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「報道は腰抜けですけれど」NHK関係者が笑顔で答えた理由…メディアの凋落を加速させた安倍政権の大罪

2025年03月11日 18時19分57秒 | 社会

「報道は腰抜けですけれど」NHK関係者が笑顔で答えた理由…メディアの凋落を加速させた安倍政権の大罪

Yahoo  news  2025/3/11(火)  集英社オンライン 動乱期を生きる #1

 

現代社会においてもしばしば問題視される理不尽で構造的な女性差別問題や、日本の敗戦を開戦前に指摘していた総力戦研究所原爆裁判など、センシティブな問題を正面から描いたNHK連続テレビ小説『虎に翼』社会の問題に切り込む骨太なドラマが評価されるいっぽう、「報道は腰抜けですけれど(笑)」も、とあるNHK関係者の言葉だ。

メディアに対する信頼を土台から掘り崩してしまった日本の政権

 

書籍『動乱期を生きる』より一部を抜粋・再構成し、なぜ日本のテレビ局の“報道部門”が凋落し続けるのかについて日本の凋落を嘆く内田樹氏と山﨑雅弘氏の談話を紹介する。

 

NHKは報道部よりもドラマ班のほうが気骨がある

内田 昨今のNHKは、報道部よりもドラマやドキュメンタリーの制作班のほうが気骨がありますね。先日、NHKの取材を受けました。

優れた企画だったし、うちに来たスタッフの皆さんも面白い方々ばかりでしたので、「最近のNHKはドラマやドキュメンタリーは攻めてますね」と言ったら、その中のお一人がにっこり笑って「報道は『腰抜け』ですけれど」というご返事でした。

なるほど、NHK内部では、腰抜けが報道に残って、気骨がある人たちはドラマやドキュメンタリーや情報番組に追いやられてしまったのだなと知りました。

山崎 昨年放送された『虎に翼』は見応えがありました。途中から見始めたのですが、セリフの一つひとつや画面の演出がよく練られていて、当時の問題に現代社会の問題が違和感なく投影される形になっている。

構造的で理不尽な女性差別だけでなく、なぜか女性を敵視する「弱者男性」の心情まで丁寧に描いていました。脚本家の吉田恵里香さんは、本当に手練だと思います。

内田 朝ドラは視聴者の数が多いですから、使いようになってはプロパガンダ装置にもなりかねない。けれども、体制へのカウンターとして『虎に翼』のような作品を送り出してくる制作陣が残っている。そこに救いがあると思いました。

山崎 敗戦後の民法改正のくだりでは、「高齢男性がしがみつく日本の伝統とやらは、実際には明治期につくられたものばかり」と女性議員がさらっと指摘するシーンがあるのですが、あれをNHKが電波に乗せたのは画期的でした。

自民党など一部の国会議員が崇め奉る靖国神社も、夫婦同姓も、明治期の大日本帝国の国家体制に合うように作られた「伝統と称するもの」でしかないんです。

日本の敗戦を開戦前に指摘していた総力戦研究所の存在や、あまり知られていない原爆裁判の描写からも、制作陣の気概のようなものを感じ取れました。

内田 民放ではもはや見ることができない光景ですね。かつてNHKは体制側で、民放のほうに在野的な批評性がありましたけれど、ドラマやドキュメンタリーについては、もう構図が逆転しましたね。

高市早苗の「公正中立ではない放送局には電波停止を命じる可能性がある」発言

山崎 2012年に第二次安倍政権が発足して以降、自民党政権によるメディアへの圧力が段階的にエスカレートし、当時の高市早苗総務大臣が「公正中立ではない放送局には電波停止を命じる可能性がある」とまで言及しましたが、一昔前であれば、あの発言はテレビ局から激しい批判の逆襲を食らって逆に大臣辞任にまで追い詰められてもおかしくなかったと思います。

内田 あれは少し昔なら内閣総辞職に追い込まれるような暴言だったと僕も思います。それがペナルティなしでまかり通ってしまったのですから、いかにメディアの足腰が弱くなったかということの証明でしょう。

安倍政権のメディア対策は、要するに「しつこい」ということと「非常識」ということに尽きると思います。ふつうならそこまでやらないというようなことをやった。

いちいち番組内容に介入し、個別の番組の出演者にまでクレームをつけた。ふつうはテレビ番組を全部チェックして、その一つひとつについて政府に批判的かどうかなんか査定するようなくだらないことに官邸の貴重な人的リソースは割きません。外交でも内政でもそんなことより重要な政治的イシューはいくらでもありますから。

でも、安倍政権はその優先順位をひっくり返して、「政府批判をするメディアを叩く」ということを最優先の政治課題にした。この「しつこさ」と「非常識」ぶりは僕が知る限り、これまでの自民党政府のメディア対策には見られなかったものです。

でも、これはある意味で卓越した着眼点だったと思います。「叩いて」みたら、メディアは思いのほか弱腰だということがわかったからです。一度きりのクレームには抵抗するけれども、三度四度とクレームを続けると腰が砕ける。

ていねいな口調での抗議には抵抗できても、「ふざけたことをすると停波するぞ」というような非常識な恫喝には屈する。問題はここでも「程度の差」だったんです。

これまで政府がメディアにいくぶんか配慮していたのは、メディアの抵抗力を過大評価していたからだということがわかった。それが第二次安倍政権の最大の「収穫」だったと思います。「メディアは腰抜けだ」ということを政府が知り、国民も知った。

それによってメディアに対する信頼性を土台から掘り崩すことに成功した。こうやって僕たちが「日本のメディアは腰抜けだ」というようなことをあたかも周知の事実のごとく言い切れるのも、それが安倍政権が開示した事実だからなんです。

もちろん、それまで「第四の権力」というような過大評価に安住してきて、タフな批評的知性を鍛えてこなかったメディア自身の責任も大きいとは思います。それでも、日本における「メディアの凋落」を加速させたのが安倍政権であることは間違いないです。

 

山崎雅弘(やまざき まさひろ)1967年大阪府生まれ。戦史・紛争史研究家。主な著書に『詭弁社会日本を蝕む“怪物”の正体』(祥伝社新書)、『底が抜けた国自浄能力を失った日本は再生できるのか?』『第二次世界大戦秘史』(ともに朝日新書)、『未完の敗戦』(集英社新書)など。Twitter(現X)アカウントは、@mas__yamazaki

内田樹(うちだ たつる)1950年東京都生まれ。思想家。神戸女学院大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論。神戸市で哲学と武道のための私塾「凱風館」を主宰。著書に『日本辺境論』(新潮新書)ほか多数。


何度でも言う、福島原発事故の最大の戦犯は津波対策を拒否した安倍晋三だ

2025年03月11日 14時21分25秒 | 社会

ウクライナ危機でも原発新設を言い張る安倍晋三! 何度でも言う、福島原発事故の最大の戦犯は津波対策を拒否した安倍だ

2022.03.11 リテラ (エンジョウトオル)

 

東日本大震災・福島第一原発事故から11年。しかし、この間の被災地軽視・棄民政策によって、復興は当初の見込みより大幅に遅れ、いまも3万人以上が避難生活を強いられている。その多くが原発事故による避難者だ。

 さらにロシアによるウクライナ侵略でも、チェルノブイリ原発が占拠、ザポロジエ原発が攻撃・制圧されるなど、あらためて原子力発電所の危険性が浮き彫りになっている。

 ところが、きのう10日の記事(https://lite-ra.com/2022/03/post-6169.html)でもお伝えしたように、逆にロシアのウクライナ侵略を口実に、電力の供給不足やコスト高に陥るなどとして、「原発再稼働」推進を訴える声が自民党、維新などから上がっているその急先鋒である安倍晋三元首相にいたっては、再稼働どころか、原発新設まで言い出しているのだ。

 安倍元首相は「リプレイス(建て替え)も考えなければならない」(2月27日フジテレビ)などとし、次世代原子力である小型モジュール炉への建て替えを主張。火事場泥棒としか言いようがない

 いや、火事場泥棒どころじゃない。あらためて言っておかなければならないだろう。そもそも安倍晋三は、福島第一原発事故じたいを引き起こした最大の“戦犯”なのだ。

 言っておくが、これは歴代自民党政権が昔から原発政策を推進してきたとか、そういう抽象的なレベルの話ではない。もっと具体的かつ直接的なものだ。

 実は、第一次安倍政権だった2006年すでに国会で福島原発事故と同じ事態が起きる可能性が指摘されていた。にもかかわらず、ときの総理大臣だった安倍晋三は、「日本の原発でそういう事態は考えられない」として、一切の対策を拒否していたのである。

 しかも、東日本大震災後、安倍は、原発事故の責任を当時の菅直人首相と民主党政権に押し付け、真実を追及するメディアを「捏造だ!」と恫喝し、自身の重大責任を隠蔽してきた。そして、無反省に原発再稼働や原発輸出という流れをつくりだした。

