亡き次男に捧げる冒険小説です。
二八(最終)
ハーラが右手を差し出した。
「テーリ、ナーレ、右手を重ねろ。」
言われるがまま二人はハーラの手に、自分の手を重ねた。唐突に何を始めるのかと、二人が怪訝な顔をする。
「義兄弟の契りっていうとさ、血の盃を飲み交わすとかお互いに傷を付けて血液を混ぜるとか、宗教じみた儀式をやるじゃない。」
途端にナーレが手を引っ込めた。
「ハー兄、それは勘弁してくれ。僕はそういうところ、潔癖なんだよ…。」
ははんとハーラが鼻が笑った。
「そんな野蛮なことをしようって言ってるんじゃないよ。僕らの《織》を同調させようって言ってるのさ。」
合点がいったテーリが、ナーレに説明を始めた。
「ハー兄が言いたいことは、三人とも魔法使いだろってことさ。ハー兄は《聖騎士》。僕が《野伏せり》兼《魔法技師》。そしてナーレは《吟遊詩人》。三人とも《織》を練れるだろう。だからその波長を同調させることで、義兄弟の契りとしようって言いたいのさ!ね、ハー兄?」
ご明察、とばかりに満足げな笑みを浮かべてハーラが大きく頷くと、ナーレはそうっと手を差し出した。
「そういうことか。ハー兄はやっぱりインテリだね。」
ハーラの言う義兄弟の契りを理解できなかったナーレは、気恥ずかしさを誤魔化すためにハーラをおちょくってみた。ハーラはイラッとした表情を見せたがすぐに気を取り直して、早速とばかりに《織》を練り出した。それに谺するようにテーリとナーレも《織》を練り出す。個々人で《織》の練り方には違いがあるため、慎重に波長を変えていく。《織》の明滅のタイミングが合ったり、合わなかったりを何度も何度も繰り返す。五分ほど苦戦しているうちに、不意に明滅がぴたりと一致した。
パッと光が弾けた後、重ねた手の上に緑に輝く《竜》の顔を模した紋様が浮かび上がった。こんな現象が起こるとは、誰一人予想だにしなかった。
「これってさ、《竜》のご加護とかその手の目出度いことの先触れかな?」
恐る恐るテーリが尋ねる。
「自分が学んできた《竜》に関する伝承なんかでは、こんな現象、見たことも聞いたこともないから、何とも言いようがないな…。」
驚きを隠さず震える声でハーラが答えた。ナーレはただ一人、平然としていた。
「僕たち《竜》に祝福されているんだよ。だってさ、さっきの魔獣との戦いだってそうじゃない。三人とも《竜》の力で生きのびたんだからさ。」
ハーラとテーリは同時にあぁと唸った。「三男坊」の言う通り、この三人は《竜》の祝福に守られている。どういう経緯で祝福を受けたのか知る由もないが、ナーレの言うことはもっともだ、と二人の兄貴分はナーレの説に乗ることにした。三人は緑に輝く竜の紋様を見つめながら、誰からとも知れずにお休みの言葉を交わして手を引っ込めた。途端に部屋が元の暗さに戻ったので、再び寝床に入った。間を置かずにスースーと三つの寝息が立ち始めた。
ハーラ、テーリ、ナーレの三人は義兄弟としての契りを結び、新たな人生と冒険の旅路へと歩み始めた。《ハテナ義兄弟》と後世の人々に讃えられる《パーティー》(冒険者の一党)が誕生した瞬間であった。
【第1話 素っ裸の出会い〜ハテナ義兄弟の契り〜】
【完】
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【第2話 〇一に続く】
次回更新 令和7年1月24日金曜日