いちご畑よ永遠に(旧アメーバブログ)

アメーバブログ「いちご畑よ永遠に(旧ヤフーブログ)」は2023年7月に全件削除されましたが一部復活

金子勝 日本は知識経済化ーイノベーティブ福祉国家へ①フェイクファシズム

2025年02月09日 13時01分49秒 | 社会

日本は知識経済化ーイノベーティブ福祉国家へ トランプ・IT長者のフェイクファシズムに抗して

慶応大学名誉教授 金子勝さんに聞く

2025/2/8   [現代の理論] 第40号  DIGITAL─2025冬号 VOL.40 特集 混迷の世界をどう視る

 

金子勝@masaru_kaneko

『現代の理論』で「日本は知識経済化ーイノベーティブ福祉国家へ トランプ・IT長者のフェイクファシズムに抗して」を書いた。トランプ発のフェイクファシズムの下、アベ的なものを一掃しないと社会が危機に陥る。イノベーティブ福祉国家で日本を再生することが不可欠だ。https://gendainoriron.jp/vol.40/feature/mkaneko.php

 

1.トランプとフェイクファシズム

2.巨大IT企業の保守化と「なんでも自由」主義

3.アベノミクスの失敗は未だに日本の経済・社会を停滞させている

4.根本問題は日本の経済・産業の大衰退

5.知識経済化からイノベーティブ福祉国家へ

6.新たな経済学でこの国のオルタナティブを

 

1.トランプとフェイクファシズム

トランプの政策に何か論理一貫性を見出すのは難しいのではないかと思っています。2年後にはトランプは峠を迎えるでしょう。来年の中間選挙の結果次第ですが。

1期目は、トランプは明るく「アメリカ・ファースト、メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と喋っていたが、今は見た感じそんなイメージではない。非常に神経質な感じを強く受けます。彼は結局アメリカの黄昏を代表する演者になってしまったのではないか。つまりすでに犯罪者なわけです、不倫もみ消し疑惑から議事堂への突入事件まで。一部では有罪判決が出ている。その人間がなぜ大統領になりたかったかと言えば、不逮捕特権を得るためだとしか思えない。つまり彼の頭の中は、暗殺されたくない、逮捕されたくないという自己保身だけです。そう言うと皆びっくりするかもしれませんが。

実は韓国の尹大統領も同じで、不正選挙だと言って、ネット上のフェイクファシズムのようなことが起きています。その中心が陰謀論です。トランプの場合、郵便投票でごまかしがあった、だから議事堂に向かって歩いていこうと、突入を示唆するようなメッセージを出した。で、結果的に犯罪者になった。尹大統領も、不在者投票で不正があったと言って、真っ先に突入を指示したのは選挙管理委員会の建物でした。実はそれがフェイクで、彼は犯罪者として逮捕されました。トランプはそれをとにかく防ぎたいのでしょう。トランプがいろんな言葉を吐いていますが、その場当たりぶりはそれでほとんど説明できます。

要するに、権力者が不正をして、そこから社会がおかしくなるという象徴がトランプで、一貫した経済政策があるわけではない。逮捕や暗殺に怯えるトランプは人気取りしか考えていません。トランプはインフレを抑えると見栄を切りますが、経済政策の多くはインフレ促進政策です。まず移民を敵視して禁止すれば、エッセンシャルワーカーの人手不足で労賃を引き上げます。つぎに、2月1日にメキシコ、カナダから輸入品に25%の関税、中国には10%の追加関税を課す大統領令を発しましたが、これも国内にインフレをもたらします。トランプ減税と財政赤字も、利下げ圧力もドル安をもたらし、インフレ促進です。公約が支離滅裂なので、政策は見通しがつきにくい。