 本サイトでは3月11日を迎えるたびに、安倍晋三元首相こそが原発事故の“戦犯”であること、そして、その責任を隠すためメディアを黙らせてきたことを記事にしてきた。今年もまたあらためて、その事実をお伝えしたい。

(編集部)

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  • 福島原発事故から5年前、安倍は「全電源喪失はありえない」と地震対策を拒否

 故郷に帰れない多くの被災者を生み出し、放射性物質を広範囲にまき散らし、作物を汚染し、今も国土や海を汚し続けている福島原発事故。

 だが、この国家による犯罪ともいえる重大な事故をめぐって、ほとんど語られてこなかった事実がある。それは、現内閣総理大臣である安倍晋三の罪についてだ。

 こういうと、安倍支持者はおそらく原発事故が起きたときの首相は民主党の菅直人じゃないか、サヨクが安倍さん憎しで何をいっているのか、というだろう。そうでない人も、原発を推進してきたのは自民党だが、歴代の政権すべてがかかわっていることであり、安倍首相ひとりの問題じゃない、と考えるかもしれない。

 だが、福島原発の事故に関して安倍首相はきわめて直接的な責任を負っている。第一次政権で今と同じ内閣総理大臣の椅子に座っていた2006年、安倍首相は国会で福島原発事故と同じ事態が起きる可能性を指摘されながら、「日本の原発でそういう事態は考えられない」として、対策を拒否していたのだ。

 周知のように、福島原発の事故は津波によって全電源が喪失し、原子炉の冷却機能が失われたことが原因で、政府や電力会社はこうした事態を専門家さえ予測できない想定外のことだったと弁明してきた。

 しかし、実際にはそうではなく、原発事故の5年前に、国会質問でその可能性が指摘されていたのだ。質問をしたのは共産党の吉井英勝衆院議員(当時)。京都大学工学部原子核工学科出身の吉井議員は以前から原発問題に取り組んでいたが、2006年から日本の原発が地震や津波で冷却機能を失う可能性があることを再三にわたって追及していた。3月には、津波で冷却水を取水できなくなる可能性を国会で質問。4月には福島第一原発を視察して、老朽化している施設の危険性を訴えていた。

 そして、第一次安倍政権が誕生して3カ月後の同年12月13日には「巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書」を政府宛に提出。「巨大な地震の発生によって、原発の機器を作動させる電源が喪失する場合の問題も大きい」として、電源喪失によって原子炉が冷却できなくなる危険性があることを指摘した。

 ところが、この質問主意書に対して、同年12月22日、「内閣総理大臣 安倍晋三」名で答弁書が出されているのだが、これがひどいシロモノなのだ。質問に何一つまともに答えず、平気でデタラメを強弁するだけだったのである。

まさに福島で起きた“バックアップ電源機能不全”の実例を指摘されても安倍は…

 まず、吉井議員は「原発からの高圧送電鉄塔が倒壊すると、原発の負荷電力ゼロになって原子炉停止(スクラムがかかる)だけでなく、停止した原発の機器冷却系を作動させるための外部電源が得られなくなるのではないか。」という質問を投げかけていたのだが、安倍首相はこんな答弁をしている。

「外部電源から電力の供給を受けられなくなった場合でも、非常用所内電源からの電力により、停止した原子炉の冷却が可能である。」

 吉井議員はこうした回答を予測していたのか、次に「現実には、自家発電機(ディーゼル発電機)の事故で原子炉が停止するなど、バックアップ機能が働かない原発事故があったのではないか。」とたたみかける。

 しかし、これについても、安倍首相は「我が国において、非常用ディーゼル発電機のトラブルにより原子炉が停止した事例はなく、また、必要な電源が確保できずに冷却機能が失われた事例はない」と一蹴。

 これに対して、吉井議員はスウェーデンのフォルスマルク原発で、4系列あったバックアップ電源のうち2系列が事故にあって機能しなくなった事実を指摘。「日本の原発の約六割はバックアップ電源が二系列ではないのか。仮に、フォルクスマルク原発1号事故と同じように、二系列で事故が発生すると、機器冷却系の電源が全く取れなくなるのではないか。」と糾した。

 すると、安倍首相はこの質問に対して、こう言い切っているのである。

「我が国の原子炉施設は、フォルスマルク発電所一号炉とは異なる設計となっていることなどから、同発電所一号炉の事案と同様の事態が発生するとは考えられない。」

 吉井議員が問題にしているのはバックアップ電源の数のことであり、原子炉の設計とは関係ない。実際、福島原発はバックアップ電源が全部ダメになって、あの深刻な事故が起きた。それを安倍首相は「設計が違うから、同様の事態が発生するとは考えられない」とデタラメを強弁していたのだ。

 そして、吉井議員がこの非常用電源喪失に関する調査や対策強化を求めたことに対しても、安倍首相は「地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については、(中略)経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているものであり、御指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである。」と、現状で十分との認識を示したのだ。

 重ね重ね言うが、福島原発が世界を震撼させるような重大な事故を起こした最大の原因は、バックアップ電源の喪失である。もし、このときに安倍首相がバックアップ電源の検証をして、海外並みに4系列などに増やす対策を講じていたら、福島原発事故は起きなかったかもしれないのだ

 だが、安倍首相はそれを拒否し、事故を未然に防ぐ最大のチャンスを無視した。これは明らかに不作為の違法行為であり、本来なら、刑事責任さえ問われかねない犯罪行為だ。

 ところが、安倍首相はこんな重大な罪を犯しながら、反省する素振りも謝罪する様子もない。それどころか、原発事故の直後から、海水注入中止命令などのデマをでっちあげて菅直人首相を攻撃。その罪を民主党にすべておっかぶせ続けてきた

安倍が責任逃れのためにぶちまけたメディアへの恫喝、お得意の「捏造だ」攻撃

 その厚顔ぶりに唖然とさせられるが、それにしても、なぜ安倍首相はこれまでこの無責任デタラメ答弁の問題を追及されないまま、責任を取らずに逃げおおせてきたのか。

 この背景には、いつものメディアへの恫喝があった。

 実は、下野していた自民党で安倍が総裁に返り咲いた直後の2012年10月、「サンデー毎日」(毎日新聞社)がこの事実を報道したことがある。1ページの短い記事だったが、本サイトが指摘したのと同じ、共産党の吉井英勝衆院議員(当時)の質問主意書に対して安倍首相が提出した答弁書のデタラメな内容を紹介。吉井議員のこんなコメントを掲載するものだった。

いくら警告しても、マジメに対策を取らなかった安倍内閣の不作為は重大です、そんな安倍氏が総裁に返り咲いて首相再登板をうかがっているのは、本人も自民党も福島事故の責任を感じていない証拠でしょう

 ところが、これに対して、安倍は大好きなFacebookで、こう反撃したのだ。

「吉井議員の質問主意書には『津波で外部電源が得られなくなる』との指摘はなく、さらにサンデー毎日が吉井議員の質問に回答として引用した政府答弁書の回答部分は別の質問に対する回答部分であって、まったくのデタラメ捏造記事という他ありません」(現在は削除)

 出た、お得意の「捏造」攻撃(笑)。だが、「サンデー毎日」の報道は捏造でもなんでもなかった。たしかに安倍首相の言うように、吉井議員が質問で外部電源が得られなくなる理由としてあげたのは、津波でなく「地震で送電鉄塔の倒壊や折損事故」だった。しかし、だったらなんだというのだろう。そもそも、吉井議員が問題にしていたのは外部電源が得られなくなる理由ではなく、外部電源が得られなくなった場合のバックアップ(非常用)電源の不備だった。

 吉井議員は質問主意書の中で、バックアップ電源4系列中2系列が機能しなくなったスウェーデンの原発事故を引き合いに出しながら、日本の多くの原発が2系列しかないことを危惧。2系列だと両方とも電源喪失して原子炉を冷却できなくなり、大事故につながる可能性があると指摘した。

 それに対して、安倍首相が「我が国の原子炉施設で同様の事態が発生するとは考えられない」と回答したのだ。福島原発の事故はまさにバックアップ電源が喪失したことで起きたものであり、その意味で「サンデー毎日」の「津波に襲われた福島原発を"予言"するような指摘を、十分な調査をせずに『大丈夫』と受け流した」という記述はまったく正しい。

 もし、質問主意書が地震でなく津波と書いていたら、安倍首相は、バックアップ電源の検証を行って、2系列を海外並みの4系列にするよう指導していたのか。そんなはずはないだろう。

 ようするに、安倍首相は自分の責任をごまかすために、枝葉末節の部分をクローズアップし、問題をスリカエ、「記事は捏造」という印象操作を行っているだけなのだ。

 だいたい、これが捏造だとしたら、メルマガで「菅直人首相の命令で福島原発の海水注入が中断された」というデマを拡散した安倍首相はどうなのか、と言いたくなるではないか。

