豊田市博物館。愛知県豊田市小坂本町。
2024年11月15日(金)。
西日本の縄文時代中期の土器
深浦式土器。
深浦式土器は,南九州の縄文時代前期末から中期前葉に位置づけられる土器様式で,鹿児島県枕崎市の深浦遺跡出土土器を標式とする。
曽畑式土器様式の系統を引くもので,併行関係にある鷹島式土器や船元式土器の影響を受けるが,地域性の強い土器様式である。文様は,貝殻連点文や突帯文・沈線文・相交弧文などを用いて,直線的あるいは曲線的な幾何学的モチーフを描くことに大きな特徴がある。
船元(ふなもと)式土器。
船元式土器は中部瀬戸内を中心に分布する縄文中期の土器型式で,岡山県倉敷市船元(ふなもと)貝塚を標式遺跡とする。器面には荒く固い繊維による「縄文」や「撚糸文」が施されるのが大きな特徴である。
鷹島式土器。
和歌山県有田郡広川町の鷹島遺跡出土土器を標式とする縄文時代中期の土器で、西日本に広く分布する。爪形の文様や粗い縄文を特徴とする。
春日(かすが)式土器。
春日式土器は九州南部を中心に分布する土器型式で,鹿児島市春日町遺跡を標式遺跡とする。器形は胴部ですぼまり,口縁部に向けて広がりながら口縁端部でまたすぼまるキャリパー形の深鉢が主体で,器面には「貝殻条痕文」が施され,文様は無文または沈線や隆帯の渦文や曲線文が描かれている。
瀬戸内地方に分布の中心を持つ船元(ふなもと)式土器と同じような形であり,春日式土器の中には船元式土器の中の一部とほぼ同時期のものがあり,その次に並木式や阿高式がくる。
これにより,中期の初めから中頃に位置付けられていた並木式土器と阿高式土器は後半以降の時期になる可能性も考えられている。
春日式土器の「貝殻条痕文」に対する船元式土器の「縄文」「撚糸文」施文の両者の相違などから,春日式土器は縄文時代中期より以前に南九州地方に分布していた深浦(ふかうら)式土器等の流れを汲みながら,瀬戸内地方から移入してきた船元式土器の影響を受けて登場した土器ではないかと考えられる。
並木式土器。
鹿児島県大口市の並木(なみき)遺跡から出土した土器を標式とする。太形凹線文の間に押引文(おしびきもん)や,ヘラ状のものによる細い沈線文(ちんせんもん)を施す。
阿高式土器。
阿高式土器は、九州の縄文時代中期を代表する土器とされ,熊本県城南町の阿高(あだか)貝塚出土の土器を標式とする。
阿高式土器は,太い沈線で文様が描かれ、縄目文様を全く欠く。太形凹線文(ふとがたおうせんもん)とよばれる曲線や直線を組み合わせた文様を,指先状のもので土器の上半部を中心に描いているものが多く,中には器全体に文様を描くものもある。器形は深鉢が多く,まれに浅鉢がみられる。
並木式土器と阿高式土器の前後関係は,その文様の構成や,いくつかの遺跡での層位的な上下関係から,並木式が古く,その次に阿高式土器が位置付けられ,凹線文あるいは沈線文を施す阿高式系土器として後期初めまで続く。