トランプは、真っ先にケネディ暗殺の未公開文書を公開しましたが、暗殺されない、逮捕されないために「ディープステイト」(闇の政府)と言い始める。元々ディープステイトとは軍産複合体が政治を支配していることなどを意味していたのが、トランプは不正選挙によって自分を落とし込めようとする人間たちがそれだと言い出した。FBIやCIAが裏側で政財界と結びついて自分を陥れているというのが彼のディープステートです。全然意味が違います。アメリカ民主主義が手本となって自由主義経済秩序を作ってきたわけでしたが、これが壊れてしまいます。

例えば、イーロン・マスクがドイツの極右を支持する。さらに、ネタニヤフ、プーチン、ドイツなどヨーロッパの極右、そういう皆とアメリカが「仲良し」になっていく。だから、民主主義を守れるか守れないかという話の中で最も深刻なのは――日本でもその傾向が出ていますが――フェイクで選挙する、つまり政策論争が真にできないような言説が社会を覆っていることです。世界の情勢をいろいろ語ろうとしてもSNSのショート動画しか見ないような人たちが中心になってしまう。これが新たなファシズムを生み出すのだと思います。

なぜ新しいファシズムか。ナチスは暴力装置を動員してメディアを抑圧、言論を弾圧して、同じ言論・思想を強制していった。ところが、SNSは「自発的」なアテンションエコノミーで、要するにお金が儲かるショート動画を一所懸命作る。自分たちが積極的な主人公だと勘違いして、非常に単純な言説を垂れ流すことになっています。

典型的なのは、兵庫県知事選に出馬した「NHKから国民を守る党」の党首・立花孝志の振舞いです。彼はネット動画で「馬鹿な人たちをどううまく利用するか」「犬とか猫と一緒。バカに(票を)入れてもらう方法を考えるのが本当に賢い人」などと言っていた。発想はナチスのゲッベルスに似ています。ゲッベルスは知的レベルの低い層に合わせた宣伝を心がけて、わかりやすい言説を繰り返し、民衆に当事者意識を持たせて熱狂させ、そして言論統制できたのですから。深刻なのは、我々が民主主義のモデルとしたアメリカからフェイクファシズムが生まれてきているということです。

 

2.巨大IT企業の保守化と「なんでも自由」主義

今はSNSでファクトチェックを外した瞬間に、デマで煽動できる。しかもトランプや尹大統領のように暴力も動員できるということがわかってしまった。それがフェイクファシズムです。日本でも安倍政権はそれを見せていた。安倍はメディアもぶっ壊したし、官僚システムも学界も破壊しているので、結果的にファクトチェックがなくなった。その中で、忖度ばかりのメディアを見て、あるいはしっかりしたオルタナティブを出せない政治を見て、既存メディアはおかしいとか政治は嫌だと言うと、それが信憑性を持ってしまいます。

それが石丸現象であり、兵庫県知事選挙の結果だったとみると、根っこはトランプ発だったということです。その論法の中で非常に重要なのは、カール・シュミットが言った「敵・友」概念です。要するに、○か×か、敵か味方かという論法で、民主主義的な討論をせずに真に問うべき論点を全部とばしてしまう。

一番典型的だったのが、ブッシュジュニアが「テロリストの側につくか我々の側につくか」と言って、正しいのはどちらでもないのに、イラク戦争を始めたことです。小泉純一郎のワンフレーズポリティックスもそうで、それが日本経済の本質的な問題ではなかったのに、郵政民営化に賛成か反対かと、○か×かの選択を迫った。そんな小泉の後ろにあったのは「B層狙い」という彼らの言い方でした。当時テレビのワイドショーしか見ていない人たちをB層だと。まさに立花と同じなわけです。

今、同じようにTikTokなどSNSで、ショート動画や短文しか見ない若者に○か×かの選択肢を強力に押し付けていくわけです。だから、国民民主党も乗っかりましたが、増税派か減税派か、緊縮派か拡張派かとやるわけです。すると、他に本当は問うべき問題がたくさんあるのに、減税だけにポピュリズム的に突き進む。だから、真当な議論ができなくなる。正しい政策選択もできなくなってくる。そういう敵・友概念がどんどん広がっているのが今の状態なのだと思います。

なぜそういうことが起きたのか。私は以前から言っていますが、これは50年周期のコンドラチェフ循環で、新型コロナウィルスの世界的流行の中、ガザやウクライナが典型的ですが、戦争が起きて、また中国のバブル崩壊のようなことが起きて、猛烈な勢いで大きなイノベーションが進んでいるわけです。そんな中で、アメリカ中心のIT業界が巨大化して、そして異常に保守化したことがその背景になっている。

イーロン・マスクがツイッター(X)を買収して、表現の自由だと言いながら、実際は虚偽宣伝や暴力や差別を容認しているので、これはメディアの倫理的な破壊です。さらに言えば、その彼は自分のXの内容を強制的に流す。だからメディアを私物化している。ザッカーバーグもInstagramとFacebookでファクトチェックをやめると言い出したし、AmazonのCEOだったベゾスが、ワシントンポストで大統領選での民主党候補支持を打ち切らせたりした。巨大なIT企業がそうなっています。

トランプ2.0は、自分が逮捕されないことが最優先なので、フェイクファシズムへ突っ込んでいきますが、同時に、なんでも完全に「自由」にしようとします。昨年夏に出たヘリテージ財団の「プロジェクト2025」はトランプ政権の政権構想ですが、これは完全なリバタリアン、完全自由主義です。表現の自由などという次元ではなく、フェイクもなんでもありといった自由主義です。その経済政策は、中央銀行不要というフリーバンキング。AIも完全に自由にする。

AIは規制しないととんでもないことになる。教育も歪めるし、フェイクが山ほど入ってくる。しかもあれは欠陥製品だから、やっているうちに時折ハルシネーション(幻覚)を引き起こし、変な答えになったりする。他方で、生成AIは多言語で、映像も言語や喋りも、ネット上のあらゆる情報を一気に集めるので効率的です。だから、例えば雇用も大きく変えてしまう可能性を持っている。

人手不足になると、生成AIがやはり強烈な勢いで入ってくるでしょう。今はコンビニのセルフレジ(自動支払い)のような形でしょうが、今後は例えばコールセンターなどがいらなくなると思います。だからこれまでの職業教育では対応できない。生成AIとその使い方が、フェイクやりたい放題を生む一方で、雇用も大きく変えるし、あるいは教育のあり方も変えるでしょう。きっと暗記ではダメ。記憶ではなく創造的に考えなくてはならず、フェイクを見分けなくてはいけない。そういう能力が必要になってくる。AIは、将棋だったら過去の手は全部記憶しているから、同じ定石をやっている限り絶対に負けないでしょう。ところが藤井聡太がいきなり新手を繰り出したりすると混乱します。

そういう生成AIの完全な自由化、あるいはそもそもITが金融自由化と結びつき始めて、日本の金融市場は先物ファンドが6割から7割をシェアしています。要するに、先物をコンピューターで大量・高頻度取引するというビジネスモデルで、これは圧倒的です。去年の連休明けぐらいの日銀の利上げに合わせて、あっという間に1日4400円の株価の暴落が起きた。サーキットブレーカーを発動して止まったのですが、先物は経済法則と関係ない。先物の価格差で儲けていくわけで、猛烈な量と速さで1秒に数百の取引をするから、莫大なお金がそこへ集積しているわけです。方向が違うとパッと解約してサッと動く。出し抜け合戦です。

もう一つターゲットになっているのはビットコインITによる自由化を進めると、巨大化した企業の富はさらに莫大に集積してくる。恐ろしい、格差社会どころではない巨大なブラックホールのようになります。ITの支配が金融市場に及んでいき、そこで生き延びようという世界がトランプの世界になるでしょう。それで世界がうまくおさまるとはとても思えない。そういう危険な時代に我々は生きていると考えるべきです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。