CYCLINGFAN!!

自転車をこよなく愛し、自分の脚と熱いハートで幾つになっても、可能な限り、どこまでも走り続けます~♪

攀じ登る(4)

2024-08-29 14:58:34 | スポーツ
 森選手が乳酸にかなり拘っているようだったので、少し調べてみました。「乳酸は疲労物質ではない」というのが現在の定説になっているからです。且つてはサイクルロードレース中継では毎日のように耳にしていた言葉のひとつが「乳酸」でした。もう10年以上も前のことです。それが、最近全く耳にすることが無くなっているのです。サイクルロードレース界で「乳酸」は最早疲労物質では無くなっているのです。

 これは、科学的にも実証されていて、マラソンなどの持久系の競技ではレース後の乳酸値は高くないことが明らかになっているのです。筋グリコーゲン(糖)の分解時には乳酸も同時につくられます。乳酸は酸素の供給される活動や運動(日常生活動作やジョギングなど)よりも無酸素性の激しい運動(短距離走など)でより多くつくられますが、身体には乳酸を一旦中和させてから、ミトコンドリアで酸化してエネルギー源として再利用する働きがあるのです。

 乳酸はエネルギー源として再利用されるのですが、クライマーにとって「パンプ」と呼ばれる状況があるようで、この「パンプ」の原因が「乳酸」だというのです。疲労して乳酸が発生すると、血管の外で体液が生成されて筋膜内の圧力が増加し、前腕がパンパンに張ってくる状況をクライミング界では「パンプ」と呼んでいるようです。

 「パンプ」は「パンプアップ」のことで。もともとトレーニング用語のひとつだそうです。筋肉がパンパンに張って来ることを思い浮かべると良いのかもしれません。ある意味、体内に乳酸が極限まで溜まった状態といえるのかもしれません。やがて、ミトコンドリアで酸化してエネルギー源として再利用される前の状態なのでしょう。例えば50mダッシュを2回・3回と繰り返したり、自転車で激坂を登っていると脚がパンパンになり動かくなる状況を思い浮かべて下さい。

 クライミングは自転車と同じ持久系スポーツだと思っていたのですが、大きな思い違いをしていたようです。クライミングは瞬発系の高負荷の要素があるスポーツでした。自転車競技ならヒルクライムレースに近いのかもしれません。常に重力に抗い続けるのは大変です。ヒルクライムでも「脚が売り切れる」という言葉がありますが、限界を超えると脚が動かなくなることを指します。クライミングでは腕がそうなのでしょう。
 とはいえ、辛いからといって大好きなスポーツを辞めてしまう人はいないはずです。そこで、自分の乳酸発生閾値(LT値)を知ることをお勧めします。この乳酸が発生する運動量を知っておくことで、長くそのスポーツを楽しむことができるようになるはずです。
 自転車の場合は心拍数で管理するのが一番手軽です。正確にはパワーメーターを使って脚への負荷を確認する必要もあるのですが、そもそもパワーが限れているホビーライダーには高値の花です。どのギアでどのくらいのケイデンスなら心拍数はこの位という目安を知っていれば、脚が売り切れることはないのですから。
 クライミングにもLT値を上げない技術的要素があるようですが、それは森選手が言っていたように、体幹や足の踵を上手く使い、腕に係る負荷を軽減させることのようです。ボルダリングを苦手とする森選手はアスリートとしてのLT値があまり高くないのかもしれません。それが「乳酸との戦い」という言葉に現れていたのかもしれません。スポーツクライミングではボルダリングが瞬発系、リードは持久系のように見えますが、実はリードも立派な瞬発系の競技なのです。森選手の持つ攀じる力とスタミナはリードでより活かされるということなのでしょう。
 



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攀じ登る(4)

2024-08-28 15:12:19 | スポーツ
 バラエティ番組はあまり観ないのですが、昨夜はスポーツクライミングの森選手が出演すると知り、「踊る!さんま御殿」を観ました。注目はパリオリンピックでのボルダー第1課題の高さに対する森選手の感想でしたが、「高いなと思ったんですけど…スタート。でも自分の脚力とかあれば(行けると思った)自分の実力不足です」と真剣な表情で振り返っていました。明石家さんまも流石で「かわいそう」ではなく「それが世界のルールやもんな!」と返し、森選手も「はい!」と元気よく返事をしていました。

