旧・鮎の塩焼キングのブログ

80年代を「あの頃」として懐かしむブログでしたが、子を亡くした悲しみから立ち直ろうとするおじさんのブログに変わりました。

冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第1話 その28(最終)

2025-01-14 15:37:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


二八(最終)

 ハーラが右手を差し出した。

「テーリ、ナーレ、右手を重ねろ。」

言われるがまま二人はハーラの手に、自分の手を重ねた。唐突に何を始めるのかと、二人が怪訝な顔をする。

「義兄弟の契りっていうとさ、血の盃を飲み交わすとかお互いに傷を付けて血液を混ぜるとか、宗教じみた儀式をやるじゃない。」

途端にナーレが手を引っ込めた。

「ハー兄、それは勘弁してくれ。僕はそういうところ、潔癖なんだよ…。」

ははんとハーラが鼻が笑った。

「そんな野蛮なことをしようって言ってるんじゃないよ。僕らの《織》を同調させようって言ってるのさ。」

合点がいったテーリが、ナーレに説明を始めた。

「ハー兄が言いたいことは、三人とも魔法使いだろってことさ。ハー兄は《聖騎士》。僕が《野伏せり》兼《魔法技師》。そしてナーレは《吟遊詩人》。三人とも《織》を練れるだろう。だからその波長を同調させることで、義兄弟の契りとしようって言いたいのさ!ね、ハー兄?」

ご明察、とばかりに満足げな笑みを浮かべてハーラが大きく頷くと、ナーレはそうっと手を差し出した。

「そういうことか。ハー兄はやっぱりインテリだね。」

ハーラの言う義兄弟の契りを理解できなかったナーレは、気恥ずかしさを誤魔化すためにハーラをおちょくってみた。ハーラはイラッとした表情を見せたがすぐに気を取り直して、早速とばかりに《織》を練り出した。それに谺するようにテーリとナーレも《織》を練り出す。個々人で《織》の練り方には違いがあるため、慎重に波長を変えていく。《織》の明滅のタイミングが合ったり、合わなかったりを何度も何度も繰り返す。五分ほど苦戦しているうちに、不意に明滅がぴたりと一致した。



 パッと光が弾けた後、重ねた手の上に緑に輝く《竜》の顔を模した紋様が浮かび上がった。こんな現象が起こるとは、誰一人予想だにしなかった。

「これってさ、《竜》のご加護とかその手の目出度いことの先触れかな?」

恐る恐るテーリが尋ねる。

「自分が学んできた《竜》に関する伝承なんかでは、こんな現象、見たことも聞いたこともないから、何とも言いようがないな…。」

驚きを隠さず震える声でハーラが答えた。ナーレはただ一人、平然としていた。

「僕たち《竜》に祝福されているんだよ。だってさ、さっきの魔獣との戦いだってそうじゃない。三人とも《竜》の力で生きのびたんだからさ。」

ハーラとテーリは同時にあぁと唸った。「三男坊」の言う通り、この三人は《竜》の祝福に守られている。どういう経緯で祝福を受けたのか知る由もないが、ナーレの言うことはもっともだ、と二人の兄貴分はナーレの説に乗ることにした。三人は緑に輝く竜の紋様を見つめながら、誰からとも知れずにお休みの言葉を交わして手を引っ込めた。途端に部屋が元の暗さに戻ったので、再び寝床に入った。間を置かずにスースーと三つの寝息が立ち始めた。


 ハーラ、テーリ、ナーレの三人は義兄弟としての契りを結び、新たな人生と冒険の旅路へと歩み始めた。《ハテナ義兄弟》と後世の人々に讃えられる《パーティー》(冒険者の一党)が誕生した瞬間であった。


【第1話 素っ裸の出会い〜ハテナ義兄弟の契り〜】

           【完】

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【第2話 〇一に続く】

次回更新 令和7年1月24日金曜日