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極東の“大国”日本

2005-11-13 | アンデスの声さん投稿集
アンデスの声さん  投稿日:11月13日(日)

今週、日本がらみで流れたニュース。

11月6日 日本亡命中のフジモリ元大統領、いきなりサンチャゴに出現。
11月7日 ピースボートの51回クルーズ船、リマ・カジャオ港入港。
11月10日 日本大使館の車がアンデスで転落、日本人書記官死亡。

ピースボートの件はごく一部の者しか知らない些末ニュース。大使館員の死亡事故はTV、ラジオ、いくつかの新聞に出た。フジモリ問題については連日トップニュース、リマ市内のチリ大使館前に集まった“フジモリ解放”を求める群衆のシュプレヒコールが聞こえていた。

【フジモリ問題】

偏差知的価値観のはびこる日本の外交官の檜舞台は欧米圏、特に米国かイギリス、あるいはフランス・ドイツであり、南米はいわば「ドサ回り組」。中南米の日本大使館の業務はもともと移民関連の領事業務が中心で最近はこれに税金バラマキODAが加わったが、国運のかかったような高度な政治外交には縁がなかった。そういう外野席の外交官にとってフジモリ問題へのスタンスは、「我々日本政府は別にフジモリを匿っているわけではありません、現行法に従って邦人保護の観点から粛々と対応しているだけであります、と、言い続けて5年間かわしてきたんだよな、このまえ日本大使館前に来た“フジモリ支持派”1000人規模のデモ(これは反対派のデモを含めても過去最大規模)が『フジモリの政策を支持する。フジモリを保護してくれている日本政府に感謝する』なんてシュプレヒコールあげてたけど、賛成派のデモも我々にとっちゃ迷惑なんだよ、とにかく事を荒立ててほしくないんだよな、マスコミはほとんど反フジモリで四面楚歌でやりにくいんだから、日本政府が円借330億円出して6年がりで造ってやったユンカン水力発電所だって注目されたのは完成式典よりも式典に向かう大使館員の転落死亡事故のほうだもんね、フジモリははっきり言って迷惑、フジモリが日系人だから日本で話題になるけどそれ意外のペルーの興味なんてマチュピチュとナスカの地上絵くらいだろ、オレは平穏で手当ズブズブのリッチな外交官生活送りたいの、フジモリを保護しているバックに大物右派政治家がいるから情報収集しろって本国から圧力来るから会いには行ったけど痛くもない腹さぐられてマスコミにたたかれるしこっちには政策も戦略も何も無いからつっこまれても何も言えん、ブツブツブツ・・・」となる。

訴追中の他国の元大統領を5年も匿っておきながら、その明確な根拠を相手に説得できる国家思想・戦略が日本には無いのである。チリの日本大使館がフジモリと接見したことについて当地人たちは「“大国”である日本が何か思惑を持ってフジモリを支援しているのではないか?」と疑っているが、私は「何もありませんよ、政治的思惑があれば公然と会ったりしない、あれは何もない証拠、ポーズだけ」と説明している。

フジモリはチリにペルーのパスポートで入国した。つまり彼のチリでの立場はペルー人である、フジモリがそれを選択したのだ。そのペルー人フジモリに日本大使館が接見し「公正な扱いを要請する」のは明らかな越権行為であり、翌10日のペルー駐日大使の召還は当地の認識では「日本によってペルーの主権が侵害されたことに対する国家としての不服の明確な意思表示(clara muestra de disconformidad)」であるが、ペルーは日本との関係を壊したいとまでは思っていないし、日本人である私が日本人であるが故に私生活で嫌味を受けることもない(嫌味というのはどうも極東アジア民族に強い気質文化だ、日本人に誇りを持ちたい私も、言いたいことをはっきり言わず嫌味で満足したがるこの小児病的部分だけはどうにも好かぬ、LYNDON B.JOHNSON氏のせっかくの金父子・金体制批判投稿も最後のひとこと“相手は朝鮮人なのだ。” でぶちこわし)、言い換えれば、この程度の主権侵害でも、言うべき事、抗議すべき事は明確に具体的に意思表示するのが(たとえ個人的にフジモリをどう思っていようが)主権国家の責務なのである。