安倍の盟友・甘利明がテレ東にしかけたトンデモ抗議と、法廷で明かされた真相

 だが、こうした卑劣な責任逃れを行っているのは安倍首相だけではない。実は安倍首相の捏造攻撃にはお手本があった。それは安倍の盟友の甘利明・経産相がその少し前、テレビ東京に対して行っていた抗議だ。前述した安倍首相のFacebookの投稿はこう続けられている。

「昨年テレビ東京が安倍内閣の経産大臣だった甘利代議士に取材した放送で同様の虚偽報道がされたそうです。

 甘利事務所は強く抗議し、テレビ東京が「質問主意書には、津波で電源を失う危険性についての記述はないにもかかわらず、放送では、その危険性があるかのような誤った認識の下、自民党政権の原子力政策に関する報道を行いました」として、虚偽内容の放送であったことを認め、放送法第4条に基づく訂正放送をしたとのことです

 天下のサンデー毎日がすでに訂正放送を行い、謝罪したテレビ局と同じねつ造をするとは(笑)」

 安倍が「同様の虚偽報道」としているのは、2011年6月18日放送の『週刊ニュース新書』(テレビ東京系)のことだ。同番組は原発事故の責任を検証する企画で、第一次安倍内閣でも経産相をつとめ、原子力行政に深くかかわっていた甘利をインタビューし、その際にやはり吉井議員の質問主意書に対する安倍首相の答弁書の問題を追及した。すると、突然、甘利が席を立って、別室に姿を消した。そして、記者にテープを消し、インタビューを流さないように要求したのである。

 テレ東の記者は当然、その要求を拒否。番組では、甘利議員がいなくなって空席となった椅子を映し「取材は中断となりました」とナレーションとテロップを入れて放送した。

 これに対して、放映後、甘利事務所がテレビ東京に抗議してきたのだ。しかも、テレビ東京が完全謝罪を拒否したところ、甘利は東京地裁にテレビ東京と記者3名を名誉毀損で訴えたのである。

 ちなみにこの法廷では、テレビ東京の記者の意見陳述で、甘利元経産相のとんでもない本音が暴露されている。

 甘利元経産相は別室に呼び出した記者に、「これは私を陥れるための取材だ。放送は認めない。テープを消せ」と何度も恫喝し、それを拒否されると、逆ギレしてこう叫んだのだという。

「何度も言うが、原子力安全委員会が安全基準を決める。彼らが決めた基準を経済産業省は事業者に伝えるだけ。(中略)大臣なんて細かいことなんて分かるはずないし、そんな権限がないことくらい分かってるだろう。(質問主意書への)答弁書だって閣議前の2分間かそこらで説明を受けるだけだ」

原発は全部止まる。企業はどんどん海外へ出て行く。もう日本は終わりだ。落ちる所まで落ちればいい。もう私の知った事ではない

スラップ訴訟でマスコミは完全に萎縮、いまなお放置され続けている安倍の罪

 これが、経産大臣として原子力行政を司った人間の言葉か、と耳を疑いたくなるが、この裁判にいたる経緯からもわかるように、甘利サイドの抗議、訴訟のメインは質問主意書の内容が「津波でなく地震だった」という話ではなかった。いきなり質問主意書を持ち出してきたことがルール違反だ、自分の承諾なしにインタビューを放映した、自分が逃げたという印象を与えるような報道をされたことが「名誉毀損にあたる」と訴えてきたのである。

 ただ、それだけでは大義がたたないために、テレ東が番組で、「津波による電源喪失を指摘」と報じていたことをとらえ、今回の安倍首相と同じく「質問主意書には津波のことは書いていない」とついでに抗議したのだ。

 そういう意味で、甘利の抗議と訴訟は明らかなイチャモンであり、スラップ訴訟としか思えないものだった。そもそも、甘利や安倍は吉井の質問主意書に津波のことが書いていないというようなことをいっているが、実際は、津波によって冷却機能喪失の危険性を指摘する記述がある。

 だが、弱腰のテレビ東京は、訴訟を起こされる前になんとかなだめようと、地震を津波と間違えた部分だけを訂正してしまった。その結果、訴訟でもほとんどのところで甘利側の言い分が却下されたが、この枝葉末節の部分をテレ東がすでに間違いを認めているとみなされ、330万円の損害賠償金がテレ東側に命じられた(もちろん、この判決の背景には政治家が起こした名誉毀損訴訟についてほとんど政治家側を勝たせ続けている裁判所の体質もある)

 しかも、テレ東は現場の意向を無視して控訴を断念。報道そのものが「虚偽」「捏造」だったということになってしまった。

 ようするに、安倍首相はこのオトモダチ・甘利が使ったやり口をそのままならって、責任追及の動きを封じ込めようとしたのである。しかも、テレ東がお詫びを出したという結果をちらつかせることで、他のマスコミを封じ込めようとした。

 実際、「サンデー毎日」はさすがにお詫びを出したりはしなかったが、新聞・テレビはすでに甘利のスラップ訴訟で萎縮していたところに安倍の捏造攻撃が加わり、この問題を扱おうとする動きはほとんどなくなった。

 そして、翌年、第二次安倍内閣が発足すると、安倍首相はこれとまったく同じ手口で、自分に批判的なマスコミを片っ端からツブシにかかった枝葉末節の間違いを針小棒大に取り上げて、「捏造」と喧伝し、批判報道を押さえ込む――。さらに、読売、産経を使って、菅直人元首相や民主党政権の対応のまずさを次々に報道させ、完全に原発事故は菅政権のせいという世論をつくりだしてしまった

 こうした安倍首相とその仲間たちの謀略体質には恐怖さえ覚えるが、もっと恐ろしいのは、彼らが政権をとって、再び原発政策を決める地位にあることだ。不作為の違法行為によってあの苛烈な事故を引き起こしながら、その責任を一切感じることなく、デマを流して他党に責任を押しつける総理大臣。そのもとで、反対を押し切って進められた原発再稼働。そして、まさかの原発新設議論の着手……。

 このままいけば、“フクシマ”は確実に繰り返されることになる。


内部留保へも課税するのは妥当だ 内部留保膨らむ理由は「人件費減と法人税減税」 

2025年03月10日 23時29分53秒 | 社会

内部留保膨らむ理由は「人件費減と法人税減税」 内部留保へも課税するのは妥当だ

PRESIDENT 2019年12月13日号 小栗 崇資 駒澤大学経済学部教授

 

企業の内部留保はなぜ増え続けるのか?

2018年度日本企業の内部留保(利益剰余金)は、財務省「法人企業統計」によれば約463兆円7年連続で過去最高を更新しました。なぜ内部留保は増え続けるのか。その背景と問題について考えてみましょう。

内部留保とは、簡単に言えば、当期純利益から配当を差し引いた残りの利益のことです。企業の付加価値は、売上高から仕入れによる売上原価を控除して得られる売上総利益(粗利)から減価償却費を差し引いた分がほぼ相当すると考えられます。そこから人件費(労働への分配)、銀行などへの支払利息(他人資本への分配)、法人税等(インフラを整備する政府・自治体への分配)、そして利益へと分配されます。利益はさらに配当(自己資本への分配)留保利益(企業への分配)に分かれ、後者が内部留保に当たります。

「法人企業統計」に基づき、資本金10億円以上の約5000社の大企業(金融を除く全産業)のデータを、1971年度から経済の節目となるほぼ16年間ごとの段階に区切って分析すると、内部留保は、21世紀以降急激に増加してきたことがわかります。

内部留保は設備投資に使われた

71~85年度は、国際通貨危機とオイルショックの影響で高度成長から低成長への移行を経て、再び景気回復過程に入る、バブル直前の段階です。この間、内部留保の要因となる売上高は82.3兆円から383.2兆円に急激に伸びています。結果、利益も増え、公表されている内部留保増加分は29.4兆円。さらに新株発行や引当金による資金の増加分を実質内部留保増加分と考えると、その額だけで21.2兆円。この間の設備投資は70.9兆円増加していることから、内部留保は設備投資に使われたことがわかります。

86~00年度は、バブル経済の隆盛と崩壊後の不況の段階です。この間も、売上高は347.7兆円から527.0兆円に増加。公表内部留保増加分は51.8兆円、実質内部留保増加分は49.6兆円に上りました。この間の設備投資増加分は114.9兆円で、やはり内部留保は設備投資に充てられていました

01~17年度は、様子が一変します。売上高の増加は約1.1倍で、ほとんど増えていません。しかし、利益だけは上がっていて、公表内部留保増加分は131.9兆円に上ります。売上高は伸びないのに、なぜ利益は伸びているのでしょうか。

