読書メモ「古代氏族の研究1 和珥氏 中国江南から来た海神族の流れ」(宝賀寿男、2012年)
和珥氏の源流。海神族につながる弥生人の一派はタイ民族系の「越」の流れを引き、中国の越の最後の本拠地・山東半島から朝鮮半島南部を経て北九州海岸部に渡来し、日本列島に稲作や青銅器文化をもたらした。中国の浙江省海岸地域に興った春秋時代の越の王族は、竜蛇信仰をもつ夏王朝部族の後裔として鰐をトーテムとしたと考えられる。和珥支族の猪甘部首は入れ墨の習俗をもつ。
和珥氏の特異な地位。難波根子武振熊の「根子」の敬称は天皇と三輪氏・和珥氏のみ。三輪氏は神武東征前の畿内大和の主であった磯城(しき)県主の嫡裔で、欠史8代の時期に多くの后妃を出した。武振熊の子は米餅搗(たがねつき)大使主命。大使主(おほみ)の地位は葛城氏と和珥氏のみ。
瓊瓊杵(ににぎ)尊など日向三代の居地は怡土(いと)郡一帯。神武天皇は彦火火出見尊と海神族の穂高見命の娘・玉依姫の間に生まれた。穂高見命と猿田彦は同一人。神武天皇の皇后・媛蹈鞴(たたら)五十鈴媛の父の事代主神は海神族の磯城県主や三輪君の祖。
安曇氏の居地は筑前・那珂郡で、祖神は奴国王家。葦原中国、大己貴神(大国主命)の国。
志賀島を拠点し、近江の滋賀郡など各地に志賀の地名を伝えた。安曇氏は神武東征後の3世紀に筑前から畿内に進出し、摂津国西成郡安曇江を根拠として、全国の海人集団・海部を管掌する伴造の地位を得た。安曇氏は内膳司職をめぐって膳(かしわで)氏(阿倍臣一族でのちに高橋氏・浜島氏)と争い失脚。
穂高見命の5世代後に和珥氏(大栲梨命・押彦命)と安曇氏(小栲梨命)に分かれる。嫡流は和珥氏。
和珥氏の本拠地・天理市和邇の東大寺古墳。中平紀年銘刀が出土。中平は後漢時代で184~189年。2世紀後半の倭国大乱の時期。ただし、環頭は日本製で4世紀の作とされる。古墳の年代は4世紀前半、中頃、後半と諸説ある。阿倍氏の武淳川別命の墓と推定される桜井市のメスリ山古墳と同時期。
和珥氏初代は押彦命。3世紀中頃、大倭の和邇里に住む。和邇坐赤坂比古神社。
2代が彦姥津命。小野朝臣、櫟井臣、葉栗臣らの祖。和珥氏拠点の和邇・森本遺跡は弥生時代末期から古墳時代中期に向け大規模化した。
3代彦国葺命。崇神朝に活躍し、王族の武埴安彦の謀反を阿倍氏の祖・大彦命とともに討伐した。大彦命らと越前・加賀まで遠征。4世紀前半、東大寺山古墳の被葬者か。兄弟の子孫からは任那に派遣され百済滅亡時に帰国した吉田(きちた)連、伊勢の飯高君、壱志君。
吉備ノ穴(安那)国造。備後福山の神辺・駅家地区。芦田川流域。鞆の浦。
猪甘部首。朝廷に豚を献上する職。猪飼、猪養。山城、和泉、摂津に分布。安康・顕宗天皇の食糧を奪い、のちに斬られる。
石見。総社の伊甘神社。猪甘部から益田氏、周布氏、三隅氏ら御神本一族。柿本神社。
難波根子武振熊(建振熊命)。4世紀後半。応神天皇に敵対した仲哀天皇の嫡皇子・忍熊王を討つ。飛騨の両面宿儺を退治した。
和珥氏の墳墓。東大寺山古墳→赤土山古墳→和邇下神社古墳。彦国葺命→大口納命。奈良市春日野若草山頂上の鶯塚古墳は春日臣か。
応神天皇の死後、仁徳は皇位継承者の莵道雅郎子を殺して大王となった。和珥氏一族は応神天皇、反正天皇、雄略天皇、仁賢天皇、武烈天皇、継体天皇の后妃を出す。
ただし、仁徳以降の皇位争いで和珥氏が活動した実績はなく、継体の擁立を図ったことはない。
和珥氏の分岐。仁徳朝ごろ、米餅搗大使主命の子の世代に和珥氏本宗の和珥臣、大宅臣、物部首、春日臣に分かれた。春日臣の系統からまず、小野臣と櫟井臣の系統が分かれ、次に粟田臣、柿本臣が分かれた。嫡流は大春日朝臣となる。和珥氏本宗は欽明朝に断絶した。
天武の八色の姓では朝臣で、大春日臣、大宅臣、粟田臣、小野臣、櫟井臣、柿本臣の6氏。
和珥氏とその部曲の分布は、大和盆地東北部から山城の宇治、近江の琵琶湖周辺、若狭・越前の日本海域にいたるライン。
平安前期の陰陽頭に大春日朝臣真野麻呂。本宗ではなく、船主は山上臣の出で賜姓されたか。柿本人麻呂。中納言の粟田朝臣真人。粟田氏一族に尾張熱田社家。小野臣は山城宇治小野郷から起こり近江で繁栄した。大宅氏の後裔は平安末期まで中下級官人。源満仲、頼義、義家に仕える。駿河・石見の高橋氏らが後裔。
物部首の後裔は布留宿祢となり石上神宮祀官家となる。早く分かれた物部首一族に山上臣があり、山上臣憶良がいる。
近江。白髭神社の祭神は猿田彦。志賀郡。真野郷。
米餅搗大使主命の弟の系統・和邇部臣の後裔。富士大宮司家。
湖東。阿倍氏族の佐々貴山君一族。三上氏族の三上祝・蒲生稲置・安国造・犬上県主。
近江八幡の日牟礼八幡神社はもとは日觸で、近江和邇氏の祖名に通ずる。神主は当初櫟井氏。
阿倍氏族の海神性。志摩の国守を高橋氏が独占。若狭国造。近江守護佐々木氏は佐々貴山君後裔。
和珥氏族・額田国造。美濃池田郡を中心として大野郡、安八郡の一部。上磯古墳群・野古墳群。
房総の武社(武射)国造。尾張知多郡の知多臣氏。久松、水野、小河、小川、新海、新美氏。