2016年9月20日
wsws.org
オリバー・ストーン監督; ストーンとキーラン・フィッツジェラルドの共同脚本
1980年代中期以来、映画を監督してきたベテランのアメリカ人映画監督オリバー・ストーンが、国家安全保障局 (NSA) の内部告発者エドワード・スノーデンに関する映画を制作した。『スノーデン』は“愛国者”でイラク戦争の断固たる支持者だった、2004年のアメリカ陸軍予備役への特殊部隊候補者志願から、2013年に、世界監視というNSAの違法な取り組みを暴露するという決断に至るまでの題名となった主人公の変化を追っている。
『スノーデン』のジョゼフ・ゴードン=レヴィット
ストーンの映画は真面目な取り組みで、done with品位。『スノーデン』は北アメリカでは、9月16日に公開され、今週末までに、約20カ国で公開される。アメリカ政府とマスコミによって“国賊”と糾弾されている人物スノーデンの、概して好意的な描写をしている作品を、何百万人もの人々が見るというのは、相当な意味がある。これは、公式世論と、広範な国民の感情と意見の間の巨大な(しかも大きくなりつつある)溝を物語っている。特に、若者の間では、スノーデンは大いに尊敬される人物だ。
映画は、2013年6月、現在、身を隠しているスノーデン(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)と、ドキュメンタリー映画制作者のローラ・ポイトラス (メリッサ・レオ)と本物のジャーナリスト グレン・グリーンウォルド(ザカリー・クイント)とが出会う香港から始まる。彼らに、間もなく、余り気が進まないながらも、スノーデンが隠し持った秘密NSA文書の一部を公表することを計画しているガーディアン紙のイーウェン・マカスキル(トム・ウィルキンソン)が加わる。ポイトラスは、後にドキュメンタリー映画『シチズンフォー』(2014年)となるもののために、ビデオを撮影している。
豪華なミラ・ホテル内の雰囲気は、非常に緊張している。スノーデンは、ドアに枕を押しつけ、NSAやCIAが会合場所を特定するのを防ぐため、携帯電話は電子レンジの中に保管されている。スノーデンは、ジャーナリストや映画制作者たちに、NSAスパイ活動普及の度合いについての教育を始める。ポイトラスのドキュメンタリーが物語っているように、スノーデンから彼女が受け取った最初の電子メールの中で、“あなたが越える全ての国境、あなたがする全ての買い物、あなたがかける全ての電話、あなたがそばを通り過ぎる携帯電話電波塔、あなたの友人たち、見るサイト、あなたが入力するメール題名は、システムが及ぶ範囲が無限で、それへの抵抗策はないシステムの手中にあるのです”と彼は彼女に伝えていた。
香港の場面の後、ストーンの映画は、スノーデンのジョージア州、フォートベニングでの陸軍予備役時代へと戻る。彼はまだ、ブッシュ政権の“対テロ戦争”プロパガンダの影響下にある。負傷した後、除隊になり、CIAに職を見つける。彼はこの機関の教師で、最終的には、恩師となったコービン・オブライアン(リス・エヴァンス)に教育を受ける。オブライアンは、最初の講義で、もし“次の9/11がおきれば、それは君たちの責任だ。”と新兵に語る。
リス・エヴァンス
『スノーデン』の中核は、様々な政府のスパイ機関と、その事業の本質的性格に関する、主人公と、我々の最終的な悟りだ。例えば、オブライアンは、中東の状況に関して、スノーデンの誤った考えを捨てさせる。このCIA職員は素っ気なく言う。20年間“イラクは誰も気にしない地獄のような場所のままだろう。”彼は言う。紛争の中心は中国、ロシアとイランだ。
ジュネーブや東京やハワイなど様々な場所に転任し、その間、スノーデンは、CIA、NSA、あるいは、個人の契約業者として働きながら、諜報機関が壮大な規模で、憲法上の権利を侵害しているひどさに益々気づくようになる。
ジュネーブでは、例えば、皮肉で物知りの同僚、ガブリエル・ソル(ベン・シュネッツァー)が、スノーデンに、NSAの秘密計画の一つ、XKeyscoreが一体何ができるかをデモする。XKeyscoreは、基本的に、あらゆるプライバシー対策を回避できる極めて強力な検索エンジンだ。理論的には、政府の外国のスパイに対する監視令状要請を監督しているはずのFISA裁判所[アメリカ合州国外国情報活動監視裁判所]について問われると、裁判所のことを“もったいぶって安易に承認する組織”だとガブリエルは切って捨てた
最も背筋が寒くなるような場面の一つは“トンネル”として知られている、中国に対するスパイが業務のハワイの巨大な地下のNSAコンプレックスで起きる。大勢の技術者や工作員が、極めて先進的な装置を使って、アメリカの経済上、軍事上のライバル諸国を監視するため、四六時中働いている。アメリカの軍-諜報機関世界戦争に向けて準備する中、これこそがreal face国際テロ。オブライアンがあるところで言っている通り、“現代の戦場”は“あらゆる場所だ”。この時点までに、スノーデンは、“全世界に対して捜査網を敷いているとは教えてくれませんでした。”と言えるようになっている。
ガールフレンドのリンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)と暮らしていたハワイ州で、スノーデンは、NSAの秘密を全世界に暴露する計画をたて始める。
『スノーデン』制作に着手したオリバー・ストーンの功績は認めるべきだ。彼はこのために、あえて危険を冒したのだ。「バラエティー」誌に“良い脚本、良い配役と、妥当な予算なのに、我々はあらゆる主要スタジオで拒否されました。スタジオの所長は‘ああ、これは良い。話して見ましょう。問題はありません。’と言うのです。話が上にあがり、数日後、何も返事はないのです。”と監督は語っている。
スノーデン
デッドライン・ハリウッドのインタビューで、ストーンは言う。現在“アメリカに批判的な”映画を制作するのは困難です。そうではなく、ビン・ラディン映画[つまり、ゼロ・ダーク・サーティ]があるのです。世の中はそうなっていると思います。軍についてのあらゆること、CIAについてのあらゆること。テレビドラマ『Homeland』をご覧願いたい。『24』をご覧願いたい。トム・クランシーの様々な作品をご覧願いたい。 … この映画を制作するのがどれほど困難だったか申しあげたいのです。”
ストーンは、ロシアに出かけて、スノーデンに九回会ったと言われている。ゴードン=レヴィット(彼の祖父、映画監督のマイケル・ゴードンは、1950年代、ブラックリストに載せられた)も、モスクワを訪問し、スノーデンと数時話をした。『スノーデン』では、実際この俳優は、外面の模倣を越えている。ゴードン=レヴィットは主人公スノーデンと彼の深みと信念に関する重要な本質を把握している。更に、エヴァンズは特に邪悪で、ウッドリー、シュネッツァー、ティモシー・オリファント(CIA工作員役)やスコット・イーストウッド(NSAの中級将校役)も素晴らしい。
映画の強みは、まやかしの“不偏不党”を避け、物語をスノーデンの立場から語っていることだ。全く適切にも、彼の視点を前提としており、高まる戦慄は、何百万人ものアメリカ人や世界中の他の人々にも、共有されている。
スノーデンは、アメリカ国家と取り巻き連中による集団的な殺意ある敵意に直面し続けている。映画は彼のための発言になっている。その意味で、スノーデンが「ナショナル・レビュー」(“国産の煽動”)や「スレート」(“漏れがちなスノーデン神話 ”)など恥ずべき愚劣な攻撃を受けたと示唆しているのは絶賛に値する。先週、WSWSが述べた通り、彼は“国家安全保障に対し、大変な損害をもたらした”と主張し、スノーデンを恩赦しないよう強く要求する9月15日付けバラク・オバマ大統領宛て書簡に、下院情報問題常設特別調査委員会メンバー全員が署名した。ヒラリー・クリントンも同じ主張をしている。
