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8-2-2 学者の批判

2023-12-05 16:11:53 | 世界史

『アジア専制帝国 世界の歴史8』社会思想社、1974年
2 成祖永楽帝の夢
2 学者の批判

 靖難の師は燕王の勝利に帰し、応天府は燕王の占領するところとなった。
 燕王が名分とした君側の奸臣粛清は、ただちに実行にうつされた。
 しかし戦火は、靖難の対象とする皇帝までも取りのぞいてしまったようである。
 皇帝なき王朝は一日たりともありうべきではない。
 帰するところは、燕王の即位ということになる。
 一四〇二年、燕王は南京応天府で帝位につき、翌年には永楽と改元した。
 世にいう明朝第三代、成祖永楽帝の治世となったのである。
 即位した永楽帝は、建文一代を抹殺し、その改革にかかわるものをことごとく廃止して、洪武の祖法に復することを旨とした。
 にもかかわらず、帝が削藩策のみを廃止しなかったのは、皮肉といわざるをえまい。
 勝手といえば勝手なはなしである。
 もともと建文帝の削藩策に抗して挙兵し、帝位にまでついた永楽帝ではないか。
 帝位といえば、帝位についたこと自体、靖雜の名目に反することとなる。
 ましてや家族道徳にうるさい当時の中国である。皇帝を叔父が殺して帝位についたとなれば、批判する学者もすくなくない。
 くわえて南京がおちたときには、建文帝に忠節をつくそうとして命を絶った者がすくなくなかった。
 建文帝の信任きわめて厚かった学者に、方孝孺(じゅ)という者がいた。
 その師は、先帝が創業のころの側近学者、かつ功臣として知られる宋濂(そうれん)である。
 宋濂なきのち、洪武の晩年に召されて官につき、建文帝にもつかえた気節ある学者であった。
 こうして方孝濡は建文帝のもとで、先帝の『実録』編纂(へんさん)に関与したり、治政に参与したりしていた。
 靖難の師をおこすにあたって、謀臣の道衍はいましめたという。
 「たとえ京師が陥落しようとも、方孝孺は降りますまい。しかし、決してかれを殺すことのないように。」
 それが事実であるか否かは別としても、南京がおちたのちにおいて、かれが永楽帝の意にしたがわなかったことは事実である。
 またかれが刑死したことも事実である。
 永楽帝は即位にあたり、せめてその詔勅なりとも、先帝の遺臣たる方孝孺に書かせようとした。
 帝がいかにたのんでも、かれは承知しなかったという。
 たびかさなる要請にこたえて、白紙の上に墨くろぐろと記したものは、「燕賊、位を簒(うば)う(燕賊簒位)。」であった。
 まさに皇帝を逆賊あつかいにしたものである。
 帝は怒り心頭に発し、方の一族はみな殺しの憂き目にあった。
 累をおよぼされて刑死したものは、その数、八百数十人にのぼったという。
 皮肉なことながら、方孝孺にかわって詔勅の筆をにぎった者は、おなじく宋濂に師事したと伝えられる楼燵(ろうれん)であった。
 方は、その激しい拒否と抵抗によって、累をひろく一族におよぽしたのに対し、楼は命令にしたがって詔勅の書をしるしたのち、みずからの命を絶つ方法によって一族への累をさけた。
 気節(気概)のあらわしかたも、人さまざまというべきか。
 ともあれ、こうした例は、すくながらず後世に伝えられている。
 即位の当初、永楽帝が非難の的となるべき材料は、決してすくなくない。
 逆賊とののしり、死をおそれない学者の言動は、その最大のものといえよう。
 永楽帝はそれをおしきった。
 非難さるべき削藩策も、ちゃくちゃくとすすめられ、諸王の勢力は削減された。
 通らぬ筋をつらぬく、それが先帝以来の祖法であったともいえる。
 先帝じしん、皇帝の独裁を強化するため、あえて非道をつらぬいたことを思えば、非道も祖法となりえよう。
 独裁皇帝のなすことは、非道も正道として通用する。
 とはいえ、記録は後世にのこり、学者はこれをしるす。後世の批判をさけるためには、学者を配下に吸収するのも一方法である。
 いかにしてこれを配下におくか。
 永楽帝のとった策は、国家的な大編纂事業をおこなって、これに学者を動員することであった。
 『永楽大典』『四書大全』『五経大全』『性理大全』など、編纂の事業は大規模にすすめられた。
 ことに即位後、ただちに着手させた『文献大成』の再修とされる『永楽大典』は、現在その大部分をうしなったとはいえ、中国最大の類書(叢書)とされる。
 全二万二千八百七十七巻、一万一千九十五冊の大部な書の編纂が、わずか三年にして成されたということは、いかに多くの学者が協力したかを、物語ってあまりあろう。
 ことに、それを筆墨をもって記したことを思えば、おどろくべきものといわざるをえまい。
 その粗雑さを指摘する人はあっても。



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