書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

恩田陸氏著「不安な童話」

2006年04月16日 01時00分49秒 | 読書
再読なんですけどね.面白い.面白すぎる.
主人公は大学教授浦田泰山の秘書の古橋万由子.
万由子は小さい頃から他人の隠れた記憶を見てしまう超能力を持っています.ある日,浦田教授のお供で,無名の女流画家の展覧会に出かけますが,その会場で,恐怖の既視感に襲われ,失神してしまいます.
その女流画家は,既に25年前に非業の氏を遂げており,その息子から「あなたは殺された母の生まれ変わりだ.母の死の原因解明に協力してほしい」と頼まれます.万由子には超能力者ゆえのつらい体験があり,引き受けることには大きな抵抗がありましたが,やむを得ない展開で引き受けてしまう.
そして...ここから先は読んでのお楽しみ.一気に読んじゃいますよ.
読み始めた当初は,筒井康孝氏の「家族八景」「七瀬ふたたび」等の七瀬シリーズを連想したのですが,全然違いました.
こんな感想をいうと恩田ファンの方からは「待った」をかけられそうですが,私の印象としては,すばらしい「本格推理小説」として読めるんですよ.もちろん,万由子の超能力は物語の軸ですが,それは,例えば,ど近眼の探偵が床に落ちている一本の髪の毛を見つけちゃう能力とか,コンピュータの得意な探偵が犯人のコンピュータをハッキングする能力とかと同じ様なものと考えれば,この小説は第一級の本格推理小説と言えるんじゃないかなと思うわけです.
それぐらい,物語の構成,魅力的な登場人物達,伏線の緻密な張り方,そして何よりも意外な真犯人とその...いや,これ以上はご法度ご法度.どうぞお楽しみに.
さて,この本の第3章のタイトルは「すべての道が,海につながっているように見える」なんですよ.このせりふ,先日感想を書いた「六番目の小夜子」にも出てきましたね.「海に続く道」というモチーフは恩田さんの中で重要な位置を占めているようです.あと,超能力がらみで「生まれ変わり」や「輪廻」に関する諸説が登場しますが,その説明で非常に面白い一説が述べられていたので,ちょっと引用します.万由子のせりふです.
「生まれ変わりっていったって,オリジナルなAという人格が記憶を変えて永遠に生き続けるわけなの?それとも魂という,フロッピーディスクみたいに真っ白なフォーマットがあって,毎回違う情報を入力するの?それによって全然違ってくるよね.(文庫版p.164)」
つまり,生まれ変わりというのは,人格そのものが,死ぬたびに別の人に宿っていくのか,それとも記憶や性格を入れる器のようなものが移っていくのかっていう疑問です.これはひょっとしたらものすごい理論かもしれないなあと感動しました.というのは,一般的には(これって私だけ?)信じる信じないは別にして,生まれ変わりって前者のことだと思っていませんでしたか?
でも,確かに後者の考え方,人格そのものではなくて,記憶とか性格を入れる器のようなものがあって,その器が輪廻するという考え方もありうるわけですね.こう考えると,生まれ変わる前のことをきれいに忘れていることとか,前の人生とは性格が違っているとかの説明もつきますよね.たまに,フロッピーの消し忘れがあると,生前のことを覚えていたりするという説明もつきますよ.ねっ?
あれっと思ったのは,前半に期待を持たせて登場した幼なじみの今泉俊太郎が,なぜか後半は出てこないことくらいかな.
とにかく,お勧めの一冊です.
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする