障害の違いで運賃に差…精神障害者向け割引に遅れ 首都圏はJRも大手私鉄も未導入
2022年1月23日 06時00分・東京新聞
路面電車やモノレールなどを含む全国の鉄道会社175社のうち、精神障害者向け運賃割引を実施しているのは半数余りの97社にとどまっていることが、国土交通省の内部資料で分かった。首都圏や中京圏などの都市部では、ほとんど実施されていない。身体、知的障害者はほぼ全社が実施しており、障害の違いによって対応に差が生じている。
精神障害 統合失調症やそううつ病、てんかん、薬物やアルコールなどの依存症、高次脳機能障害などを指す。2021年版厚生労働白書によると、全国に推計で419万3000人おり、身体障害の436万人とほぼ並ぶ。知的障害は109万4000人。
◆障害者手帳の交付開始時期が影響
昨年4月時点の調査結果をまとめた国交省の資料によると、精神障害者向けの運賃割引を実施している97社の内訳は、東京都営地下鉄や名古屋市営地下鉄など公営鉄道が11社、西日本鉄道など大手私鉄が2社、地方を中心とする中小の私鉄が84社。各社のホームページなどによると、一定の条件で、障害者本人や介助者の普通運賃を半額にするケースが多い。
一方、JR各社などには身体、知的障害者の運賃割引はあるが、精神障害者はない。精神障害は身体、知的障害と比べ、社会的に分類されたのが遅く、割引を受ける際に提示が必要な障害者手帳の交付開始が身体の1950年、知的の73年に対し、精神は95年だったことが影響している。
国交省鉄道局の担当者は取材に「運賃は鉄道事業法に基づいて鉄道会社が決めており、割引への協力と理解を求めている」と説明した。一方、JR東日本広報部の担当者は「身体障害者らの割引を含めて本来、社会福祉政策として取り組む必要がある」と、現在は行われていない公的な財政負担の必要性を主張。精神障害者割引について「他の利用客の負担につながる面もある。現在のところ予定はない」と回答した。
◆平均月収6万円…「交通費の負担大きい」
精神障害者の運賃割引を巡っては、2019年に全国精神保健福祉会連合会(通称・みんなねっと)などが衆参両院に提出した請願で「障害者が移動する際に公共交通機関は必要不可欠だ」と指摘。国からJR各社などに身体、知的と同等の扱いになるように働き掛けを求め、衆参ともに全会一致で採択された。
みんなねっとの小幡恭弘事務局長は「われわれの調査では、精神障害者の収入は月平均6万円程度と少なく、交通費の負担感は大きい。関係者は運賃割引が進むように努力してほしい」と訴えている。
◆国と鉄道事業者、費用を巡り溝
精神障害者の鉄道運賃割引について、国は「民間の判断に委ねられている」との見解を示す一方、鉄道会社側は「必要な財源は国が負担すべきだ」との立場で折り合えていない。障害のため仕事で十分な収入を得られない当事者らは身体、知的障害者と同様の制度の実現を求めている。
「遠方の親戚に会いに行きたいが、鉄道運賃の負担が大きく、控えざるを得ない」。精神障害者らの交流会などを企画している一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」(東京都大田区)の代表理事で、統合失調症を患う山田悠平さん(37)は肩を落とす。
山田さんは「都内では割引がある鉄道が限られるため、住居や生活の範囲も沿線に限定されがちだ」と話す。障害者権利条約が移動の自由を保障していることなどを挙げ、「精神障害者が社会への一歩を踏み出すための環境を整えてほしい」と訴える。
精神障害者向け割引がある鉄道会社は2012年の58社から21年の97社に増えたが、JR各社のほか都市部の大手私鉄の多くは未導入。「障害者人口のカバー率では、普及しているとは言えない」(みんなねっとの小幡事務局長)のが実情だ。
関西大の安部誠治教授(公益事業論)は「精神障害者の社会参加に向け、全国一律の運賃割引が求められているが、財政状況が厳しく踏み出せない鉄道会社もある。公共性の高い分野でもあり、財政負担などで国が主導的な役割を果たすべきだ」と語る。
