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深川・猿江の古い寺に用事があって、梅雨らしい霧雨の中を出掛けた。用事がすんで、北の方を見ると、霧にあたまを隠したスカイツリーがぼんやりと見えた。
今日はいつもより、少しは人の出が悪いだろうと、スカイツリーの工事が見え始めたころから避けていた浅草を久しぶりに歩いてみようかという気になった。
何時だったか、ツリーの下半分が出来た頃に浅草に行ったら、吾妻橋の上は写真を撮る人、人、人。うんざりして、新仲見世に入ったら、何時もの浅草とは違う、またしても人、人、人。浅草も変わって来たなぁと思いながら、もうちょっと浅草には来れないなぁと思ったのは去年。
地下鉄を下りたら、霧雨は依然として降り続いている。都営地下鉄浅草駅は、僕の心臓君の具合など、全く考えて作られてはいないから、エレベーターを探して地上に出たら、もう駒形橋だ。駒形どぜうの店よりもっと遠い。
並木の藪蕎麦の前を歩いて、雷門に向かう。藪を試してみようかと思ったけれど、残念、今日は休ときた。後は、いつもの十和田しかそば屋は知らない。長浦という店もあるけれど、永年お世話になっている十和田に入ることになる。店の前に、やげん掘りの店が出来たこともあって、ここまで戻った。
十和田の店も、少し様子が違う。何だか大きな朱色の鉢を前に、お客が蕎麦を食っている。顔がすっぽり隠れるほどの塗の蕎麦の入れ物で、天ぷらが、そばを囲んだように盛り付けられていた。いかにも、観光客向けのメニュー。
ちょっと嫌だなという気がして、ざる、一枚で、お勘定にした。そばも、もうせんとちがって、白っぽく、そばの味が薄くなったようだ。代が変わったようで、おばあちゃんの姿が見えない。スカイツリーの影響が味にまでやって来たようだ。
仕方がない。観音様にお賽銭を投げ込んで、花やしきを通って、いつもの飲み屋、鈴芳へ。
ここは、もう学生のころから通っているから、ウン十年だ。最初は、屋台に毛が生えたような、小さく、汚そうで、ちょっと入りにくい感じの店だった。ここの良いところは、近くに場外馬券売り場があって、予想の新聞を片手に、男どもが昼間から酒をのんでいたから、昼間から酒が飲める店だった。
今は、女性客も増えて、雰囲気は変わった。変わっていないのは、古い方のおかみさん。愛想は無いけれど、客をちゃんと覚えているのが分かる。若いおかみは、そんな気配はない。いつもの、生レモンハイと、モツ煮と、カシラ、タンの焼き物とおしんこを頼む。今日は雨だから、この「煮込み通り」も客が少ない。
雨の中、透明なビニールテントの下でタバコの煙を避ながら、変わらぬ味を楽しんだ。
そう、ここでは心にひっかかる体験をした。
もう4、5年前になるだろうか。一人で飲んでいたら、隣に中年の男性の二人組の先客がいて、けっこう大きな声で話していた。否応なく耳に入ってくる言葉に、オヤッと思わせる言葉が出る。キーワードはこうだ。
・DV(ドメスティックバイオレンス)
・3人男の子
・有名国立大学出の役人から外資系のホテルマンに転身
・神戸への単身赴任と現地の女性との関係
・東京のホテルに支配人で戻ってきた
・カミさんがDVの被害者
・カミさんが精神疾患状態
・カミさんが最近まで長いこと実家へ帰っていた
・住まいは千葉
・話題の男の人は心臓疾患
・最近のバイパス手術
どうも、話している男の大学の同期の友達の話らしい。
じつは、僕の知っている人の中に、まさにそんな状況の人がいた。Gさん。確信は、最近のバイパス手術だった。
キーワードが10個以上、一致するって、なかなか考えにくい。きっと、Gさんの家の話に違いないと思ったのは無理からぬこと。心に残った。
その時、もし話している人の相手がトイレにでも立ったら、隣から話してみようと思ったくらいだ。いくらなんでも、そんなにたくさんの類似点があるケースなんてないはずだ。しかし、二人は僕が居る間中、その話をしていた。もう一人の人は、話題になっている人を知らないようだ。
大学のボート部の話になって、僕は切り上げることにして、お勘定とおかみさんに頼んだ。
何気ない飲み屋の会話。こんな偶然もあるんだと思った鈴芳だった。
今日は、霧雨の中の昼酒、少し、酔って帰ってきた。
そういえば、この数年、Gさんの状況は聞こえてこない。何かあったのかもしれない…。
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