9月15日以来の「聖書に見る美貌」です。
この連載の最初にお断りしたように、
聖書は、人間の顔かたちや姿について、あまり言及していません。
登場人物を語る時、必要もなく顔かたちを描写することはありません。
もともと
聖書が取り扱っているのは、人間のこころやたましいや精神です。つまり霊的な部分です。
「人はうわべを見るが神は心を見るのです。
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しかし、「うわべ」が大切な話では、きちんと「うわべ」が語られています。
イスラエル王国最初の王サウルは、最初の王としての外見の美しさが求められたのです。
ベニヤミン人で、その名をキシュという人がいた。(中略)
キシュにはひとりの息子がいて、その名をサウルと言った。
彼は美しい若い男で、イスラエル人の中で彼より美しい者はいなかった。
彼は民のだれよりも、肩から上だけ高かった。 (Ⅰサムエル記9章1節2節)
また、二代目の王に選ばれたダビデは、「その子は血色の良い顔で、目が美しく、姿もりっぱだった」と
書かれています。
ダビデの家は美形ぞろいだったようで、長男のエリアブがサムエルの前に進んだときは、
神が、「彼の容貌や背の高さを見てはならない。わたしは彼を退けている」と
仰せになったほどでした。
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美形は、しかし、しばしば悪魔の付け入るところとなり、危機を招きます。
ある時、ダビデの息子の一人アムノンが腹違いの美しい妹タマルに激しい恋をしてしまい、
あげくに、病気のふりをしてタマルをベッドサイドに呼び寄せ、犯してしまいます。
ところが、そのあとすぐ恐ろしくなったのか、激しくののしってタマルを追い払ってしまうのです。
タマルは、たいへん傷ついて引きこもってしまいました。
これを聞いたダビデは、アムノンの所業を「怒った」のですが、罰は与えませんでした。
タマルの実の兄アブシャロムは、二年後、奸計を用いてアムノンを殺してしまいます。
このアブシャロムは、また大変な美貌の持ち主でした。
さて、イスラエルのどこにも、
アブシャロムほど、その美しさをほめはやされた者はいなかった。
足の裏から頭の頂まで彼には非の打ちどころがなかった。
彼が頭を刈るとき、――毎年、年の終わりには、それが重いので刈っていた――
その髪の毛を計ると200シュケルもあった。
(Ⅱサムエル記14章25節26節)
これだけの美貌は、とうぜんアブシャロムの人気につながりました。
彼は、父ダビデに対して謀反を起こすのです。
ダビデは、一時は王宮から出て都落ちの旅に出ました。
けっきょく、エフライムの森で行われたはげしい戦闘でダビデ軍が勝ち、
アブシャロムは戦死します。
彼の豊かな髪が木の枝にひっかかり、騾馬に逃げられたアブシャロムは、
宙吊り状態のところを、ダビデの将軍ヨアブに心臓を突き刺されて死ぬのです。
アブシャロムとダビデの父と息子の葛藤は、ダビデの生涯に大きな影を落としました。
(Ⅱサムエル記15章1節~18章33節)
美貌の王子の権謀術数が王国を揺るがしている間、
「心をごらんになる」神は、沈黙しておられるように見えます。