理由は2つあります。1つは、90年代末から始まった正規雇用の削減と非正規雇用の拡大による人件費の削減です。従業員1人当たり給付は01年度の764万円をピークに減り続け、09年度には668万円まで低下し、その後も700万円を上回ることはありません。仮に01年度の764万円が毎年度同じ額で維持され続けたと仮定し、従業員数に乗じた額と、実際の給付額との差を加算すると、17年間の人件費の差額は77.4兆円に上ります。

もう1つの理由は法人税の減税です。住民税、事業税を加えた法人3税の実効税率(東京)は97年まで49.98%(法人税のみでは37.5%)でしたが、段階的に引き下げられ、15年には33.06%(同23.9%)にまで低下しています。仮に49.98%の実効税率が17年まで続いたとすると、17年間で38.6兆円が削減されたことになります。

この2つの数字を足すと、この間の公表内部留保増加分131.9兆円に近い数字であることがわかります。さらに、新株発行や合併などによる資金の増加分(実質内部留保増加分)が63.3兆円。これらの増加分が何に使われているかというと、金融投資(68.7兆円増加)、自社株購入(17.9兆円増加)、そして子会社投資(127.1兆円増加)です。それに対して、設備投資は10%近く減少しています。

こうしてみると、21世紀に入り、まるで様相の異なる資金構造ができていることがわかります。人件費削減や法人減税によって増えた内部留保が、設備投資ではなく金融投資や子会社設置、M&Aなどに回っているのです。

「子会社に投資しているのだからいいのではないか」という指摘もあります。00年に主要財務諸表が連結会計に変わったのを機に、グループ経営に転換し子会社をつくる企業が増えました。しかしこの間、設備投資が全体で増えていないということは、恐らく海外子会社に投資していると考えられます。

日本企業の海外での投資動向がうかがえるのが、日本銀行「国際収支統計」の対外投資データです。日本の直接投資(出資が10%以上の投資)残高(17年)日本の証券投資(出資が10%未満の投資)残高(13年※)のそれぞれ上位10カ国の金額を合計すると、1位は米国ですが、2位はケイマン、3位はオランダとなります。ケイマンはタックス・ヘイブン(租税回避地)として知られ、オランダはEUの中の軽課税国です。このデータからは、海外投資のすべてが設備投資に回っているわけではないということがわかります。

21世紀以降、日本企業の利益は、売上高を増やすことによってではなく、人件費削減や法人税減税など、付加価値の分配構造を変えることによって生み出される形になっています。その利益は金融投資や海外投資に回り、企業は最高益を更新し続ける一方で、従業員給付の削減、法人税減税と抱き合わせの消費税増税によって消費性向は低下し、国内市場は縮小。企業は海外に出ていくという悪循環に陥っています。

企業が内部留保を積み上げるのは、90年代に経験したバブル崩壊後の不況やグローバル化に対する恐怖感からだと考えられます。しかし、内部留保が異常に積み上がっている現在の状況は、富の偏在につながり、格差を生み出す原因にもなっているのです。

内部留保に課税をするべきか?

こうした経済の悪循環から脱するには、内部留保を社会的に活用することが重要です。しかし、個々の企業に「恐怖感を払拭しなさい」と言っても、自助努力でできることではありません。内部留保をもっと活用させるような社会的なルールが必要だと考えます。

その一手段として考えられるのが、内部留保への課税です。米国では1930年代のニューディール政策の一環として導入され、現在まで継続。台湾では98年から、韓国でも14年から実施されています。日本でも、資本金1億円以上の同族会社の内部留保増加額には10~20%の課税がされています。

内部留保への課税は二重課税

内部留保への課税は「二重課税」だという批判があります。すでに法人税により毎期の純利益に課税されており、税引き後の利益のうち社内に留保された利益への課税となるからです。

日本の法人税は法人擬制説(会社を株主の集合体と見る説)の立場から、理論上は利益がほとんど株主へ配当として回ることを想定し、法人への課税と株主個人の配当所得への課税の2段階課税の仕組みを作ってきました。1段階目で法人の当期利益に課税がなされ、2段階目で利益が配当された株主の個人所得に課税が行われるという仕組みです。しかし、現在の日本の株主構成では、個人株主は17.5%にすぎず、残りの80%以上を占める法人株主は非課税です。つまり、当期利益への2段階目の課税が配当にはあるものの、内部留保にはないことになります。そこで、個人への配当に税金がかかるのと同様に、内部留保へも課税するのは妥当だと考えられます。

内部留保課税は1つの検討要素です。膨大な内部留保を経済の活性化や福祉の充実にどう活かすかを、国全体で議論すべき時に来ていると思います。

(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)


金子勝 手詰まり日本、このままでは政治も経済も破綻だ 公正なルールを確立して地域分散ネットワーク社会をつくる

2025年03月10日 21時22分37秒 | 社会

手詰まり日本、このままでは政治も経済も破綻だ スタグフレーションをくぐりぬけ、公正なルールを確立して地域分散ネットワーク社会をつくる

立教大学大学院特任教授 金子 勝 さんに聴く

 

2022・2・6 現代の理論 第29号

 (🍓減税ポピュリズムは老vs青の分断。中間層・貧困層の分断ピロパガンダ。敵は、大企業・超富裕層などの支配層。大企業への内部留保課税、超富裕層への課税が社会保険料の低減や手取り収入を増やす。自公・維新・国民はその事実を隠蔽して矛先を変えさせている。)

アベノミクスの全面破綻と急激なスタグフレーション

手詰まりで身動きできない日本

内部留保課税で賃上げを進める

低所得者への再分配や中小企業保護を強化する

外からのショックを避けられる地域分散ネットワーク

公正なルールを確立し、地方で雇用を作り出す

イノベーティブ福祉国家へ

 

―――コロナとそれへの対策で、日本の経済社会が危機的だという『金子勝の言いたい放題』(「不況下の物価高騰2%超目前 露呈する政策破綻」)を拝見しました。酷いことになっていてこの先どうなるのだろうかと思いました。2022年は日本の分岐点だと感じたところです。現状の評価と見通しを語っていただいた上で、それを乗り越えて再生する道を示していただきたいのです。大きく二つに分けて、まず日本経済の危機の現状について。

 

金子 コロナという現象がもたらしていることについて、余りにも認識が甘い。メディアがほとんど死んでいるので何も伝わらない。感染の実態もそうだが、経済的な打撃が非常に大きいということに関して、正しく受け止められていないことが気になる。リスクに対して無防備なのは、バブルの時もそうだしその崩壊後もそうだった。原発事故もそうだ。深く考えずに簡単に再稼働した。それと同じことを今も続けている。

100年前のスペイン風邪と例えられるが、あの時代は世界大戦、ロシア革命と日本では米騒動と厳しい時代だった。今回のコロナに関して、2年間生産や流通が止まり、グローバル化した中でサプライチェーンが寸断されており、少なくとも石油ショックに匹敵することが起きていると理解されていない。

余り気付かれていないが、アジアも大変な感染拡大で、サプライチェーンで言うと、例えば湯沸かし器が作れなくなった。あれはベトナムの部品供給が止まったから。ベトナムは大きな感染者数で、死者数は日本よりも多いくらいの厳しい状況。半導体関連も同様で、ベトナムに進出しているサムソン(ベトナムサムソン)では電子機器の部品その他も相当に厳しい。米商務省が1月25日に調査報告書を出し、半導体不足は22年後半期でも解消されないとしている。当初は甘く見ていたが、サプライチェーンの回復は簡単ではない、時間がかかるだろうという見方にだんだん傾いている。

さらに、世界中が膨大な金融緩和を続けたために投機マネーが溢れている結果、石油の価格が上昇している。はっきりとはわからないが、万一ウクライナにロシアが侵攻すると、制裁発動とともにロシア・ドイツの地下ガスパイプラインが停止し、石油危機に陥ってしまう。と考えると、リスク要因がたくさん眠っているのに、みなぼーっとしているということだ。

アベノミクスの全面破綻と急激なスタグフレーション

金子 オミクロン株はインフルエンザなみで対策不要だ、という戦時中のような楽観論が政府筋からたれ流されているが、5%くらいアメリカやイギリスで重症化させ死者を生んでいるデルタ変異株(第5波のAY29とは異なる株)も入ってきている。政府がゲノム解析データを公開しないので、正しい状況が見えていない。経済の面では、先に述べたように、少なくとも石油ショック並みのことは起きる可能性がかなり出ているというのが、今の局面だろう。

去年の10月段階では、物価上昇は一時的だと言っていたが、11、12月の物価上昇が激しくなるにつれて「落ち着くには1年かかる」などと言われだしている。石油ショックは80年代の前半までずっと10年間ほど影響したのでそこまでいくかどうかはともかく、スタグフレーション(不況下の物価上昇)は深刻で石油ショックの後と似た事態が起きつつあると見ざるを得ない。