日本国籍を持っていてもフジモリはペルー人(そもそも日系1~2世のほとんどが二重国籍)、いまリマ市内にこだましている、社会的下層階層を中心とするペルー人達のフジモリコールは日本や日系人に向けられたものではない、ペルー人フジモリ大統領の手腕と実績を素直に高く評価し再来を希望しているのである。この問題に下手に日本政府が口を挟むのは、大国アメリカの覇権主義に翻弄されてきた彼等の琴線にも触れる。フジモリもそれを知っているから、今回日本のTVで見せたように彼は日本語を普通に話せるのに、ペルー大統領時代にマスコミの前では決して日本語を口にしなかったし、立候補のポスターにも日本人(Japones)ではなく東洋人の総称であるチノ(Chino)を掲げた。もし「日本人の血」という思い入れだけで日本政府が確たる外交理念も戦略も無しに彼におもねれば日本はしっぺ返しを受ける、フジモリがこだわるのはペルーの改革であり、そのために日本の利用できる部分を利用している。彼がペルーの政治に打って出た時のバイブルは日本の明治維新だ(ちなみに彼の妹婿の元駐日大使アリトミ氏は長州人、片腕の彼もフジモリと共に日本に残った・・・日本のマスコミは報じないが)、彼は外交大国時代の明治日本人の気迫、狡猾怜悧、したたかさはしっかりと受け継いでいる。

戦前の日本は、帝国主義国家の中では極めて貧しかったが、外交・軍事面では列強と対等に渡り合える大国だった。今回現地レポーターが日本を“大国”と評したのはもちろん経済・工業・技術大国の意味であり、外交政策・能力的には中南米諸国も呆れる小国に過ぎない。ま、南米随一の策謀政治家フジモリを使って国益を図るほどの長けた外交能力・姿勢があれば、たった一人の狂人が支配する世界最貧国北朝鮮相手にこんなに苦労はしまいが。


【ピースボート】

リマの日本食レストランでカウンター席に並んだ奇妙な連中に出会ったことがある。酒も飲まず静かに、ぎこちなくスシをつまんでいる、年輩の男ばかりの団体。話しかけてみたら、ピースボートの世界一周クルーズ参加者だった。ピースボートといえばツジモト・・と言いかけたら「あの女は関係ない、安く世界一周できるので乗っただけ」と答えた。若い元気な連中の多くはナスカ、マチュピチュ観光にでかけてしまい、残された年輩どうしで市内の日本食屋をハシゴしているのだという。彼らが店をでていったあと、カウンター越しに一緒に喋ってた板前が「あーやばかった、ちょうどピースボートの悪口言いかけたとこじゃった」と言ってへへへと笑った。 実はペルーの日系・日本人社会の多くはピースボートに対し極めて強い反感を持っている。

最初のきっかけは、ペルー大使公邸人質事件の時。ちょうど事件勃発から一ヶ月たった頃、彼らの船がリマへ到着し、対策本部の一つが置かれた日系人会館の一角で「ピースボート写真展」を開き自分たちの平和活動をアピールしたあと、「我々が船の中で祈りをこめて折った鶴であるから人質に渡せ」と言って公邸内との連絡パイプになっていたスイス国際赤十字事務所に千羽鶴の房を押しつけて帰っていった。国際赤十字はこの千羽鶴を邸内に差し入れず、日本側の対策本部に処置を依頼してきた。人質たちに食事や薬や防寒着を差し入れることにも苦慮していた我々にとって、そんなものまで邸内に持ち込めるわけが無かろう。「そんなもん捨てっちまえ!」という声もあったが、結局、日系人協会が引き取って会館の隅にしばらくぶら下げてあった。祈るだけで平和は来ない。

そして最近また当地日本人の感情を逆撫でしているのが、その後も毎年のようにやって来るピースボートが行っているフジモリ批判である。

フジモリ政権が発足した1990頃のペルーは治安と経済が破綻し国が崩壊状態だった。ペルーは南米で最も白人支配の強い社会である。国民の1割のスペイン系白人が政治・経済を支配し、その下に4割の混血(メスティーソ)と5割の先住民(インディオ=インディヘナ)たちがいる。混血の間では白人の血の濃い奴ほど先住民の血の濃い者を見下す哀しい傾向がある。そして白人の眼中に先住民の姿はない(これは差別というより無視に近い)。白人の圧倒的に多い(=先住民を殺し尽くしてしまったため)チリやアルゼンチンの街頭には白人の乞食がいるが、ペルーにはいない。交差点で車を止めると手を差し出して物乞いに群がってくるのは、全てインディヘナかメスティーソたちだ。

ペルーの日系人は8万人で人口比は0.3%にすぎず、このような階層社会のマイノリティーの中からフジモリという大統領が出たのは、在日コリアン(人口比0.5%)から日本の総理が生まれるよりはるかに「どえらい」できごどだったのである。これに対し白人階層は徹底的にフジモリ政権を妨害した。このためフジモリは1992年に白人の支配する国会を封鎖し、直接内閣を動かした。(このとき米国は「独裁者」のレッテルを彼に貼る)

