知識は永遠の輝き

学問全般について語ります

量とは-6- 次元の任意性

2010-04-17 06:42:25 | 数学/数理科学
 前回の続きです。

 量の次元とは、使う単位の如何にかかわらず異なる量同士の関係を示してくれる概念です。今、異なるN種類の量の間にP個(P<N)の関係式が成立しているとすれば、独立変数となる量は(N-P)種類であり、これだけの種類の量を任意に選んで基本量としてその次元を定めれば、残りの量の次元は基本量の次元の積や商の組み合わせで一意的に表せます。ここでの量同士の関係というのは自然界の物理量の場合はいわゆる物理法則であり、現時点で基本的なものは定まっています。すると基本量の種類数も一意的に定まりそうなものですが、前回述べたように、MKSA単位系では4種類、ガウス単位系では3種類と単位系により異なっています。一体どこで違いが出たのでしょうか?

 この2つの単位系の違いは、電荷同士に働く力を決めるクーロンの法則を見るとわかりやすいでしょう。距離rだけ離れた2つの電荷q1とq2の間に働く力fは、引力定数をkとして、次の逆二乗法則に従います。
  f = k*q1*q2*r-2

 MKSA単位系では基本量である電流の次元を[I]とすれば電荷の次元は[I][T]となりますが、簡単のために電荷の次元を[Q]として考えます。長さの次元は[L]、時間の次元は[T]、力の次元は[F]とします。するとkの次元[k]は次のようになります。
  [k] = [F][L]2[Q]-2

 ガウス単位系では単位距離だけ離れて単位の力が働く電荷を単位電荷と定めます。すなわち定数kを1に定めるのですが、同時に無次元量ともして電荷を長さと時間と質量からの組立量として定めます。
  [k] = 1
  [Q] = [F]1/2

 一般的に述べれば、既知の基本量a1a2・・・と新しく単位と次元を定めたい量bとの関係は次のように表せます。
  b = k*a1p1a2p2・・・

 つまり必ず比例定数kがあるために、bとkの次元をどう組み合わせて決めるかに任意性があるのです。ここで「基本量をやたらに増やしたくはない」という方針を取るならば比例定数kは無次元量として新しく単位と次元を定めたい量bは既知の基本量による組立量とするべきです。ガウス単位系はこの方針に従った単位系だといえます。しかしこの場合、同じ形の式に従う異なる量があると、異なる量なのに同じ次元となる量というものが出てきます。実際に磁極の強さを示す量(磁荷または磁気量)の次元は、ガウス単位系では電荷の次元と等しくなります。だから悪いというわけではありませんが、ともすると電荷と磁荷を混同する間違いも起きやすくなるかも知れません。

 さて万有引力も静電気力や磁力と同様に逆二乗法則に従いますから、ガウス単位系にならって万有引力定数を無次元量とし質量を組立量として定義することも可能です。えっ、力が既に質量を使った組立量だって? その通り、ただしその質量はニュートンの運動方程式の変数である慣性質量と呼ばれる量です。万有引力を決める質量は重力質量と呼ばれる量で、定義上は慣性質量とは別の量なのです。ただし両者は極めて高い精度で一致することが実験的に確認されており、アインシュタインは慣性質量と重力質量とが同一だという仮定(等価原理)を置いて一般相対性理論を構成しました。


     -- 続く --

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 量とは-5- 次元 | トップ | 量とは-7- 力の次元 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

数学/数理科学」カテゴリの最新記事