 私が最も興味深かったのが、彼女の登り方に関する発言でした。明石家さんまから握力について尋ねられた森選手は「45(kg)ぐらいですかね…」と答えた後に、周囲の驚きをよそに「クライマーの中では低い方だと…」と本人は首をかしげていたのです。確かに成人男性の平均と比べれば高い数値なのですが、アスリートとしては本人が言うように決して高い方ではありません。
 この握力でどうしてあんなに登れるのかという疑問には「私は引っかけて上るタイプで。第1関節から上を使って引っかけるような登り方。腕に乳酸を溜めないようにしている。腕だけで登るんじゃなくて体幹とか足のかかとか使っている」と答えていたことでした。「攀じる」とは「物に登るのに取りすがるように動く」ことと先に書きましたが、森選手は指先と体幹と足のかかとを使って壁面やホールドに取りすがる登り方、まさに「攀じる」という言葉を体現しているように感じました。

 その結果、腕に疲労物質の乳酸を貯めずに登ることが、森選手のスタミナの秘訣だったのです。瀬戸選手も言っていましたが、乳酸は最終的には筋肉内でエネルギーに替わるのですが、クライミングでは爆発的なパワーではなく持久力が必要で、乳酸がエネルギーに替わる域には入らないようです。
 これはロードバイクでも同じで、坂で高い出力を必要とするようなシーンでは、乳酸がエネルギーに替わることも起きるのですが、低出力の長時間走行だと乳酸が徐々に蓄積されて疲れが蓄積されて行くのです。
 今は乳酸は単なる疲労物質ではないという説が有力なのですが、リード種目で世界一の森選手が「競技中は乳酸との戦い」と力説していたので、スポーツクライミングでは乳酸は未だ疲労物質なのかもしれません。

 たかがバラエティ番組と侮るなかれで、水泳のメダリスト瀬戸と世界一のスポーツクライマーの森のアスリートとしての意見は大変参考になりました。運動後のクールダウンの必要性やこの乳酸問題など、大いに参考になる発言が多く、楽しく観させていただきました。
 
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攀じ登る(3)

2024-08-27 15:01:13 | スポーツ
 とはいえ、これはあくまでもスポーツクライミングを知っている人間の感想です。確かに今回のオリンピックで初めてスポーツクライミングという競技を目にした人にとっては小柄な森選手がかわいそうという感情が生まれたことも確かです。

 単にジャンプしても手が届かなかったことは事実なので、不公平と見た人が感じても仕方が無いのかもしれません。ただ、バスケットボールのリングの高さやバレーボールのネットの高さを不公平という人はいないでしょう。それはバスケットやバレーは世界に認知されたスポーツだからです。
 スポーツクライミングは歴史も新しい競技で、オリンピック種目となったのも前回の東京大会からなので、パリで初めて目にした人も多かったのではないでしょうか?国際スポーツクライミング連盟(IFSC)はここまで意識してはいなかったと思っています。元々、単にジャンプしてホールドを掴むという前提でセッティングされていないのですから。

 ただ、こうした意見がSNS上で噴出したことを受けてIFSCは今後の普及活動をどうしていくのでしょう。やはり誰にでも分かる説明が必要だったと思っています。登山と異なり、街中でも気軽に楽しめるスポーツクライミングの人気は年々高まり、競技人口は60万人を越えているのです。世界ランクを見ても女子リードでは森選手が1位ですし、男子はボルダリングとリードで安楽選手が1位なので、もう少しスポーツクライミングのルールを知ってもらう努力は不可欠だと思っています。
 サイクルロードレースもそうなのですが、なかなかTVで観る機会の無いスポーツはマニアックな感じになってしまいます。地上波での放送こそありおませんが、今はJスポーツでオンデマンド配信もあります。スポーツクライミングも同様です。有料にはなってしまいますが、観たい人は競技を観ることはできる時代に生きているのです。
 競技ではありませんが、今夜放送の「さんま御殿」に森選手が出演するそうです。こうしてメダルを逃した選手でも地上波TVに出演することで、スポーツクライミングという競技に注目が集まることは嬉しいことだと思っています。どうやら第1課題の印象に関する質問があるようで、森選手がどんな表情で何と答えるのか、今から楽しみです。

 ボルダリングが苦手で複合ではメダルに手が届かなかった森選手ですが、攀じ登る力が発揮できるリードでは圧倒的な世界1位と本当に凄いアスリートなので、これからも彼女の登坂力からは目が離せません。来月にはワールドカップのスロベニアとチェコ大会があります。
 
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攀じ登る(2)

