ISDで自由化される解雇 外圧が促進する解雇自由化
3月5日付赤旗にISD条項に関する僕のインタビュー記事が掲載された。
このスペースで、よく要領よくISD条項について、まとめていただいたと感心する。
とても僕には、こんなに要領よくまとめる能力はない。
「3分でわかるISD条項」である。
せっかくだから、記事を貼り付けておこう。
判決もISDの対象になる。
外国投資家の利益を害すれば、海外仲裁に出されるのだ。
判決が海外の仲裁人団によって裁かれることは、どこの国の法律家にとっても屈辱的だ。
だから、多くの国の法律家が、裁判をISDの対象から除くことを主張している。
国民にとっても、判決がISDの対象になることは極めて深刻だ。
外資相手に国内で裁判を起こしたとしよう。
外資は巨大な相手だから、困難な裁判だ。
10年裁判になっても何もおかしくはない。
地裁、高裁、最高裁と争って、ようやく外資に対する勝訴判決が確定したとしよう。
判決が、ISDの対象になるということは、この最高裁判決が違法だとして、損害賠償や原状回復を求めて、政府を相手とするISD仲裁を起こすことを外資に対して認めるということである。
公正衡平待遇義務とか、最低待遇義務とかに違反するという理屈を付ければ、外資は、いつでも国内判決を海外の仲裁廷に持ち出し、弾劾することができる。
TPPの規定の体裁に即して言えば、判決が「国際慣習法」に違反するという理屈づけもできる。
この結果、TPPは解雇を自由化する。
わが国では、解雇権を濫用する解雇は無効だとするのは確立した法理だ。
また、わが国では、整理解雇の有効性は、整理解雇の必要性や人選の適切性などの4要素を考慮して判断するとするのが判例である。
しかし、こうした解雇制限は、国際的には普遍的なものではない。
したがって、外資は容易にこれを公正衡平待遇義務や最低基準待遇義務に違反するとしてISD仲裁を持ち出して、政府に損害賠償を求めることが可能だ。
ISD仲裁の仲裁人の大半は世界を股にかけて各国の税金を巻き上げることを生業としているビジネスロイヤーであるから、日本の特殊な考え方は、国際慣習法たる公正衡平待遇義務に違反するとして日本政府に対して賠償を命じることはほぼ確実である。
解雇制限法理を変えなければ、外資は何度でもISD仲裁を申立て、政府は繰り返し賠償を命じられるだろう。
賠償を命じられることがわかっているような解雇制限法理を維持し続けることはできない。
これは極めて見やすい理屈で、韓国法務省も米韓FTA交渉中の検討では、整理解雇に関する韓国裁判例が変更を余儀なくされること、あるいは立法的手当を要することを問題にしていた。
そして韓国大法院は、判決をISDの対象から除くことを提案していた。
現実に日本IBMが2012年に行った大量解雇が、東京地裁で争われている。
ビジネスジャーナル2013年1月8日付が次のようにIBMの事件を紹介している。
ビジネスジャーナル2013年1月8日
「IBM大量解雇、ついに訴訟へ 「明日から出社不要」(上司)」
複数の社員によれば、それは決まって夕方、退社時間の少し前に起こる。上司から突然呼び出され、別室で解雇が通知される。併せて「退社時間までに荷物をまとめて会社を出るように。明日からは出社に及ばず」と告げられる。業務の引き継ぎもなければ、同僚へのあいさつもない。問答無用で社員を叩き出すこうした解雇は、ロックアウトと呼ばれる。
解雇理由は「個人の勤務成績不良」というが、どの解雇通知にも同じ定型文が印刷されているだけ。その内容は
「貴殿は、業績が低い状態が続いており、その間、会社は様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず、会社は、もはやこの状態を放っておくことができないと判断しました。以上が貴殿を解雇する理由となります」
というもので、一言一句変わらず、個人ごとに業績や努力を検討した形跡はうかがえない。
IBM関係者が語る。
「しかもその際、自ら退職する意思を示せば解雇を退職に切り替え、退職加算金と再就職支援をする、と付け加えるのです。それを選べば、解雇撤回を争う道はほぼ閉ざされますが、切羽詰まったなか、加算金を選ぶ被解雇者が多いようです」
IBMは「TPPのための米国企業連合」のメンバーである。
TPPが発効すれば、この事件は、ISD仲裁に持ち出される可能性が高い。
労働者が当事者とされない場で、外国投資家保護の観点から、解雇問題が法的に争われるのだ。
東京都の元労働委員会の方が僕のインタビュー記事を引用して、3月5日付のブログに書いておられる。
おれは都労委委員現職当時、マスコミや金融の外 資系企業の不当労働行為事件をいくつも担当してきた。「解雇規制の日本の法律は無視する」と広言してはばからない外資経営者もいた。ISDはそいつらを援 護し武器を与える。日本の法秩序が根底から揺るがされる危険があるのだ。
ISDの仲裁廷はどんな仕組みで運営されるのか。「ISDでは紛争のたびに3人の仲裁人を選任し判断を委ねます。提訴した外国投資家が1人、訴えられた政府が1人を選任し、残る1人は両者の合意によって選びます。3人が出した結論には当事者は従わなければなりません」。
問題はその仲裁人だ。ことは外国投資家との紛争なのでその辺の事情に詳しくなければならない。そんな理由からほとんどが国際的なビジネス弁護士になって しまう。この国際的なビジネス弁護士というのが曲者で、企業利益のためなら国家主権の侵害などつゆほども気に留めない。おれはそういったたぐいのビジネス 弁護士にしばしばお目にかかったことがある。あいつらにだけは日本を滅茶苦茶にされたくない。
世界を股にかけて、税金から荒稼ぎをするのが、最先端の国際ビジネスロイヤーである。
国家や国民にとっては、ごろつきみたいな連中が、最高裁の上位に座って最高裁の判決を審査するのである。
現実にISDが起こされなくても、ISDで裁かれる可能性があるという圧力が裁判をゆがめる危険性も十分にある。
国内でTPPに呼応する勢力によって、解雇の金銭解決の制度化が、執拗に追求されている。
彼らにとっては、TPPは恰好の追い風になっている。
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