2022年1月23日 06時00分・東京新聞
路面電車やモノレールなどを含む全国の鉄道会社175社のうち、精神障害者向け運賃割引を実施しているのは半数余りの97社にとどまっていることが、国土交通省の内部資料で分かった。首都圏や中京圏などの都市部では、ほとんど実施されていない。身体、知的障害者はほぼ全社が実施しており、障害の違いによって対応に差が生じている。
精神障害 統合失調症やそううつ病、てんかん、薬物やアルコールなどの依存症、高次脳機能障害などを指す。2021年版厚生労働白書によると、全国に推計で419万3000人おり、身体障害の436万人とほぼ並ぶ。知的障害は109万4000人。
◆障害者手帳の交付開始時期が影響
昨年4月時点の調査結果をまとめた国交省の資料によると、精神障害者向けの運賃割引を実施している97社の内訳は、東京都営地下鉄や名古屋市営地下鉄など公営鉄道が11社、西日本鉄道など大手私鉄が2社、地方を中心とする中小の私鉄が84社。各社のホームページなどによると、一定の条件で、障害者本人や介助者の普通運賃を半額にするケースが多い。
一方、JR各社などには身体、知的障害者の運賃割引はあるが、精神障害者はない。精神障害は身体、知的障害と比べ、社会的に分類されたのが遅く、割引を受ける際に提示が必要な障害者手帳の交付開始が身体の1950年、知的の73年に対し、精神は95年だったことが影響している。
国交省鉄道局の担当者は取材に「運賃は鉄道事業法に基づいて鉄道会社が決めており、割引への協力と理解を求めている」と説明した。一方、JR東日本広報部の担当者は「身体障害者らの割引を含めて本来、社会福祉政策として取り組む必要がある」と、現在は行われていない公的な財政負担の必要性を主張。精神障害者割引について「他の利用客の負担につながる面もある。現在のところ予定はない」と回答した。
◆平均月収6万円…「交通費の負担大きい」
精神障害者の運賃割引を巡っては、2019年に全国精神保健福祉会連合会(通称・みんなねっと)などが衆参両院に提出した請願で「障害者が移動する際に公共交通機関は必要不可欠だ」と指摘。国からJR各社などに身体、知的と同等の扱いになるように働き掛けを求め、衆参ともに全会一致で採択された。
みんなねっとの小幡恭弘事務局長は「われわれの調査では、精神障害者の収入は月平均6万円程度と少なく、交通費の負担感は大きい。関係者は運賃割引が進むように努力してほしい」と訴えている。
◆国と鉄道事業者、費用を巡り溝
精神障害者の鉄道運賃割引について、国は「民間の判断に委ねられている」との見解を示す一方、鉄道会社側は「必要な財源は国が負担すべきだ」との立場で折り合えていない。障害のため仕事で十分な収入を得られない当事者らは身体、知的障害者と同様の制度の実現を求めている。
「遠方の親戚に会いに行きたいが、鉄道運賃の負担が大きく、控えざるを得ない」。精神障害者らの交流会などを企画している一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」(東京都大田区)の代表理事で、統合失調症を患う山田悠平さん(37)は肩を落とす。
山田さんは「都内では割引がある鉄道が限られるため、住居や生活の範囲も沿線に限定されがちだ」と話す。障害者権利条約が移動の自由を保障していることなどを挙げ、「精神障害者が社会への一歩を踏み出すための環境を整えてほしい」と訴える。
精神障害者向け割引がある鉄道会社は2012年の58社から21年の97社に増えたが、JR各社のほか都市部の大手私鉄の多くは未導入。「障害者人口のカバー率では、普及しているとは言えない」(みんなねっとの小幡事務局長)のが実情だ。
関西大の安部誠治教授(公益事業論)は「精神障害者の社会参加に向け、全国一律の運賃割引が求められているが、財政状況が厳しく踏み出せない鉄道会社もある。公共性の高い分野でもあり、財政負担などで国が主導的な役割を果たすべきだ」と語る。
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