1級山岳モンテ・グラッパを2度登るジロ・デ・イタリア第20ステージは生憎の雨の中でのスタートとなった。登坂距離18.1kmのモンテ・グラッパは平均勾配8.1%と厳しく、また頂上に近づくにつれ勾配も徐々に上がっていく。最大勾配17%は残り2km地点に登場し、頂上からは26.6kmに渡る急勾配のダウンヒル。そして2度目のモンテ・グラッパを登り、フィニッシュ地点は下ってから4kmの平坦路を進んだ先にあるという難関コースだ。それが雨で濡れているとしたらと考えると背筋が凍る。
前日ほどではないにせよ、結構なアタック合戦が繰り広げられ、残り130km地点で11名の逃げがようやく確定した。マリア・ローザを擁するプロトンは4分ほど後方でUAEが落ち着いた引きを見せる。UAEのこの隊列は今日はポガチャルで勝ちに行くぞという意思表示のようにも見えた。まさに王者の車列だ。
天もポガチャルに味方したかのように、逃げグループが1度目の1級山岳モンテ・グラッパ(残り96.2km)に入る頃には、雨も上がり、路面も乾いていた。一度目のモンテ・グラッパの平均勾配が8.1%と厳しい登りで、11人の逃げが崩壊を始める。エドワルト・トゥーンス(リドル・トレック)などが逃げから遅れる一方でアンドレア・ヴェンドラーメ(デカトロンAG2Rラモンティアル)がペースを上げる。前日に3年振りのジロ区間優勝を飾ったヴェンドラーメの動きには、ユーリ・ホルマン(アルペシン・ドゥクーニンク)とヘノック・ムルブラン(アスタナ・カザクスタン)が追従。
この時点で5名のアシストを残すUAEは、ライバルたちのアタックを抑え込むようにペースを刻む。長い登坂を進む逃げ集団ではシャッフルがかかり、頂上手前で先頭に追いついたジュリオ・ペリツァーリ(VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ)がトップ通過し、山岳賞でシュタインハウザーを抜き2位に立ち、今日の最終ステージはペリツァーリがマリア・アッズーラを着用して走ることになった。若干20歳の若きクライマーには大きな自信になることだろう。
前日の走りでマリア・アッズーラを着用して走ることになったシュタインハウザーだが、前半でアタックを試みるも失敗に終わっている。ジロでステージ優勝を挙げたシュタインハウザーだが、純粋なクライマーではないので、ペリツァーリのように1級山岳の頂上でポイントを取ることは難しかったのだろう。
一度登り返しはあるものの、26.6kmに及ぶ長い下りではペリツァーリとチームメイトのアレッサンドロ・トネッリ、そして第6ステージの勝者ペラヨ・サンチェス(モビスター)の3名が先頭に立つ。プロトンは相変わらずUAEが牽引し、一時は1分を切るまでその差を縮めたていたが、ポガチャルを守るために慎重に下り、2度目のモンテ・グラッパ(残り49km)の麓に至る頃には再び2分半のリードを許していた。
いよいよ最後の決戦が始まる。今大会最年少20歳のペリツァーリはサンチェスを引き離し、単独先頭に立つ。そしてその2分半後方ではUAEのミッケル・ビョーグが苦悶の表情を浮かべながら牽引。ポガチャルのアシストはまだ4枚も残っている。ポガチャル発射体制は完全に整っていた。後はどこでポガチャルがアタックするかだけだった。
その後、UAEの先頭は落車があって心配されたフェリックス・グロスシャートナーからドメン・ノヴァク、そして頂上まで6.6km地点で最終アシストのラファウ・マイカへと引き継がれ、頂上まで5.4km地点で満を持していたポガチャルがアタック。あっという間にマルチネス等の後続を引き離していく。頂上までは5kmほどだが、長い下りがあるのでゴールまでは36km以上あるのだ。
ストラーデ・ビアンケで60km超の単独走を見ているので、このアタックには驚きはなかった。登りで差を開き、安全に下るというのがポガチャルの作戦だったはず。先行するペリツァーリを捉えるも、ひと声かけて共に登り始める。若きクライマーに「ついてこい」とでも言ったのだろうか?やがてペリツァーリも力尽き、ポガチャルの独走が始まる。そんな中でポガチャルが驚くべき行動を取る。サポートスタッフから受け取ったボトルを近づいて来た子供に手渡したのだ。山頂付近では小さな子供にロータッチ。余裕があるといってしまえばそれまでだが、1級山岳を登りながら子供にこんなサービスをする選手は見たことがない。天が見方をしてくれるのも頷ける。
時折カメラに向かって笑顔を見せ、バッサーノ・デル・グラッパに到着したポガチャル。最終ストレートでは沿道の観客からの声援に何度も応え、そして両手を広げてお辞儀をし、区間6勝目と共にマリア・ローザをほぼ確定させた。これでマリア・ローザを着用して5勝というエディ・メルクスの記録に並ぶと共にマリア・ローザを確定させた。後続との差は9分56秒、圧倒的な強さだったといえるだろう。
ただ、ポガチャルのゴールは今日のローマではない。7月21日のニースのマセナ広場でマイヨ・ジョーヌを着ていることなのだ。今回のジロでのポガチャルの走りなら、1998年のパンターニ以来のWツールも夢ではないと感じさてくれる。メンバーも強くなるし、気温も高くなるが、今のポガチャルの完成度ならオリンピックの金メダルもまとめて取ってしまっても驚かない。昨年までの脆さも併せ持つポガチャルとは明らかに違っていたのだから。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます