M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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僕のウイスキーの系譜

2017-03-12 | エッセイ


 最近、ウイスキーがすこし復権してきたようだ。TVのコマーシャルを見ていると、そんな気がする。それに触発されて、僕のウイスキーにまつわる思い出を書いてみようと思う。



<トリス>

 最初はトリス。僕が早稲田の面影橋の近くの友人Tの下宿に転がり込んだ頃、僕も彼も金はなかった。トリスウイスキーが初めての発売された頃だ。面影橋の上に出る屋台でヤンカラ(焼酎)を飲んで、勢いをつけて高田の馬場まで歩いた。そして、駅前の小さなトリスバーで、初めてトリスを飲んだ。この頃のトリスは、今から考えれば、喉を焼くような刺激の強い酒だった。しかし、僕たちにとっては、大人になったようで誇らしい気持になれる豪遊だった。

 次の思い出は、サントリーのホワイト。そのころ付き合っていた女の子と新宿の東口で飲んでいて、ウイスキーは飲んだことがないというので、僕の知っているサントリーバーに連れて行った。かなり飲んで、彼女がちょっとと言って席を外した。僕は「白ラベル」を飲みながら、彼女を待つ。しかし、なかなか帰ってこない。仕方がないので、バーテンにちょっとと言って店を出た。トイレは、地下にあった。

 女性トイレに入るには、勇気がいる。外から名前を読んでみたが、返事はない。アリバイ作りに大きな声を出して、名前を大声で呼びながら女性トイレに入った。すると、その子は、便器の前に膝まずいて苦しんでいた。飲みすぎだった。スイスイ飲んでいたから、加減が分からなかったのだろう。胃が空になって、目に涙しながら吐いて苦しんでいる。仕方がないので、肩を貸して洗面台まで連れて行った。汚れた口と顔を洗って、やっと人前に出られる姿になった。その夜、どうやって、彼女を家まで送っていったかは覚えていない。



 <スコットランド・ラークス>

 時が経って、僕が次にウイスキーとの関わりを持ったのは、スコットランドに1ヶ月ほど出張した時だ。真冬の2月。グラスゴーから、会社が予約してくれたラークスのマリーン・カーリング・ホール・ホテルまでは、タクシーだった。スコティッシュ訛りの英語を聞いて、これが英語かと本当に戸惑った思い出がある。タクシードライバーは、一週間のうちに、春、夏、秋、冬のスコットランドを経験できると言っていた。その時は、その意味は分からなかった。

 確かに滞在中に、明るい晴れた日は、春と夏を思わせる海の色だった。勿論、雪も降って、しかも寒いからブラックアイスに道はなっていた。嵐の日、風はゴーゴーと音を立てながら海岸に立つホテルの扉を揺する。ロビーにはいると、暗闇に暖炉の大きな火が、パチパチと音を立てて燃えている。暗い中に、客はちらほら。みんな黙り込んで暖炉の火を見ている。そしてウイスキーを静かに飲んでいた。



 <シーバスリーガル>

 こんな日にはと、スコットランド人が教えてくれたのが、ドランビューイだった。これは、ウイスキーをベースとした蒸留酒。寝酒として勧められたが、重くて少し甘かった。日本で焦がれていたスコッチ、シーバスリーガルを頼んでみた。こんな軽い刺激のないウイスキーは飲んだ記憶がなかった。香りが高く、グラスを揺らしてみると液面のグラスの縁が蒸発する気体にゆらめいて見える。喉を通ると、あっというまに気体に変わる。ファッと消えてしまうのだ。液体をゴクリとやっている感じはしない。これが、あこがれのシーバスだと確認した瞬間だった。

 スコットランドの友人に、何時もは何を飲んでいるのかと聞くと、モルトだという。シーバスも、ジョニオーカーも、オールドパーも、日本で知られていたのはすべてブレンドだった。じゃあモルトをやってみようと、グレンフェデックを試してみた。癖が強くて、僕には旨いと感じなかった。



 <燃える暖炉>

 このラークスのホテルで学んだことは、ウイスキーとは、暗がりでゆっくり流し込む、男の飲み物だということだった。はしゃいだ飲み物ではないと思った。日本ではウイスキーを炭酸で割ったハイボールというものが流行り出したころで、バーで女の子としゃべりながら、にぎやかに飲むものになっていた。この対比は印象的だった。

 その後、好奇心でバーボンを試してみたけれど、アーリータイムスも、ジムビームも、僕の酒にはならなかった。なぜか甘いのだ。テネシーの人には悪いが、甘いウイスキーは僕にとってウイスキーではない。



 <タラモア デゥ>

 最後にたどり着いたのが、アイリッシュウイスキー。アイルランド人にとっては、Whiskey であって、Whiskyではない。あまり日本には入っていないのだけれど、僕の選んだウイスキーは、タラモア デゥ。まろやかな落ち着いた味は、スコッチほど暗くなく、バーボンのように甘くなく、いま楽しんでいる唯一のウイスキーになった。 飲み心地は、シーバスにも匹敵すると思っている。

 一つシーバスで、気になっていることがある。それは、最初の頃のペールな感じでなくなって、色が濃く見えることだ。一説によると、日本がシーバスをまとめ買いして、原酒が足りなくなったと聞いた。淋しいことだ。勿論、本当の事かどうかは分からない。

 今は医者には禁酒と言われているから、ウイスキーはショットグラスに一杯を、時間をかけて楽しむ程度。つまり、ウイスキーという飲み物は、ほとんど僕のまわりから消えている。さびしいと言えば、寂しいものだ。

ス コットランド・ラークスのホテルで暖炉の火を見ながら飲んだスコッチは、やはり、少し陰気な男の世界だと思っている。




P.S. :クレジット情報
1.スコットランド・ラークスの写真は、flickrからcinematographさんの
“Ayrshire cost atLargs“をお借りしました。 
<ライセンス:クリエイティブ・コモンズ 表示 3.0 非移植>

2.暖炉の火の写真は、flickrからTim Reganさんの“Weill of Fire”をお借りしました。
  <ライセンス:クリエイティブ・コモンズ 表示 2.0>


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