2024-08-25 13:23:44 | スポーツ
 ただ、ボルダーの第1課外で最初のホールドに「取り付く」ことが出来なかった森選手。身長154cmの彼女に同情の声が世界中から上がっているようですが、それは少し違うような気がしています。多くの選手が完登できなかった第3課題を森選手だけが完登しているからです。第1課題は身長の低い選手には不利だったことは間違いありませんが、第3課題はむしろ小柄な選手に有利に見えました。この記事の筆者は「(森選手は)コーディネーション能力が求められる課題には苦戦した。ボルダーは五輪種目になって以降、課題内容はダイナミックな動きを求められるものへ変移した。森もこうした動きへの対応力は高めたが、ほかの選手たちがそれを上回る成長曲線を描いたことで課題の難易度は飛躍的に向上し、結果的に森は取り残されてしまった。」と指摘しているのです。

 森選手が苦戦した第1課題についても「森がスタートホールドに飛び乗った時、ハンドホールドは手で触れられる位置にあった。また、銀メダリストで身長158cmのブルック・ラバトゥ(アメリカ・23)がスタートできたことを考えれば、この課題のスタートの成否は身長ではなく、コーディネーション能力の有無と見るほうが妥当だ。」というのです。

 オリンピックの解説をしていた平山ユージ氏も指摘していましたが、「ホールドに飛び乗ったら荷重を意識してしっかり立つ。と同時に左手と右手でそれぞれのホールドをつかんでクライミングウォールから剥がれないように両手両足でバランスを取る」ことが求められていたのです。分かり易く言うと、直接上のホールドに飛びつくのではなく、足元のホールドを利用し、壁面に身体を貼りけるようにして立ち、上のホールドに手を伸ばすことが求められたということです。第2課題でもこの「クライミングウォールから剥がれないように両手両足でバランスを取る」ことが上手く出来ずに完登を逃しているのです。

 こうして振り返ってみると森選手がメダルを逃したのは必然だったのかもしれません。ただ、一方で第1課題と森選手の問題があり世界的にスポーツクライミングが注目されたことで、ロスから正式種目になることが決まっているスポーツクライミングの種目が複合ではなく単独種目になる可能性が高まるかもしれないということでしょう。ワールドカップと同様にリードが単独種目になれば、森選手は金メダル候補の筆頭になるに違いありません。
 



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攀じ登る(1)

2024-08-24 13:09:44 | スポーツ
 「攀じ登る」の「攀じる」とは「物に登るのに取りすがるように動く」ことです。「捩る」も同じく「よじる」と読みますが、こちらは「ねじってまげる」という意味で力強さが大きく違います。
 この「攀じる力」について『文春オンライン』で面白い記事『身長154cm、スタートに届かず“不公平”という声も…スポーツクライミング・森秋彩(20)が4年後さらに注目されるワケ』を見つけました。パリオリンピックのスピードクライミングで注目された森秋彩選手に関するものです。その記事によると森選手の「クライミングの特長は、攀(よ)じる強さにある」というのです。森選手の持久力の高さは知っていましたが、「攀じる強さ」という言葉は新鮮でした。

 ボルダー種目では苦戦しながらも、リード種目であのヤンヤ・ガンブレットをも圧倒したクライムはまさにこの「攀じる強さ」にあったと知り、胸がすく思いがしました。まさに壁に「取りすがるように」登る彼女の姿にはまさにこの「攀じる」という言葉がピッタリはまったのです。
 「よじ登る」という言葉は良く耳にしますが、どこか苦痛を伴う語感がありました。どちらかというと「根性論」を想起させるものでしたが、この記事を読み、森選手のあのリードを思い出すと、本来の「攀じ登る」というのはこういうことなのかと思ってしまいます。

 「『ボルダーのほうがリードよりも好き』という森が、リードで好成績を残しているのは、この特長を生かしやすい種目だからだ。」そうです。小学生の頃から森選手を知る筆者は「この攀じる能力や持久力が高まった背景には、森のこどもの頃からのクライミングの楽しみ方にあったように思う。」と書いています。本当にクライミングが好きなのだろうというのは、競技後、悔しそうに壁面を見上げていた森選手の姿にも感じていました。負けた悔しさより、完登出来なかった悔しさを感じたからでした。

 「森は課題を登るのではなく、上へ下へ右へ左へとクライミングウォールから降りることなく自在に動き回っていた」のだそうです。一度登り始めたらなかなか降りてこないのも有名だったようです。森選手の攀じる力と持久力はこうして養われていったのでしょう。単に力があるだけでは難しいのは「取りすがるように動く」身体の使い方が必要だからです。
 



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