モスルのダーイッシュが制圧したのは2014年1月にファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言してから5カ月後のことだった。その際、武装勢力はトヨタ製小型トラック「ハイラックス」を連ねて走行、自分たちの存在をアピールしていたが、アメリカ軍はそのパレードに手を出していない。アメリカにはスパイ衛星、偵察機、通信傍受、そしてエージェントによる情報網などで動きはつかんでいたはずで、知らなかったという言い訳は通用しない。
こうした状況の中、イラクの首相だったヌーリ・アル・マリキは2014年3月にサウジアラビアやカタールが反政府勢力へ資金を提供していると批判、ロシアへ接近する姿勢を見せていた。サウジアラビアやカタールだけでなく、アメリカがダーイッシュの黒幕だと認識していたのだろう。
そして4月に議会選挙があり、マリキが党首を務める法治国家連合が第1党になった。本来ならマリキが首相を続けることになるのだが、指名されていない。アメリカ政府が選挙に介入したと見られている。マリキはペルシャ湾岸産油国を批判しただけでなく、アメリカ軍の永続的な駐留やアメリカ兵の不逮捕特権を認めなかった人物で、アメリカ支配層には嫌われていた。
しかし、新しく首相になったハイデル・アル・アバディ首相もアメリカに背き、ロシアがシリア政府の要請で空爆を始めると、イラクもロシアに空爆を頼みたいという意思を示した。ロシア軍が本当にダーイッシュやアル・カイダ系武装集団、つまりサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を主力とする侵略勢力を攻撃するのを見て、心が動いたのだろう。
それに対し、アメリカはジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長を10月20日にイラクへ送り込む。同議長はイラク政府からロシアへ支援要請をするなと恫喝したようだが、その後もロシア、シリア、イランとの連携は続く。
ダーイッシュが売り出される2年前の時点で、アメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)は反シリア政府軍の主力はサラフィ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団だと指摘、バラク・オバマ政権が宣伝していた「穏健派」は存在しないとする報告書をホワイトハウスへ提出している。その中で東部シリア(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配国が作られる可能性があるとも警告されている。それがダーイッシュという形で現実になった。
そうした経緯があったこともあり、2014年にダーイッシュが登場するとオバマ政権の内部で激しい対立が起こり、その年の8月にDIA局長だったマイケル・フリン中将は解任されている。ファルージャやモスルをダーイッシュに支配させることはオバマ政権の主流派が望んでいたことだと言えるだろう。その翌月、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で証言している。
退役から1年後の2015年8月、フリン元DIA局長はアル・ジャジーラの番組へ出演、その際に自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、情報に基づく政策の決定はバラク・オバマ大統領が行うと指摘している。つまり、オバマ政権の決定がダーイッシュの勢力を拡大させたというわけだ。これは事実である。
フリンと同じようにダーイッシュやアル・カイダ系武装集団を危険だと考えていたデンプシー統合参謀本部議長は2015年9月25日に退役、その5日後にロシア軍はシリアで空爆を始めた。オバマ政権のメッセージに対する回答だ。
その後、ダーイッシュやアル・カイダ系武装勢力は急速に弱体化、アメリカやサウジアラビアは約9000名の「ムジャヒディン」をモスルからシリアのデリゾールやパルミラへ安全に移動させることで合意していたとされているが、一部はシリアへは向かわずに出身国へ戻ったようである。
この段階でバシャール・アル・アサド政権を倒して傀儡体制を樹立するという当初の目論見は蜂起、シリア北部を切り取る方針に切り替えたのだろう。そのプランでもラッカやデリゾールは重要。ラッカはアメリカ軍が制圧、デリゾールへ戦闘員を集中させる。
そのデリゾールへ向かっていたシリア政府軍をアメリカ主導軍のF-16戦闘機2機とA-10対地攻撃機2機が攻撃したのは2016年9月17日のことだった。空爆の7分後にダーイッシュの部隊が地上でシリア政府軍に対する攻撃を開始していることから、両者は連携していると見られている。28日には2つの橋を、30日にも別の橋2つをそれぞれ爆撃して破壊した。攻撃された当時、シリア政府軍はダーイッシュに対する攻撃を準備していた。また、アメリカ軍の偵察衛星のつかんだ情報が反政府軍へ渡されていた可能性が高いとする分析もある。
そうした流れの中でモスルをイラク政府軍が奪還したと宣伝されているのだが、アメリカはイラクの北部も切り取ろうとするはず。ダーイッシュにしろ、アル・カイダ系武装勢力にしろ、傭兵にすぎない。サウジアラビアなどが資金を出し、アメリカやイギリスが武器や兵器を提供、軍事訓練をするという仕組みが残っている限り、これからも出現する。タグが付け替えられるだけだ。
朝鮮がミサイルを発射したその日、中国の習近平国家主席とロシアのウラジミル・プーチン大統領はモスクワで会談、天然ガスのパイプラインや高速鉄道の建設など経済的な強い結びつきを示し、両国は戦略的なパートナーだと宣言している。アメリカは中国を甘い餌で引き戻し、中国とロシアを分断させるという「楽観的な見方をする親米派」もいたが、そうしたことにはなっていない。
それに対し、アメリカ海軍は7月2日、駆逐艦のステセムを西沙諸島のトリトン島から12海里(22キロメートル)のあたりを航行させて中国を挑発、中国側が軍艦と軍用機を派遣するということもあった。アメリカ政府にとって朝鮮のミサイル発射は願ってもないことであり、中距離弾道ミサイルよりICBMだとした方が良いだろう。
アメリカはロシアや中国との国境周辺にミサイルを配備、東アジアでは韓国にTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイル・システムをすでに持ち込み、日本は地上配備型イージスシステム「イージス・アショア」を導入するようだ。いずれも攻撃用ミサイルを発射することもできる。
1971年8月にリチャード・ニクソン米大統領が金とドルとの交換停止を発表した時点でアメリカ経済は破綻、それ以来、基軸通貨を発行する特権で生き延びてきた。発行したドルを回収するためにペトロダラーやそれに類する仕組みを作り、それでもだぶつくドルを吸い上げるために金融規制を大幅に緩和して投機市場を育成してきた。バブルとハイパーインフレの本質は同じだ。
その詐欺的な手法が限界に達し、ロシアや中国を中心にドル離れが起こっている。ドルが基軸通貨でなくなったなら、アメリカは破綻国家になる。世界的に見て彼らが比較的優位に立っているのは軍事力だけであり、それで支配システムを維持しようとしている。
それもロシアに比べると見劣りするのだが、他の国に比べれば強力。それを使ったり、傭兵を投入してアフガニスタン、イラク、リビア、シリア、ウクライナなどを破壊、多くの人々を殺してきた。同じことをユーラシア大陸の東岸で行っても不思議ではない。
朝鮮半島をリビアやシリアのようにすれば、中国は疲弊する。勿論、そうなれば日本も甚大な被害を受ける。戦争で破壊されるだけでなく、難民が押し寄せるだろう。そうした事態を防ぐためなら、早い段階でロシアや中国が朝鮮を攻撃する可能性もある。秘密保護法にしろ、盗聴法にしろ、共謀罪にしろ、そうした状況へ突入することを反対させないためには必要な法律だ。