M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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ゆたかな夢

2016-07-03 | エッセイ


 ゆたかに感じる、しかも、ゆたかに心に残る夢を見た。

[夢]

 僕は薄暗いロビーにいた。ホテルのロビーだろう。セミナーか何かで、訪れたようだ。人のざわめきが、かすかに感じられる。



 <Insurrection>

 ふと気が付くと、僕のすぐそばに感じのいい女性が立っている。ヴェールに包まれたように、顔は見えない。かすかな透明な香りがある。

 突然、耳元に小声で、話しかけられた。「今夜、ご一緒しません…」と囁かれた。
顔は、全く見えない。ドキッと心臓が震えた。

 その夜、僕はそこに泊まる予定だったのだろう、僕の部屋は取ってあった。てっきり、僕の部屋で…と言われたと思った。

 しかし、彼女はフロントに行き、「別の部屋を隣に…」と頼んでいる。なんだか、ちょっとはぐらかされた感じだ。隣同士に部屋が取れた。

 その夜、二人はワインを飲んで、食事をして、話して、隣同士の部屋で、何事もなく、豊かな思いで、僕たちは別々に眠った。

 翌朝、カフェテリアで、僕の方から近づいて声を掛けた。一緒に食事して、コーヒーを飲んで、ではまたと、彼女は去って行った。残ったのは、透明な香りだけ。

 [夢の終わり]

 夢から覚めて、僕は思った。この透明なにおいには記憶があるな…と。

 そうだ、大岡山に住んでいた、スイスの会社に勤めていたOさんだとなぜか思った。

 確か、上野の文化会館のクラシックのコンサートで初めて顔を合わせた。ロビーと思えたのは、もしかしたら、文化会館のロビーだったのかもしれない。しかし、Oさんの背丈は175センチの僕よりかなり低く、僕の耳元でささやくことはできなおはずだ。よほど高いヒールをはいていたのだろうか…。
 
 大雪の夜、大岡山から自由が丘に歩いて帰ってきて、そこでアパートの鍵を無くしているのに気がついた。仕方なく、大岡山まで雪の道を歩いて戻った。

 その夜、Oさんの部屋で眠った記憶がよみがえる。確かに、透明な香りがあった。同じ部屋で、Oさんはベッド、僕は絨毯の上に寝ていた。並んで眠るもどかしさが二人にはあった。彼女は僕よりも、ちょっと年上だった。



 <雪階段>

 あの雪の日以降、何度か大岡山で一、緒に朝を迎えた記憶がある。あれは、たしかにゆたかな時間だった。そして、もどかしい時間でもあった。

 ある日、突然、来週パリに引っ越すとOさんに聞かされた。そこで、二人の世界は、消えていった。

 どこかで、夢と、確かな記憶とが入り混じっていた。

 そして、ゆたかな夢と、もどかしい感情。それが僕に残った。



 クレジット情報
 お借りした二枚の写真は、ライセンス:Creative Commons. 2.0
  “Insurrection”by Jeronlmo Sanz
  “雪階段”by Dan Zen