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パッチの聖マリア・マグダレナおとめ   St. Magdalena a Pazzis V.

2017-05-29 03:20:16 | 聖人伝
パッチの聖マリア・マグダレナおとめ   St. Magdalena a Pazzis V.  記念日 5月29日


 パッチの聖女マリア・マグダレナは1566年、イタリアのフィレンツェの名門パッチ家に呱々の声を挙げた。洗礼の折りにはシェナのカタリナと命名された。栴檀は双葉より香しとやら、彼女もつとに幼児より聖徳の萌芽を見せ、満2歳にならぬにはや御聖体の主に籠もり給う事を悟り、之に可憐な愛情を示したという。そして友達と遊び戯れている内にも、ふと主の事を思い出せば、すぐに聖堂に駆けつけて、幾時間でも気の済むまで祈りに耽るという風であった。されば聖主の御苦難に対しても、子供に似げない深い理解と同情とを有し、自分も安閑としているのに忍びぬ気持ちから、我が手で茨の冠を作りこれをかぶって床に就き、痛さに眠れぬ宵々は、その苦しみを世の人々の罪の償いに献げたのである。かように敬虔殊勝な子であったから、当時は異例の僅か10歳で初めての御聖体拝領を許されたが、その時彼女は終生童貞の願を立てたと伝えられる。

 父がコルトナの市長に赴任して以来、彼女はフィレンツェの修道女に託されて教育を受ける事となった。それから数年後コルトナから帰った父は、彼女を他家へ嫁がせるつもりであったのに、彼女は先の誓願もあり、修道院に入って一生天主に仕える決心であったから、父は怒っていろいろ苦しめ、無理にも自分の意志に従わしめようとしたが、彼女はよく初一念を立て通し、遂に16歳の時にフィレンツェのカルメル会の修道院に入ったのであった。マリア・マグダレナとは、すなわち彼女の修道名に他ならない。
 彼女がカルメル会を選んだ理由は、未だ一般に頻繁な御聖体拝領が行われていなかった当時にあって、その会では毎日御聖体の主と一致する機会が与えられていたからであった。そして1584年誓願を立てると、彼女ははじめて脱魂の恵みを蒙るに至った。
 その時マグダレナは「私は我が主イエズス・キリストの十字架に於いての外は、もはや決して誇る所はありますまい」(ガラテア書 6・14)という言葉を口ずさんだかと思うと、その顔は日のように輝き得も言われぬ神々しい様子となって、ものの2時間ばかりも全く我を忘れ、恍惚の境に遊んだ。その間彼女は愛し奉る主との神秘幽玄な一致を体験していたのである。
 かような不思議はその後も度々起こったが、間もなくマグダレナは「苦しみの人」と呼ばれるイエズス・キリストの浄配たるにふさわしく、数々の苦痛に鍛えられなければならなかった。まず重病を患ってほとんど危篤に陥ったのを手始めに、それがようよう快復すると、今度は恐ろしい精神上の苦痛と激しい誘惑とに襲われた。殊に彼女を冒涜、絶望、邪淫、不従順等の大罪に引き込もうとする悪魔の執拗な努力には、彼女もほとほと手を焼くばかりであった。そのつらさ苦しさに涙を流しつつ他の童貞方の面前に平伏し「どうぞ不幸な罪人の、私の為にお祈りください」と願ったことも幾度あったか解らない。
 かかる過酷な試練は実に6年の長きにわたって続いた。しかし彼女はよくそれに堪え、1590年の聖霊降臨の大祝日を迎えるや、天主に予定された苦悩の杯もすでに最後のしずくまで尽きたのかさしも吹き荒れた誘惑の嵐もはたとやみ、十重二十重に閉ざしていた憂悶の黒雲も名残なく晴れて、その胸中には喩え難い平安の日光がうらうらと照り渡ったのであった。
 それでもマグダレナはその期間に学んだ犠牲の精神を一生忘れはしなかった。その事は彼女が「死よりも苦しみ」という言葉を座右の銘としていたのに依っても明らかに窺われるであろう。
 彼女は後に修練長となり、また副院長となり、その深い超自然的知識と熱い愛とを傾けて、自分の手に託された修女等をよく完徳の途上に導いたが、やがて再び大病に罹り、数々の苦痛を忍んだ後、1607年5月25日その清らかな霊魂を天主の御許に帰した。
 それから彼女による奇蹟は無数に起こり、20年後には早くも福者に挙げられ、遂に1669年には教皇クレメンス9世から聖女の位を贈られるに至った。


教皇

 パッチの聖女マリア・マグダレナの如く我等も苦痛を、天主より定められた天国への関門と考え、みだりにこれを厭わぬように努めよう。何となれば主イエズスを始め奉り、如何なる聖人も苦痛を経ずして天国に入られた方はないからである。





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