昨年末からの特集記事ですが、まとまっているので順次ご紹介します。
1. 足 跡 … 娘が自殺?壊れた日常 (2007/12/12)
足元の迷宮 特定失踪者を追う -第1部 日本人拉致事件の陰で
初冬の弁天浜。写真中央付近の砂浜に、かばんと靴が置かれていた=豊岡市竹野町竹野
1.足 跡 (2007/12/12)
娘が自殺?壊れた日常
初冬の弁天浜。写真中央付近の砂浜に、かばんと靴が置かれていた=豊岡市竹野町竹野
砂浜の足跡は、波打ち際に沿って行きつ戻りつしていた。海へと続くものもあった。
「その光景を、忘れられないんです」。秋田嶺子(れいこ)さん(73)が涙ぐむ。夫の正一郎さん(75)とともに初冬の海に駆け付けてから丸二十二年になる。
一九八五年十二月五日、豊岡市竹野町の弁天浜。たそがれてゆく小さな浜で、二人は立ち尽くした。眼前の海ではダイバーも出動し、海上保安庁や県警、漁協が、まな娘の捜索をしていた。
◆
記憶に残るニュースが多い年だった。
「ロス疑惑」と呼ばれた銃撃事件、悪徳ペーパー商法の豊田商事事件、そして、犠牲者五百二十人を出した日航機墜落事故。阪神タイガースが日本一に輝き、神戸ではスポーツの祭典「ユニバーシアード」に世界の若人が集った。
当時、秋田家は川西市湯山台にあった。三月に長女が結婚。保険会社に勤める正一郎さんは徳島市に単身赴任中で、嶺子さんは二女の美輪さんと二人暮らしだった。
美輪さんは神戸松蔭女子学院大学の四年生、二十一歳。もの静かで、しっかりした末娘を嶺子さんは頼りにしていた。大学を卒業する春には川西を引き払い、親子三人そろって徳島で暮らすことが決まっていた。
平凡な、だから幸せな、一年が過ぎようとしていた。一本の電話があるまで。
「秋田美輪さんは、おたくのお嬢さんですか」
城崎署(現・豊岡北署)から川西の自宅への連絡は十二月五日の午前八時ごろだった。「美輪さんの靴とかばんが、浜辺で見つかりました」
嶺子さんは、話がのみ込めなかった。娘は神戸の友人の下宿に泊まっているはずなのに―。しかし、美輪さんは、友人を訪ねていなかった。
急ぎ徳島から戻った正一郎さんと、嶺子さんは列車に飛び乗った。そこから先、動転した嶺子さんの記憶はあいまいだ。
美輪さんが見つからないまま捜索は打ち切られた。目撃情報も皆無だった。新聞に「女子大生が入水(じゅすい)自殺?」との見出しで記事が載った。正一郎さんも、嶺子さんも、娘が自殺したとは信じられなかった。
◆
未解決のまま置き去りにされていた「失踪(しっそう)」が、二十一世紀の幕開けとともに注目された。
二〇〇二年九月、日朝首脳会談。北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が日本人十三人の拉致を認めた。「もっと拉致被害者はいる」との疑いが強まり、前世紀の不可解な失踪の再検証を家族たちが求めた。民間の「特定失踪者問題調査会」が受け皿となり、拉致の可能性を否定できない「特定失踪者」を受け付けた。その数は全国で約四百七十人に上る。
「北朝鮮による拉致としか思えない。政府は一刻も早く拉致被害者に認定を」。正一郎さんも、美輪さんを特定失踪者に登録した。
■ □
特定失踪者の公表が始まって来年一月で五年。
大半のケースが、拉致の確証も、拉致でない確証も、得られていない。再び忘れられようとしている特定失踪者のうち、兵庫県関係者の足跡を、私たちはたどろうとしている。なぜ、私たちの街は、この人たちを見失ったまま歳月を重ねたのだろう。そんな疑問を胸に抱きながら。
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参照
足元の迷宮 特定失踪者を追う -第1部 日本人拉致事件の陰で
※足元の迷宮 特定失踪者を追う -第1部 日本人拉致事件の陰で 目次
特定失踪者の公表が始まって来年一月で五年。
大半のケースが、拉致の確証も、拉致でない確証も、得られていない。再び忘れられようとしている特定失踪者のうち、兵庫県関係者の足跡を、私たちはたどろうとしている。なぜ、私たちの街は、この人たちを見失ったまま歳月を重ねたのだろう。そんな疑問を胸に抱きながら。(企画報道班)
1. 足 跡 … 娘が自殺?壊れた日常 (2007/12/12)
2. 親 友 … 電話を残し娘は消えた (2007/12/13)
3. 捜 索 … 澄んだ海に遺留品なく (2007/12/14)
4. 陰 膳 … 心の整理 今もつかず (2007/12/15)
5. 突破口 … 北朝鮮への疑念噴出 (2007/12/16)
6. 発 掘 … 身寄りない2人どこへ (2007/12/17)
7. 接 線 … 工作員上陸 過去何度も (2007/12/18)
8. 急行券 … 偽装と推理 疑い深める (2007/12/19)
9. 家出人 … もう切り捨てられない (2007/12/20)
兵庫県関連の特定失踪者一覧