フジモリの最大の功績のひとつは、テロリストと治安軍双方の弾圧に苦しむ山岳地の先住民インディヘナ達に武器を与え自警させたことだろう。初めてまともに国民扱いされた山岳地の住民は喜び、テロリストは衰退し軍による住民の犠牲も減少した。さらにフジモリは貧民窟や山岳部に学校を建て電気を配った。当時も今も、フジモリの熱心な支持者は日系人よりもインディヘナ達なのである。初めて彼らを人間扱いしたフジモリの評判は今も根強い。

ピースボートは「テロを減らすための武力攻撃は新たなテロの連鎖を生む」、だから「貧困の解決などテロの原因の根絶が必要だ」とヘイワ呆け日本式理想の弁をそのまま弄しているが、すでにテロが蔓延し日々巻き添えで無辜の命が失われている社会にとっては両方の処方が必要であり、今流れている血は今止めなきゃならない。そのために両刃の剣も使った。そしてもちろん血が流れないような手だても前もって必要だ。ペルーのフジモリは歴代大統領の中で初めてそれ(貧困対策によるテロ原因の根絶)に取り組んだ。

アメリカ+白人支配階層に事実上追い出されたフジモリに替わり先住民インディヘナ代表の看板をひっさげ2001年に登場したトレド政権は来年の任期切れを控え支持率10%を切るレイムダック状態、失業者や低所得者層がふたたび増え始め、壊滅したはずのテロ組織も不穏な動きを始めている。世銀出身でやたら英語をしゃべりアメリカ詣でをかかさぬトレドはアメリカ傀儡そのものであり、カミさんのエリアンカープはユダヤ系白人、先日、麻薬密輸のイスラエル人を特赦したため騒動になった。トレド大統領は南米の斜陽政治家がよくやる「前任者の徹底批判」で切り抜けようとし、復権をねらう白人勢力やマスコミも強権フジモリ復活を恐れて過去の公安部隊の人権侵害や不正蓄財をでっちあげて叩き、アメリカも自分に楯突くフジモリ叩きを支援する、という構図で社会が動いている。日本のマスコミもフジモリの人権侵害や不正蓄財問題を中心に取り扱いこれになぜかサヨクも便乗するが、この国に日本のマスコミは常駐しておらず、ペルーのニュースの多くはサンパウロ支社から発信されている。サンパウロの記者は当地の新聞記事をそのまま翻訳して打電するだけだから、日本でもそういう記事が多くなる。

今のフジモリの扱いをめぐる攻防は、ペルー社会の階層問題にアメリカの思惑、チリ~ペルーの国民感情対立に加え最近発生した領海域問題も絡んだ複雑な国家間の政治的駆け引きなのだが、地球人気取りの日本のサヨクNGOはこういうナマの政治世界に疎く、相手から無視され呆れられても嫌われても平気で毎年やってきて、自分の運動が米国覇権主義に便乗する矛盾にも頓着せずに、当地にとって何の意味も効果も無い、自己満足だけ得て去っていく。日系人新聞「ペルー新報」のコラムがピースボートの活動に触れ、「わずか数日の滞在と政敵からのインタビューだけでこの複雑なペルー社会の背景の何が分かるというのか」という論調でこき下ろしていた。


【で、所感】

愛知博の日本製最新ロボットの映像は当地で何度もTV放映された。世界のマーケットを席巻する日本の高度な工業製品の印象と相まって、音楽に合わせて踊るロボット達を彼等は驚嘆の眼差しで眺めていた。さまざまな分野の高品質製品の製造テクノロジーにおいて、日本は今やとんでもない大国である。しかし、それを造っている生身の日本人が現れると、他国の人々に対して何を言いたいのか、他国に来て何をしたいのか、その顔も心も見えないのである。こっちを向いて何か喋っているようでこちらに伝わるモノがない、それは、せっかく外地にいながら自国内の狭い自分の立場の勘定だけで外を見ているからではないか。それは日本政府の外交もピースボートもイラク3人組も、そして多くの企業も同類である。一つ抜けている、日本のウヨク、連中に関しては、外地ではその姿すら見えない。

今回の投稿は北朝鮮問題には触れなかったが、これも根っこは同じだと私は思っている。今の我々に、日本の国家としての、日本人としての、思想が無くなったのだ。

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1 コメント

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ピースボートとフジモリ (Hiro-san(ヒロさん日記))
2005-11-14 08:34:12
ピースボートのお話は、たいへん参考になりました。いずれ機会をみて、引用させてください。
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