政策で見ると、アベノミクスとそれに乗ったリフレ派や MMT 論者、その上に立つ岸田政権も全て破綻し始めている。物価上昇が激しいので、イギリスはすでに去年12月に利上げした。さらに2月初めに0.5%程度上げるのではないかとも言われている。イギリスの11月の物価上昇率が対前年比5.1%で、石油ショック並みだったからだ。アメリカの物価上昇率は12月で前年比7%。これも40年ぶり、石油ショック直後のスタグフレーションと同じ状況になりつつあるので、みな危機感がすごい。

サマーズ(元財務長官)はアメリカのエスタブリッシュメントの代表だが、(私は嫌いだけれど)ここ数年長期停滞論にだんだん傾いている。長期停滞論は2002年に私が一番早く言ったことだけれど、その後、水野和夫さんは全く違った超歴史的観点から、翌年にそれを言った。サマーズは、ここ数年先進国の成長率が下がってきているので、長期停滞だと言い始めている。

長期停滞傾向に合わせて、この物価上昇が激しくなった時に、日本のアベノミクスは失敗モデルだとの認識がアメリカの中で共有されつつある。朝日新聞が取り上げたが、米欧は「ゼロ成長、ゼロインフレ、ゼロ金利」という「日本病」から抜けられないことを警戒しており、「日本病」にならないために、とにかく早く利上げをしてゼロ金利状態を抜けよう、つまりインフレ退治をとにかく急がないといけないと、彼らは言っている。それが日本モデルの失敗に対する教訓という訳だ。このままずるずる進むと抜け出られなくなって、身動きできなくなる。ところが、日本のリフレ派とか MMT論者はこれでいいかのように言う。まだ大丈夫だという話はするが、どうしたら抜けられるかという話は一切ない。

アメリカでは、そこから抜け出ようと動き始めている。12月14~15日のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録が公開されたが、そこでは、3回の利上げと共に金融緩和の縮小、終了を進めるべきだとの強硬論が出ていた。そしてFRBは3月には最初の利上げと金融緩和終結を行なうと正式表明した。

世界中が金融緩和から脱出しようとしている。投機筋は利上げを読んで、長期金利が上昇している。アメリカ10年債の金利が1月19日には1.88%までいった。2年債の金利も1%を上回った。一方の日本は金利を上げられない状態に陥っているので、日米の金利差が拡大するのは不可避の流れになっている予想ではかなり極端な円安が進んでしまう可能性もあって、論者によっては円安オーバーシューティングが起こるとまで言っている。例えば榊原英輔までも1ドル130円までいくという議論をしている。そういう議論が始まっている状況だ。

日本が金利を上げられない理由は、1000兆円も国債を出し続けて累積したからだわずかの金利上昇でも、当然のことながら、国債費、未払元利償還費がどんどん上がってしまう状態に入ったということだ。アベノミクスに乗ったリフレ派とかMMT論者が無責任に煽り続けた結果だ。

財務省によれば、10年債の利率が1%上がると1年目で0.8兆円国債費が増える。2年目で2兆円、3年目で3.8兆円。うなぎのぼりで、借換えが一巡すると10兆円になる。そこまで国債費が伸びる理由は、日銀の国債管理が、10年債を0%の基準にしてより短期のものを全部マイナス金利にしていることだ。マイナス金利とは要するに、日銀が額面より高い価格で国債を買い取るということだ。つまり満期になったらば、買った価格より低い額面価格の収入しか戻らないので、日銀が赤字を負っていくということになる。その金額がだいたい12.4兆円で、ずっとそれを抱えこんでいる。償還する度にそのマイナス金利分を日銀が負担することによって、つまり通貨を乱発することで、国・政府の国債費の負担を軽くしている。年間で2兆円くらい負担している訳だ。

手詰まりで身動きできない日本

金子 もう一つ問題なのは短期債で、財務省証券(TB)と言われる3ヶ月物。これはマイナス金利が一番大きいもので、外国人投資家に買ってもらっている。これがなかなか難しい。ベーシススワップと呼ばれる、基本的に日米の金利差を利用したスワップ取引をやっている。ドルの需要が高いからドル資金に付く金利は高い。逆に円安だから円の金利は低い。この日米金利差が財務省証券のマイナス金利分を上回れば、外国人投資家はそのマイナス金利の財務省証券を買って、日米金利差で儲けていくことができる訳だ。しかも期間3ヶ月なので、長い時間がかからず、大きなリスクを取らなくても済む。それを財務省は懸命に外国人投資家を説得して買ってもらっている。つまり、マイナス金利で国債を出して政府の国債費負担を軽減しつつ外資に儲けさせるということを、ずっと続けている。

年間80兆円の国債を買うのが政府、黒田日銀の方針だったが、今や長期国債はどんどん減っている状態。苦しくなって、短期債や中期債に依存して、つまり満期が短いもので何とかぐるぐる自転車操業のように回しているのが、財政の現状だということだ。

2年で2%の物価上昇目標を立てて、2013年4月から大規模な金融緩和をやった。ずっと9年近く経っても達成できなかったのに、思いもよらないスタグフレーションによって、想定外に4、5月辺りに2%を超えるのではないかと言われている。

去年4月に菅政権の行なった携帯料金の値下げ効果が、物価の上昇率を1.5%ほど下げたという。それなりに大きいから、それを合わせると既に物価上昇分は2%を超えていると言われていて、加えてこの1月も値上げのラッシュだ。さらに石油がまた上がっている。黒田は「物価上昇は一時的だ」とまだ言い続け、なおかつ2%には絶対届かないと言って、物価目標は1.1%だと言う。強力な金融緩和を続けるとまだ言っている。世界中でこんなことは日本だけ。何の根拠もない。自信があるとしたら統計改ざんでもやるのではないか、厚労省も国交省もやっているから、と揶揄される状態になっている

ところが、2%目標を想定外で達成することになると、日銀も岸田政権もお手上げだ。これまでの政策が想定していたメカニズムは、金融緩和⇒物価上昇期待を盛上げ⇒元気が出た消費を刺激⇒好景気というシナリオだった。2年で2%上がったら金融緩和はやめ、テーパリング(量的緩和の縮小)しようという目標だった。スタグフレーションで消費が伸びないのに物価だけ2%上がると、黒田・日銀も岸田も、利上げできないからお手上げ国債費は急激に上がり、国債の価値が目減り、価格も落ちるので、民間との間で国債の取引は全くできず、日銀の中で国債を凍結するしかないという状態だ。

日本だけ利上げができず、他国は金融緩和を脱却して利上げをするから、たとえ為替介入はしても円安だけが進む可能性が大きい。輸入物価が上がって、例えば1ドルのものが100円から120円するようになる。これにロシアのウクライナ危機でも勃発しようものなら、いよいよ政策が破綻する。利上げしたらおしまい、でも利下げしたらますます物価が上昇する、そんなジレンマに直面している。世界のスタグフレーションが長引くほど、日本のアベノミクス、つまり安倍や黒田が膨大に国債を発行して引き受けてきた、その金融・財政政策のツケが、日本経済を破壊する事態を招きつつある。

―――日本経済は壊れる寸前だと見て良いということですね。

金子 スタグフレーションが長引けばそうなる。半年ぐらいは以上のようなシナリオになるが、例えばアメリカで金利が上がってバブルが崩壊したりすれば、円安は止まる。一方、サプライチェーンが、簡単ではないが回復してくれば、その後の物価上昇も止まってくる。いつ収束するかが読みにくく、期限を切って予測することが難しい状態だと思う。だが、少なくとも春先から参議院選挙に向けては、深刻な大問題になりかねないと捉えておくべきだ。

金融緩和支持派の人たちは、それを免れるために、例えば消費税のせいで経済が悪くなったなどと言い出している。自分たちのせいでこうなったのではないという言い訳だ。だけど、97年の危機は明らかに金融危機によって経済衰退が起きたので、97年の消費税増税で起きたなどというのは、子供じみた嘘だ。実際、89年の消費税導入でも景気はずっと良かった。こうした意見は、金融危機を招いた失敗を糊塗して、自分も免罪されようとするものだ。非常に悪質だ。消費税が大きいから日本経済がダメになる、と言うなら、付加価値税の税率が25%の北欧諸国などはもっとダメなはずだし、ドイツも20%でもダメなはずだ。

ドイツは2020年の7月から12月まで、消費税減税を行なったが、大失敗している。逆にデフレを酷くして、物価上昇率がマイナスになって消費が縮小してしまった。物価が上昇する時に減税するならまだわかるが、デフレの最中にはやってはいけない。経済学のイロハだろう。

片方でまた頭をもたげているのは、「脱成長論」「定常経済」などという議論。今すでにゼロ成長、いやマイナス成長なのに、放っておいても大丈夫、何もしないでいいという理屈などはありえない。実際には財政を猛烈にふかしたした上で、ようやくゼロ成長になっている。経済が衰退してることを直視すべきだ。

生産性はどんどん落ちている。製造業の生産性で2000年1位だった日本は、2019年で18位まで落ちている。ジェトロの「世界貿易投資報告」によると、デジタル関連機器の輸出は今や世界で8位。かつて3位だったのが、2014年オランダに抜かれ、今ではベトナムにも抜かれている。明らかに国際競争力が落ちていて、唯一好調とされる自動車も電気自動車化とか自動運転で激しい競争に晒されているのが現実だ。

この国の経済状態は、25年間実質賃金が下がリ、一人当たりGDPが下がり続けている。平均所得がマイナス続きなので、「分厚い中間層」などなくなっている訳だ経済衰退が起きているのに、のんきに「脱成長」などと言える訳がない。みんな貧乏になり続けている。成長しないで産業の競争力がなくなって、職もなくなり、賃金が下がり続けている。何もしないで待っているだけで温室効果ガスを削る等、のんきな議論すぎる。おまけに分配だけで成長するのは無理、ゼロ成長も保つことができない

逆にもっと悪くなって日本経済が壊れてくれば、立ち直るのも早いという議論もあるが、そうなれば、ファシズムでも何でもありで、もっと悪くなるのが歴史の真実だ。これも何もしなくていいという議論の亜種だろう。

余りに現実を見ない議論が大量にあって、みな危機認識を持たないまま弛緩してしまっている。まさにゆでガエル。

これだけ財政赤字がひどくなった段階では、投資主導である程度先端技術を取り込みながら経済成長を図る以外にはない、というのが現状だ。

内部留保課税で賃上げを進める

―――難しいところだと思いますが、どんな対応策があるのでしょうか。

金子 短期的と中長期的とに、話を二つに分けなくてはならない

日本だけが金融緩和から離脱できないと、スタグフレーションに飲み込まれて非常に悲惨なことになる。物価は上昇するが賃金は上がらない。11月の企業物価(卸売物価)は前年比9%まで上がった。12月も8.5%。ところが11月、12月の消費者物価上昇率は、生鮮食品を除いても前年同月比0.5%、総合指数で11月は0.6%、12月は0.8%だ。輸入物価が40%超えの上昇で、化石燃料や鉄や非鉄金属などの原材料が大幅に上がり、特にアジアのサプライチェーンで部品の値段が上がり、中古車まで高くなっている。仕入値が上がっているのに価格転嫁できない、深刻な状況だ。

もう一方、じわじわ上がっている物価がさらに上がると、賃金が上がらずに物価上昇が大きいので、実質賃金がどんどんマイナスになる。人々が生活できなくなるという問題になる。だから、短期的にはまず生活できる賃金に、さらに所得の再分配政策をしないとますます苦しくなる。アメリカのように賃金が上がると物価上昇に火をつけることになるが、日本は逆に下がり続けているので、とりあえず生活のため物価上昇分程度の賃上げでも必死にやらないと、本当にこの国は死んでしまう。

そう考えると「賃上げをしたら法人税減税」という岸田内閣の政策は、石油元売や商社、証券会社などボロ儲けしているところ以外はほとんど実行不能だろう。詳細は省くが、大企業が3%の賃上げをした場合、税額の最大控除率は賃金増加分の20%。賃金総額の3%かける0.2だから、3%賃上げ分のうち0.6%分しかカバーできなくて、なおかつ社会保険料がプラスされる。スタグフレーション下でそんな賃上げができるか、となるだろう。中小企業には優遇制度があるが、中小企業も含めて65%の企業が法人税を払っていない。そんな賃上げ法人税減税が効果を表すとは思えない。

倒産企業の観察をしている東京商工リサーチの調査では、「減収増益」現象になっている。つまり売上げは落ちているが、人件費と設備投資の固定費を削って、なおかつ給付金やその他の補助金で何とか息を吐いているというのが多数の企業の現実だ、と。

日銀の金融緩和も様変わりで、国債を大量に買っている訳ではない。買入れ額は年間80兆円どころか、大きく減っている。それはテーパリングのためではなく、もう保たなくなっているので、短期債・中期債に依存した自転車操業になっているからだもっと苦しいのは地銀や中小の金融機関で、企業が倒産すると貸倒れが急速に進む。日銀はそれを防ぐために無利子の貸付金を金融機関に供給している。2022年1月20日段階で144.6兆円に達している。2020年1月20日で48.6兆円なので100兆円弱も増えている。

現状では、中小企業も地域の中小金融機関も、日銀が支える無利子無担保の「ゼロゼロ融資」に依存している。これがかなり厳しい状態だ。100年かからないと返済できないほどの借金依存企業は相当多い。ゼロ金利が続いているから保っているだけなのに、スタグフレーションで仕入れ価格が上がり、おまけにコロナ第6波で消費もまた伸びないとなると、中小企業は本当に深刻。それにつれて第二地銀や信金も苦しくなる。そういう中でバブルの崩壊も起きうる。

賃上げ法人税減税はたぶん効果がないから、内部留保を切り崩してでも賃上げをさせる税制でないと、実効性がないだろう内部留保課税は「配当への課税と二重課税になる」という通説的反対論がある。が、今や企業は株主だけのものではなく、経営者も従業員も、場合によっては消費者も含めてステークホルダーなのだという考え方が多く取られるようになっているから、25年間 OECD の中で唯一実質賃金が下がっている日本では、内部留保に課税してもよいはずだ。

新古典派経済学によれば、企業の利益は、資本と土地と労働に関して全部均等の割合で配分しなくてはいけないのに、経営者と株主の報酬だけが異様に膨らんで、従業員の部分はどんどん減っている。労働分配率が低すぎるのは異常事態だ。それを正すために、国がある程度介入するのは正当化されうる。特に日本では、企業の内部留保で現金が大量に溜まっている。この部分にしっかり課税するが、内部留保の一定割合の賃上げをした場合には免除するという、ペナルティー付きの法人税増税をやっていくべきではないか。

さらに、現実には難しいが、現金以外の金融資産やその他の内部留保に関しては、一回だけでも富裕税のような課税をすることも考えてよい。その場合株価が落ちるかもしれないが、正常化するためにはある種のショックを受けざるを得ないのだと思う。

低所得者への再分配や中小企業保護を強化する

金子 「18歳以下のすべての人に給付」というのも、何の目的かわからない。教育のためではないし、消費刺激でもない。18歳以下でも、一律にばらまいたら貯金になる部分がかなり出る。そう考えると、低所得者、ワーキングプアの人たちも含めて、一定の所得以下の人に給付をした方が良いというのは、正しいと思う。所得の低い人ほど消費性向は高いので貯金に回らない。そういう意味でも苦しい人たちを救済するように変えていくべきだ。

消費者物価の上昇に対しては、中小企業の価格転嫁を進めるために、公取などが大企業をしっかり監視することが大切だ。石油元売りや商社などの大企業は中小企業に対して便乗値上げを強いる。他方で、親企業は下請け企業などが原材料上昇の価格転嫁を抑えるというやり方をすることが多いので、それをきちんとチェックする。

本来ならば利上げをし、金融緩和を縮小すべきだが、それができない。また、ある程度為替介入して円安にブレーキをかけるのも限界がある。そうならば、非常事態として一時的限定的に2%の消費税減税はあり得るかもしれない。ただ、非常に慎重であるべきは、今の経済状態から言うと、もう1回税率を戻すことができなくなるかもしれないことだ。総額6~7兆円なので、防衛費1個分を超える財源を失うことになる。金利が上がりつつある現状で、また財政赤字が膨れていくと、国債が大量に累積することになってしまう可能性があるので、これは慎重に、伝家の宝刀として準備しなければいけない。

外からのショックを避けられる地域分散ネットワーク

金子 中長期的な財政構造を変えていきながら、産業構造を地域分散ネットワーク型に変えろと、私はずっと言ってきたが、今その意味がはっきりわかるようになってきた。というのは、世界経済が安定しない中で採るべき方策だからだ。中国はバブルが崩壊しつつあり、利下げしている一方、米中貿易戦争はまだ続いている。ではアメリカ経済がいいかと言うと、そちらも悪い。かつてのように、中心の覇権国が非常に強い力で世界の安定的な市場を統合する可能性が、実はだんだん低まっている。だから非常に不安定になり、株価にしろ為替にしろ変動が大きくなる。

その中で、対外ショックの影響を受けないような経済構造、対外ショックに強い経済構造に生まれ変わっていかないと、日本は今後10年20年生き抜いていくことができないだろう。そのためにはまず貿易収支で縛られないために、化石燃料の輸入を圧倒的に減らす。食料の自給を進める。そして円安誘導と賃下げの輸出主導で貿易黒字を稼ぐやり方が限界にきている以上、もうエネルギー転換は不可避になっている。あるいは地域単位の農業の再生なども不可避の事態になっている。その分散ネットワーク型社会を形作る時に、やはり先端技術開発が非常に重要になってくる。

先に述べたのはスタグフレーションの危機だった。もう一つ危ないのが、バブルの崩壊だ。物価の上昇も凄いがバブル崩壊にも対応すべく、自分たちが自前で回していく地域が必要だ。対外的なショックに強い経済構造を作っていかないと耐えられなくなる。

10年周期でバブルが崩壊すると言ってきたが、中国はその通りになってきた。つまり90年代の最初、2000年代の最初、2008年のリーマンショック、2021年の中国バブルの崩壊と、続いて起きている訳だ。今想定すると、おそらく日米金利差が広がっても米中の金利差が広がっても、アメリカにとってはOKだろう。日本は輸入物価が上がって苦しいでけれど、アメリカとの金利差が広がってくると、資金は日本を捨ててアメリカに流れていく。

要するに、金利の低いとこから高いところへ資金が流れるのは当たり前なので、それが一気に進んでいくと日本は国内が空洞化していく。だが、同時にアメリカは金融引締めをするので、バブルが急激にしぼんで潰れる可能性がある。それを日中の資金が補って、アメリカはそれでインフレからソフトランディングしようと、多分今年の春以降はそうしたシナリオになると思う。ただ、うまくいくかどうかわからない。住宅価格も株価も上がりすぎているからだ。もし欧米でバブルの崩壊が起きた場合には相当に深刻な状態になることは間違いない。すると、今度は円安はいったん休止するが、不況が日本に押し寄せ、場合によっては日本もバブル崩壊する。そうなると、また資産価格も為替レートも不安定化する。現実は、先に述べた円安オーバーシュートとバブル崩壊の間で、動いていくのではないか。

2009~10年の時に、日本の主たる金融機関はサブプライムローンがらみの金融商品を買っていなかった。ところが、経済の落ち込みはG7で一番だった。その理由は、円高で輸出ができなくなり、一方内需が極めて弱いので、結果的にGDPのマイナスが猛烈に大きくなった。今考えるべきはこの教訓の裏返し。つまり内部でぐるぐる回る経済の比率が大きければ大きいほど、対外ショックを受ける比率も落ちてくる。だから不況の影響も軽微で済む訳だ。

公正なルールを確立し、地方で雇用を作り出す

金子 前から言い続けているように、エネルギー、食と農、福祉をIoTで結びつけながら、地方で雇用を作り、自前で回していけるような経済を作らねばならない。先端的な技術の中で非常にIoTが重要である。モノとモノの間をつなぐ情報がIoTによって非常に効率化されていく。知識経済化とともに、地域レベルでも情報産業が育成されていかなければならない。

この時に、今の岸田政権・菅政権のやり方では、全くダメだ。「大学ファンド」とか言っているが、結局彼らの縁故資本主義だから、公正なルールが働かない。モリ・カケ・サクラをしっかり処理できないから、日本中で公正なルールがなくなり、ごまかしが横行している訳だ。

厚労省や国交省や財務省などの改ざんや不正は、もうあらゆる官庁に広がっているし、民間企業も検査データ不正・改ざんを平気でやるようになっている。例えば2018年に加計学園に金を注ぎ込んでる時に、東大の医科研のRNAワクチンの研究資金を打ち切って、日本ではワクチンができなかったということもある。あの伊藤詩織さん準レイプ疑惑の元TBS・安倍番記者の山口敬之が、ペジーコンピューティングという会社に関係して、この会社が100億円の詐欺を働いていた。経産省は28億円を返却してもらわずに終わっている。それから多くの官民ファンドも同様だ。公正なルールが必要な訳で、森友や加計や桜を見る会を徹底的に追及しないとダメ。国交省の統計改ざんは、もう明らかに法律違反だが責任追及もない。政権交代することによって明らかにする、規律のあるルールを確立するということが不可欠だろう。

そのうえで、大学の情報工学や遺伝子工学など基礎工学を再建しないといけない。ところが、2004年の国立大学の独立行政法人化以降、大学の予算が削られ、文科省の役人の天下り先に変えられていって、壊されてきた。それは、ついに学術会議の任命拒否に行き着きついた。科学者の独立性を壊して、忖度「専門家」を政府御用にした帰結が、コロナ対策の失敗だ。

公正なルールを設けながら、科学者の自治、徹底した情報開示によって、科学の自律的な発展を保証しないと、どんどん技術開発力が落ちていく。大学に企業人が入ればうまくいくという調子だが大間違い。科学研究と技術開発は違う。大学の基礎研究は、料理で言うとスープストックや出汁で、すぐには儲からない。だけどそれがないと料理ができない。そういう当たり前の分業関係を尊重していくべきだ。

予算を大幅に削った結果、地方大学は人材も取れない状態になっている。文科省は利益誘導のような新設大学を作っては潰すこともやっている。この文教行政を根本的に転換して、IoT、ICTで地域分散型ネットワークを進めると、地方へ財源を配分していれば雇用もできる。基本的には効率化が進む。たとえば、スマート農業では、スマホでハウス栽培の温度、湿度、水分などが管理できたり、自動のトラクターで耕作できたりする。中小企業の生産工程を自動化する。あるいは、ブロードバンドで結べば、患者は在宅でも健康診断や血圧、血中酸素濃度など、あらゆるデータが全部取れる。そして診療コストが大きく圧縮できたりすることになる。セキュリティを前提に、地域の医療機関や介護施設や在宅でカルテを共有しながら患者を手厚く見ることができる。

IoTで効率化を進めていく中で雇用を作っていくには、研究職やプログラマーやオペレーターという、知的な労働ができる人たちの産業を地方で作らないといけない。だとすると、ネットワーク化する時に、今政府の進めるマイナンバーのようにあらゆるデータを古いシステムで一挙に入れるという馬鹿なことはやめて、クラウドで結びつけつつ、ある一定のデータが全国的に大量に集まるようにしながら、地域単位のサーバーでエッジコンピューティングを使って、中小企業、農業、医療福祉、エネルギーなど、地域で自律的に動いていくような仕組みを作っていく。それはまた中小企業などに効率的なチャンスをもたらす。そのためにも基礎工学、情報工学や遺伝子工学などをやっている地方大学の底力をあげていかないと、地域レベルでそういう技術者が育っていかない。全国的なソフトを作れば必ずセキュリティの問題が起きるが、利便性に基づいて地域で新しいプログラムやアイデアがどんどん生まれてくる。

イノベーティブ福祉国家へ

金子 私は「イノベーティブ福祉国家」というものが非常に大事ではないのかと思っている。倉地真太郎明治大学専任講師が、北欧のそういう概念を紹介しているが、環境も成長も分配もジェンダーも包み込む「イノベーティブ福祉国家」で全てを実現しようとしている。所得再分配だけでなく、教育投資を軸にしながら、公正なルールの下で政府が産業戦略を持ち、イノベーションを主導して雇用と産業を創出していくのである。私たちの周りは古い概念ばかり。ゼロ成長論とか脱成長論とか、放っておいても成長していた時代の古いイメージの残像に縛られている。

90年代以降の北欧諸国は大きく変わった。単なる高福祉高負担のイメージとは違っている。90年代の危機の時からバブル崩壊以降も、大量の不良債権を抱えてかつ旧ソ連が解体したのでその市場を失い、フィンランド、スウェーデン、デンマークなどは大変だった。そこを技術立国という形で、先端産業化を進め、バイオ医薬や情報通信化をどんどん増やしていった。その結果、農業や製造業の人口・雇用は少しずつ減らしながら、研究職・教育職や介護のようなパーソナルサービス、情報通信産業、環境産業などに携わる人たちが大きく増えた。そういう先端産業で知識経済化に耐えられるには、かなり教育を厚くしていく必要があった。だから授業料を安くして、教育費を大きく配分した。そういう「イノベーティブ福祉国家」にする。そのように大きく変えていかないと、日本は遅れたまま成長もせず、分配もできず、中間層は駄目になり、一方で相変わらず原発依存、化石燃料依存で再生エネルギーは進まず、ジェンダーは世界で恥ずかしくなるくらいのワーストのままの状態を変えられない。

女性が積極的に働き、少子高齢化を少しずつ克服しながら、IoT化やバイオ医薬やエネルギー転換で、効率性、生産性を上げることによって人口の減少をカバーし、時間をかけて日本経済を立て直していくという戦略が非常に重要になる。それで成長率がある程度上がってきた時に金利が上がってくると、安倍や菅の下で猛烈に大量に累積した国債のために、財政が非常に苦しくなってくる。そこでは、戦後の日本のように投資主導でやっていかざるを得ない。これは経済学で言えば正統派の考え方ではないが、世界的にはそういうことが起きる。

現実には、そういうシナリオしか描けない。中小企業や普通の人たちが再生エネルギーに投資できる、投資が投資を呼ぶ、そういうモデルを実験的に進めるしか道はないだろう。万が一、世界的な金利上昇のあおりを食った場合には、危機管理として債務管理国家のようにならざるを得ないその時は日銀の中に「安倍・黒田勘定」を設けて、過去の国債を借り換えながら超長期債にして、そこに封じ込めていく。倒産企業のようなものだ。

