。
また生き残ってしまったか・・・・・・
さすがの唄姫リギスも、戦闘能力の判断を誤ったか。私を倒したかったならばマクミラやスカルラーベではなく、アフロンディーヌになればよかったのだ。やすやすと、いや望んでころされてやったものを。あるいは、私が一番会いたかったアフロンディーヌに会わせなかったのだから、これこそ「なやますもの」の真骨頂か? フッ、冥界の軍師ともあろうものが、なにをバカなことを考えているのか。
気がつくと、アストロラーベの第三の部屋の勝負が長引いたため、残り時間はわずか111分間になっていた。
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