先日、古本屋さんでつい目にはいった作品。映画化もされたので、ご存知の方も多いでしょう。
異人達との夏・・・孤児に育った主人公が、不意に出会った、幼い頃、死に別れたときのままの両親、同じマンションに住む、影のある謎の女、離婚した元妻と仕事仲間・・どこまでが現実で、どこからが夢なのか、それとも、すべてが悪夢?心では「ありえないこと」とわかっていながら、両親との邂逅と女性との愛にのめり込む。そして、出会いと同じく唐突な別れ。
ミステリアスでファンタジックで、ちょっとホラーな作品です。
それでいて、読後感は、何か、懐かしいものに触れたような、清涼感のあるほのぼのした気持ちになりました。
現実には存在しないはずの人間が、主人公のまわりに現れ、不思議な体験をさせてくれるのです。これの、映画になったものをビデオで見たことがあるのですが、この作品との出会いが、また・・・
当時(20年以上前)、少し離れた街で、一人暮らしをしていた私ですが、勤め先のお客様で、ちょっと仲の良くなった方がいました。
こられるたびに少しは会話も弾んだと記憶しています。しかし、職場以外で会うことなどは全くなく、そのかたが学校を卒業して、社会に出てお会いすることもなくなったときには、ちょっと残念に思ったものでした。
ところがある日、一年ぶりくらいに、ひょっこりその方が現れ、久しぶりに仕事を担当しました。うれしく思ったものですが、仕事が終わる頃、その方が唐突に私に聞きました。
「今夜、暇ですか?」
ちょっといぶかしく思いつつも、私が
「・・・はい」
と答えると、これまた唐突に
「今夜、泊めてもらってもいいですか?」
「ん~???」
真意を測りかねて困っていると、笑いながら、
「なんでもないんですけど、一緒にみたいビデオがあって。困ります?」
ことわる理由もなく、OKしたものの、なんだか不思議な感じです。それでも、まあ、お酒と食べ物でもと思って用意して待っていると、約束の時間になって、ノックの音がして。
「お酒、買ってきました」
と、にっこり笑ってその人がやってきました。そのまま、軽く飲んだり食べたりしながら、かなり遅い時間からにもかかわらず、この、「異人達との夏」を、見始めたのです。不思議な現れ方をする、死んだはずの両親や、何となく現れて、いつの間にか恋人になった女性との、奇妙な間柄。。。決して、ハッピーエンドではないラスト。
見終わって、ちょっと感想を言い合ったりして、おしゃべりが続いて。明け方近く、そのままウトウト眠り込んで、昼前に起きて、はっと見たら、帰る用意をしていたその人が、
「どうもありがとうございました。おもしろかったです。ごめんなさいね、つきあわせてしまって」
といって、玄関に向かいました。
「じゃ、また。さようなら」
ドアは閉まりました。
眠いままの頭で考えましたが、私にとっては、この夜自体が、とっても不思議なできごとでした。ホントに、唐突に来て、映画見て、帰って行っただけで、ヘンな話、“期待”するようなことも起きもせず。。。(笑)。しかし、それも当然のように、まるで昔からの友達みたいに、いろいろ話もして、楽しかったことは間違いないのです。
そして、その人とはそれ以来一度も会うこともなく。
いつの間にか記憶に埋もれていたできごとですが、作品を読みながら、あの時のことが、まざまざとよみがえり、懐かしいものに触れたときに胸に起きる、特有の感覚に何度も落ちました。
私にとっての、「異人達との夏」・・。懐かしくも不思議な気持ちにさせられる、思い出深い作品です。