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〇四
間近で見るヴァッロの体付きは《コボルド》にしては筋骨隆々としていた。卑しい生まれのいわゆる「邪悪な」《コボルド》は小さい頃から酷使されるため満身創痍で痩せ細っているものだ。また、学問に触れることもないから人前で流暢に共通語を話すこともできない。だが目の前にいる《コボルド》は違った。逞しい腕、俺という一人称が訛っているが、あとは流暢な共通語を話す。そして何よりも美しく澄んだどんぐり眼。テーリたち義兄弟の知る《コボルド》とは一線を画す、歴戦の冒険者然とした《コボルド》がいるのだ。姿の見えない主人「チッチ様」からヴァッロと呼ばれていた不思議な男は、形容し難い愛嬌をもっていた。
「ハマニャッ!!」
ヴァッロはにこやかに挨拶らしい声をかけてきた。
「は…はまにゃ?」
三人は聞きなれない言葉に目を点にした。
「ん?ああ、すまないーね。オデのお里の言葉でね、『やあ』とか『最高』とかのさ、いろいろな感情の昂りを表すときに使う感嘆詞なのよ。ハマニャッ!また会えて、最高!ってことなのーよ。」
ところどころイントネーションがおかしなところがあるがその喋りは完璧な共通語である。ハーラは先ほどの一言でヴァッロの行った「親切」に気づき、不承不承ながらも礼を述べた。
「お前が連れて来てくれたのか。烈弩馬龍は僕の古い友だ。心から礼を言う。ただな…なんなんだよお前は?なんで僕らを付け回すんだ。」
ハーラは儀礼的に頭を下げたが、警戒心を隠そうとはしなかった。どんなに可愛い顔をしていて、気を利かせてくれても所詮は《コボルド》。何が狙いなのかと、ヴァッロの企みを探っていた。
「オデはただお前らの役に立ちたいだけだよ。」
ニコニコしながら平然と言ってのける。
「だから、その理由はなんなんだよ?」
テーリが語気を荒らげた。飄々としたヴァッロの態度がテーリの気に触る。
「オデが誰を気にかけようと、それはオデの勝手でしょー?」
この小生意気な物言いがテーリの癇に触るのだ。テーリはヴァッロを問い詰める為の「とっておき」を繰り出した。
「『チッチ様』のご命令か?」
嫌味ったらしく、口元を粘らせるように、わざとゆっくり質した。
「チッチ、チッチ、ちがうーよ!ちがうーよ!チッチ様は関係ないし、チッチ様のことなんて知らない人だーよ。」
さっきまでの余裕な態度はどこへやら、ヴァッロの目が途端に泳ぎ出す。言葉が詰まり、意味の通らない言葉遣いになってしまった。自分でもおかしい発言だと気付き、ヴァッロは手にしたパイを口に放り込むと、咀嚼を始め黙(だんま)りを決め込んでしまった。
【第2話 〇五に続く】
次回更新 令和7年2月1日土曜日
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問い詰められたヴァッロ。どうするヴァッロ!