テナー・サックス
ヘビがはうような
スローテンポで
テナー・サックスが
奏でる音色が
ちいさな旅をする
小春日和の
誰かの家の
ベランダのうえの
丸テーブルのうえの
まっ赤なワインのよこの
眠っている小皿のうえの
すこし目覚めかけた
レタスとパセリのよこの
シナモンの粒と
それをきせられた
薄いポークのロースハムに
やっとたどりついた
テナー・サックスの柔らかい音色
いきものはワインをのんで
酔っぱらい
眼をとじてねむっている
なにもかもがいいしれぬ様子
なにもかもがよこたわっている
ただ、よこたわっている
音色の魔法が
すべての欲望を眠らせている
つぎにくるはやまわしの世界のために
つぎにくる軽率なテンポのために