まさにナローパスだが、非常に厳しい環境の中で脱出していくには、薄氷を踏むような形ではあれ、これ以外には術がないところまで我々は追い込まれることを最後に強調したい。明治維新か戦後改革かわからないが、全身全霊をかけてやりとげない限り今の状況は変えられないだろう。

最後に一言だけ言えば、若い人たちにチャンスを与えないと新しい国は生まれない。立憲民主党が若い人たち中心で、それは好感が持てる。頑張って欲しい。

宣伝になるが、「立憲フォーラム」という市民団体から『政策破綻に向かう岸田「新資本主義」』(100円)というブックレットを刊行した。お読みいただきたい。


コロナ検証 「全国一律のステイホームは日本を滅ぼす」児玉龍彦・東大名誉教授

2025年03月09日 18時16分14秒 | 社会

「全国一律のステイホームは日本を滅ぼす」児玉龍彦・東大名誉教授がぶった切る緊急事態宣言5月末まで延期

2020/05/04/ 週刊朝日 亀井洋志

 

新型コロナウイルス拡大について政府に意見を述べる諮問委員会が5月4日、開かれ、西村康稔経済再生相は「全ての都道府県について5月31日まで緊急事態措置を延長することを諮問させていただきたい」と発言した。しかし、東京大学の児玉龍彦名誉教授政府と専門家会議の対策は「0点」で「全国一律のステイホーム要請はナンセンスの極みで日本を滅ぼす」という。その理由とは?

 

 公立病院や大手民間病院など、地域医療の中心となる「基幹病院」で次々と院内感染が起きています。手術を延期したり、新規患者の受け入れができなくなったりして機能停止状態に追い込まれています。

 3月下旬に院内感染が判明した慶応大学病院(東京都新宿区)では、4月に入って入院前の検査体制を強化しました。新型コロナウイルス以外の治療で入院予定の患者さんにPCR検査を実施したところ、約6%の人が陽性でした。患者さんばかりではなく、医療スタッフも家庭内感染して病院に持ち込んでしまうケースも少なくありません。

 院内感染を防ぐには、入院患者と外来患者、医療従事者の全員を検査する必要があります。大学の研究部門は、PCR検査の機器をかなりの台数を持っているはずなのです。文部科学省は日本中の大学でどれだけ機器があるのかを明らかにして、基幹病院を守るためにすべて投入しなければなりません。また、基幹病院のサンプリングを行うことで、その地域における市中感染の深刻さも検証できます。このことが最も優先されるべき課題です。

 さらに、軽症者に自宅待機を要請している間に家庭内感染の増加を招いてしまいました。熱があるなど体調の悪い人や、感染が心配な人は、ドライブスルー型で一気に検査できる体制を確立しなければなりません。

 日本財団が、東京・お台場の「船の科学館」などの敷地内で、感染者用の病床の整備を進めています。ドライブスルー型の検査もそこでできると思います。

 政府と専門家会議は、人と人との接触を8割削減するとか、外出の8割減を目指すなどと言っていますが、感染症対策としては0点です。中国の武漢が経験したことをまったく理解していません。感染症対策の基本は、感染集積地と非集積地とに分けて、感染集積地に医療資源をまとめて投入することなのです。

中国の感染症研究の第一人者で鍾南山さんという医師がいます。2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の“火消し役”と言われた専門家のリーダーです。鍾さんは新型コロナでも1月18日に武漢を視察すると、地元自治体が明らかにしていない三つの問題点を指摘しました。第1に院内感染が多発していること、第2に医師十数人が感染していること、第3にPCR検査が1度も行われていないことでした。

 鍾さんは北京に戻ると、国家衛生健康委員会に、1千床の隔離病棟の建設と、武漢のロックダウン、医療従事者5万4千人の武漢への派遣を提言しました。

日本に当てはめれば、比較的感染者の少ないところから、東京や大阪での感染拡大を制圧するために、自衛隊の医官なども含めて集中的に医療スタッフを送り込まなければならないということです。ですから、全国一律のステイホームの要請はナンセンスの極みで、日本を滅ぼします。米国のニューヨークも、イタリアのミラノもステイホームで失敗しています。

 日本の感染症対策は旧式のビッグデータ方式から抜け切れていませんが、いまはプレシジョン・メディシン(精密医療)に切り替える必要があります。診断も陽性者の追跡も精密なものにしていくのです。

 診断はPCR検査だけではなく、免疫の有無がわかる抗体検査もどんどん普及させなければならない。遺伝子工学の粋を集めた高性能な抗体検査機器が、世界各国で使われています。1台で月に3千~6千件くらいの検査が可能で、日本でも少しずつ導入が始まっています。

 PCRに抗体検査を合わせると、確定診断率は90%を超えます。こうした取り組みは、すべて民間のお金で行われているのです。有効な対策が、政府や専門家会議、厚生労働省の側から出てこないことが重大な問題です。

 また、遺伝子工学と情報科学を駆使して、感染者を個別ごとにGPSで追跡できるシステムの導入が必要です。スマートフォンなどのGPS機能を通じた接触者追跡ですが、プライバシー保護のためにも匿名化が条件です。

 陽性者には「パンデミック番号」を付けますが、個人が特定されるようなマイナンバーや健康保険証番号と結びつけないようにする。総理大臣であろうと皇族であろうと、例外なく匿名で追跡されます。

 一方、追跡される人は自分のデータがどう使われているのかをチェックできるようにしておかなければなりません。感染情報はカルテと同じです。追跡データを取り扱う医師は、高度な情報モラル意識が求められ、時限立法などで「責任医師」を決める手続きも重要になってきます。

新型コロナと戦うためには、ライフラインの維持が必須です。けれども、NTTのコールセンターや郵便局でも感染しています。新型コロナの特徴は飛沫(ひまつ)感染だけではなく、接触感染が非常に多いことです。郵便局だったら、郵便物を介する感染があります。

 宅配業者の配達物のパッケージなども、エタノールで消毒する工夫が必要でしょう。通信や物流、水道・ガス・電気、交通機関、食品や生活必需品などライフラインに関わる人たちの防護を徹底することが大事です。今回、失業した人が多いのなら、ライフライン維持のために教育して大量動員する体制づくりも考えなければならないでしょう。

 私たちがいま一番心配しているのは、コロナが悪い方向に進化していくことです。欧州などでは一時期、マラリアの薬と、抗生物質のアジスロマイシンが治療に有効だといわれていました。しかし、これらの薬がウイルスの変異のスピードを上げた可能性があるのです。いろいろな治療薬が使われて、耐性が増した恐れがあります。

 耐性が比較的増えにくく、副作用も少ないのが、抗インフルエンザ薬のアビガンです。診断されたら、ハイリスクの高齢者や、医療従事者からアビガンを投与して重症化を防ぐことが重要です。ただし、アビガンは催奇性(胎児などに奇形を生じさせる性質)があるので妊娠中の人は避けなければいけません。

 日本のコロナ感染対策は最初に検査制限をしてしまったため、感染がどのくらい広がっているのか状況がまったくわからなくなってしまいました院内感染の比率も諸外国に比べて非常に高い。

日本の専門家会議は政権に忖度(そんたく)してしまって、専門家としての助言がまったくできていません。中国の鍾南山さんは、SARSの時に江沢民元国家主席に諫言して国の政策を変えさせました。そういう気骨のある人物でなければこの難局は乗り切れません。

 専門家の意見というものは、最初は必ず少数意見なのです。ですから、多数を説得できる人でなければ務まりません。国民的合意のもとに正しい政策を取ることのできる専門家のリーダーを選ぶことが、いま待ったなしの状況なのです。

一方、メディアは厚労省や専門家会議、東京都の話を垂れ流すのではなく、医療現場で現実に起きていることをきちんと取材し、国民につぶさに現状と問題点を知らせるべきです。(本誌・亀井洋志)

新型コロナの真実~長期戦を闘うために【新型コロナと闘う 児玉龍彦×金子勝】2020/04/28

児玉龍彦先生(東大先端研がん・代謝PT)と金子勝先生(立教大学特任教授)にうかがう「コロナと闘うシリーズ」。今のコロナの状況は、感染から検査、治療まで、社会の格差を反映しています。引きこもりを支え感染機会が多い中働き続けなければならない人たちが大勢いる、検査を早く受けてアビガンを飲めるのは、一部の人で、皆が平等に取り扱われているわけではないのではないか。今回は、長期戦となりつつあるコロナとの戦いに向けて、もう一度その特徴をおさらいし、そこから見えてきたステージ別治療法、長く続く外出自粛を支えるライフラインの維持と経済活動再開の前提となる感染集積回避の方法までうかがいました。

高校の生物の知識を総動員しても難しい専門的な話もありますが、ぜひ、おしまいまでご覧ください。

収録は2020年4月28日