M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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マルモッタンのモネ

2016-01-17 | エッセイ


 好きな画家はと訊かれたら、僕は間髪をいれず、シャガールとモネと答えるだろう。

 モネに驚かされたのは、パリはティユルリー庭園の中のオランジュリー。半地下のオーバルの部屋で見た睡蓮の連作だった。僕は、しばらく茫然と立ちすくみ、中央の椅子に腰かけて何時間も動けなかった。8連作の放つモネの世界に引き込まれていた。作者の意図が、体の芯まで響いてきた。もちろん静な響き、しかし圧倒的な響きだった。

 睡蓮の大作は、昔、ニューヨークのMOMAで見ていたが、オランジュリーのモネの部屋にはかなわない。ジヴェルニーの自分の庭の睡蓮との命を懸けた対話が、これらの大作を産んだのだろう。


 <マルモッタン美術館>

 これだけではつまらないと、日本の親しかった女性画家にパリから電話して、マルモッタン美術館への道を教えてもらった。彼女は3年ほどパリに住んでいたから、教えられたとおり、ミュエットでメトロを降りた。ラヌラグを通り抜けて、印象派の名前の起源となる、「印象・日の出」に会った。すべてがうれしかった。

 日本ではモネの人気はすさまじい。何時だったか、気軽に東京芸大のモネの展覧会を覗いたら、とんでもない人の列。展示の部屋は、すべて人でごった返していた。

 さらに悪いことに、音声ガイドの貸し出しがあって、一作、一作、皆がその説明を聞いて、絵を見て、次に進むという鑑賞の仕方が定着している日本だ。やりきれない。遠くから、絵全体を見て、作者の意図を知りたいのだが、絵にべったりと張り付いた人の頭の影が、それを許してくれない。

 僕はいつも、展覧会の全室をひょいひょいとみてから、心に残った絵を選んでみることにしている。しかし、絵に張り付いた人の影が、それを許してはくれない。絵の下の部分は、常に隠されているのだ。

 今回の、都美術館でのモネ展、「印象、日の出から睡蓮まで」も見たかったけれど、前回の残念な記憶が邪魔して、行くことをやめた。こんな絵の鑑賞方法は、なんとかやめてもらいたい。もっと自由に、好き勝手に、広い角度から、絵を見てもいいではないか。こんな見方は、おそらく、しきたりに忠実な日本人だけだろう。バカな話だ。

 今回の絵がやってきたご本家、マルモッタン美術館を、時間をかけて楽しいんでいたから、あまり悔いは残らない。ただ、「サンラザール駅」の薄い青のマチエールはもう一度、見ておきたかった。これは、残念。


 <サンラザール駅>

 マルモッタンのホームページを検索してみたら、代表的な絵が乗っていた。拡大しても見られるから、思い出すことで、見た気になった。本当は、悔しさがあるのだが…。


 <マルモッタン モネ1>

 ネットでここまで見られたら、文句はない。しかも、いくつかの新しい、モネの姿も見えてきた。

 びっくりしたのは、彼自身が、たくさんの、ほかの画家たちの作品を収集していたことだ。ドラクロワ、ブーダン、ピサロ、ロダン、ルノワール、シニヤックと、その幅は広い。どういう目的で、これらの作品をモネが集めたかはわからない。勉強したかったのかもしれないし、もしかすると、援助するために作品を買ったのかもしれない。


 <マルモッタン モネ2>

 そして、一番の発見は、僕がモネの絵と思い込んでいる絵たちは、彼の一生のうちの一時期でしかないということだった。初めて見せられたら、おそらく僕は、モネの作品とは自信を持って言えないような絵たちが、あるということだ。


 <バラの小道>

 それは、彼の最晩年の作品群だ。彼は1926年に86歳で亡くなっている。その数年前に、目の病気に抗いながら、残した絵たちだ。特に、彼が80歳のころ描いたとされる、「バラの小道」たちの作品群は、全くモネの作品とは思えない、荒々しい、厚塗りの絵の具が盛り上がったマチエールだ。透明感はない。

 もう展覧会は終わってしまったから、実物で僕の「感じ」を確かめることはできないが、新しいモネの発見だったことは間違いない。晩年になって、作風が変わるってことは、画家の世界では結構あることだが、モネの印象と全く違う印象を持った絵は見てみたかった気がする。

 そういえば、僕の親父も洋画家で87歳でくたばったが、晩年の作風は、まるで、子供の頃に戻ったかのように、素直な力みのない絵に変わっていたのを思い出す。

 探してみても、その時代の親父の作品は手元にない。年を取ると、幼児に戻ると言われるが、そんなこともあって、作風は変わるものかもしれない。何にも束縛されることのない子供の心、子供の目を取り返すのかもしれない。それは素敵なことだ。


 クレジット情報
  ・マルモッタン美術館関連の3枚:マルモッタン美術館より借用 
  ・その他のモネの絵:日本テレビ マルモッタン展のHPより借用


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