オバマに関しては、映画は、2008年選挙が、NSAのスパイ怪物に対して、何の影響も無かったことを明らかにしている。スノーデンは、ある場面でこう発言する。“[オバマ]で物事は良くなるだろうと私は思っていた.” ルーク・ハーディングは、『スノーデン・ファイル: 地球上で最も追われている男の真実』(この映画が依拠している、二冊の本のうちの一冊)の中で、スノーデンの発言を引用している“権力の座について間もなく、彼[オバマ]は、体系的な法律違反捜査への扉を閉じ、いくつかの虐待的事業を深化、拡大し、人々が罪状も無しに監禁されている、グアンタナモに見られるような人権侵害の類を終わらせるために政治的資本を費やすことを拒んだ。”
「デッドライン・ハリウッド」に“連中が何を言おうと、オバマは多数の一般市民や多数の無辜の人々を殺害したのです。しかも連中は彼が妥当だと考えています。彼はブッシュより、多くの無人機を飛ばせました。彼は最高殺人者となったのです”とストーンが語っているのは立派だ。映画監督はこう続けた。“反戦政党が存在しないことを私は懸念しています。反戦の声は存在しません。民主党も共和党も、戦争を支持しています。”
ストーンは、極悪非道なNSA事業のタコのような特徴と活動範囲を、視覚的手段や、他の手法で、分かり易くしようとして、大いに苦心もしている。
とはいえ、『スノーデン』には重大な限界があるのも驚くべきことではない。映画は決して本気で答えようとしていない、そうした疑問の一つ、しかもそれは大きなものはこれだ。連中は一体なぜ、こういうことをしているのだろう? 一体なぜ、NSA、CIAやアメリカ政府全体が(そして世界中の他の諜報機関が)全面監視事業を行っているのだろう? 一体なぜ連中は、地球上のあらゆる男性、女性や子供の意見や習慣を知りたがるのか?
シァイリーン・ウッドリーとゴードン=レヴィット
このほぼ無限のスパイ行為は、2001年9月11日の出来事(オブライアンの上記発言を参照)に対する過剰反応に過ぎないという説得力の無い示唆は、真面目に検討するに値しない。そもそも大規模監視は何十年も前に始まっていたのだ。実際、9/11攻撃は事前にしっかり準備されていた計画を実施する好機となったに過ぎない(ある種の技術の発展にも依存していた)。スパイ行為の普遍性そのものが、深刻な経済的、社会的危機の時期に、あらゆるエリート支配者が自国民に対して感じる組織的なもの、強い恐怖感を物語っている。
関係する他の問題もある。スノーデン-ミルズのロマンスは、おおげさで、『スノーデン』で強調されすぎている。ストーンが、主人公を、大衆の目に対する人間味を与え、諜報世界と敵対すると決めた際、スノーデンがどれほどの犠牲を覚悟していたかを示したかっただろうことは確実だ。将来、内部告発者となると決めた決定的瞬間について、監督はこう語っている。“あの時点で、彼は彼女もあきらめたのです。彼はこの女性にほれ、彼女は10年間、生活の中にいたのです。… 二人は子供を持とうとしていたのです。彼はこの決断をし、それを彼女に言うことさえできなかったのです。” 監督の意図が何であれ、こういう関係は、より興味をそそる、重大な物事の邪魔になることが実に多い。
それはさておき、ストーンと共同脚本家キーラン・フィッツジェラルドと俳優たちが、配慮と献身によって、スノーデンの物語の重要な要素を映画にしてくれたのだ。このドラマには、現代における重大な問題のいくつかが含まれている。何よりも、独裁制と、戦争の危険だ。
スノーデン本人については、ストーンはインタビュアーに、こううまく語っている。“29歳の青年がこれだけのことをしたというのは、実に驚くべきことです。私にはあれは到底できなかった。あなただって、あの年で、ああいうことはできなかったでしょう。”
記事原文のurl:https://www.wsws.org/en/articles/2016/09/20/snow-s20.html
----------
「オリバー・ストーン監督の日本への警告 20170118 NEWS23」 は衝撃的。事実だろう。