兵庫県関連の特定失踪者が、まとめられていますので、是非ご覧下さい。
1. 足 跡 … 娘が自殺?壊れた日常 (2007/12/12)
足元の迷宮 特定失踪者を追う -第1部 日本人拉致事件の陰で
初冬の弁天浜。写真中央付近の砂浜に、かばんと靴が置かれていた=豊岡市竹野町竹野
1.足 跡 (2007/12/12)
娘が自殺?壊れた日常
初冬の弁天浜。写真中央付近の砂浜に、かばんと靴が置かれていた=豊岡市竹野町竹野
砂浜の足跡は、波打ち際に沿って行きつ戻りつしていた。海へと続くものもあった。
「その光景を、忘れられないんです」。秋田嶺子(れいこ)さん(73)が涙ぐむ。夫の正一郎さん(75)とともに初冬の海に駆け付けてから丸二十二年になる。
一九八五年十二月五日、豊岡市竹野町の弁天浜。たそがれてゆく小さな浜で、二人は立ち尽くした。眼前の海ではダイバーも出動し、海上保安庁や県警、漁協が、まな娘の捜索をしていた。
◆
記憶に残るニュースが多い年だった。
「ロス疑惑」と呼ばれた銃撃事件、悪徳ペーパー商法の豊田商事事件、そして、犠牲者五百二十人を出した日航機墜落事故。阪神タイガースが日本一に輝き、神戸ではスポーツの祭典「ユニバーシアード」に世界の若人が集った。
当時、秋田家は川西市湯山台にあった。三月に長女が結婚。保険会社に勤める正一郎さんは徳島市に単身赴任中で、嶺子さんは二女の美輪さんと二人暮らしだった。
美輪さんは神戸松蔭女子学院大学の四年生、二十一歳。もの静かで、しっかりした末娘を嶺子さんは頼りにしていた。大学を卒業する春には川西を引き払い、親子三人そろって徳島で暮らすことが決まっていた。
平凡な、だから幸せな、一年が過ぎようとしていた。一本の電話があるまで。
「秋田美輪さんは、おたくのお嬢さんですか」
城崎署(現・豊岡北署)から川西の自宅への連絡は十二月五日の午前八時ごろだった。「美輪さんの靴とかばんが、浜辺で見つかりました」
嶺子さんは、話がのみ込めなかった。娘は神戸の友人の下宿に泊まっているはずなのに―。しかし、美輪さんは、友人を訪ねていなかった。
急ぎ徳島から戻った正一郎さんと、嶺子さんは列車に飛び乗った。そこから先、動転した嶺子さんの記憶はあいまいだ。
美輪さんが見つからないまま捜索は打ち切られた。目撃情報も皆無だった。新聞に「女子大生が入水(じゅすい)自殺?」との見出しで記事が載った。正一郎さんも、嶺子さんも、娘が自殺したとは信じられなかった。
◆
未解決のまま置き去りにされていた「失踪(しっそう)」が、二十一世紀の幕開けとともに注目された。
二〇〇二年九月、日朝首脳会談。北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が日本人十三人の拉致を認めた。「もっと拉致被害者はいる」との疑いが強まり、前世紀の不可解な失踪の再検証を家族たちが求めた。民間の「特定失踪者問題調査会」が受け皿となり、拉致の可能性を否定できない「特定失踪者」を受け付けた。その数は全国で約四百七十人に上る。
「北朝鮮による拉致としか思えない。政府は一刻も早く拉致被害者に認定を」。正一郎さんも、美輪さんを特定失踪者に登録した。
■ □
特定失踪者の公表が始まって来年一月で五年。
大半のケースが、拉致の確証も、拉致でない確証も、得られていない。再び忘れられようとしている特定失踪者のうち、兵庫県関係者の足跡を、私たちはたどろうとしている。なぜ、私たちの街は、この人たちを見失ったまま歳月を重ねたのだろう。そんな疑問を胸に抱きながら。
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参照
足元の迷宮 特定失踪者を追う -第1部 日本人拉致事件の陰で
※足元の迷宮 特定失踪者を追う -第1部 日本人拉致事件の陰で 目次
特定失踪者の公表が始まって来年一月で五年。
大半のケースが、拉致の確証も、拉致でない確証も、得られていない。再び忘れられようとしている特定失踪者のうち、兵庫県関係者の足跡を、私たちはたどろうとしている。なぜ、私たちの街は、この人たちを見失ったまま歳月を重ねたのだろう。そんな疑問を胸に抱きながら。(企画報道班)
1. 足 跡 … 娘が自殺?壊れた日常 (2007/12/12)
2. 親 友 … 電話を残し娘は消えた (2007/12/13)
3. 捜 索 … 澄んだ海に遺留品なく (2007/12/14)
4. 陰 膳 … 心の整理 今もつかず (2007/12/15)
5. 突破口 … 北朝鮮への疑念噴出 (2007/12/16)
6. 発 掘 … 身寄りない2人どこへ (2007/12/17)
7. 接 線 … 工作員上陸 過去何度も (2007/12/18)
8. 急行券 … 偽装と推理 疑い深める (2007/12/19)
9. 家出人 … もう切り捨てられない (2007/12/20)
兵庫県関連の特定失踪者一覧
兵庫県関連の特定失踪者が、まとめられていますので、是非ご覧下さい。