先日の記事(2016/12/31)で紹介しましたが、NHKのサイエンスゼロで「徹底解説!科学の未解決問題」と題した2本連続の1週目として「心はどうやって生まれるのか?(2016/12/18,11:30放送)」が放送されました。結末は「まだ全然わからない」ということでまさに未解決問題でしたが、3つの実験が紹介されていました。
1) リベット(B.Libet)。意志の自覚の400ms前に補足運動野に前兆がある。
2) ヘインズ(J.D.Haynes)。意志の自覚の7秒前にBA10に前兆がある。
3) シリング。頭頂葉に刺激を与えると意志が生まれる。
1は自由意志とは何か(1)(2015/05/10)で書きました。3は元情報を探すのが手間そうなので今回は省略します。そこで2の話です。
元論文は"Unconscious determinants of free decisions in the human brain" Nature Neuroscience 11, 543 - 545 (2008) で、"Wired"日本語版(2008/04/17)で紹介されています。元論文を読んでいないので曖昧な点がありますが、wiredの記事とサイエンスゼロの放送と、Haynes自身のドイツでの講演ビデオ(2008/10/17)の一部編集らしいニコニコ動画の映像[「自由意思は存在する?脳は6秒前から行動を決定している」(2011/06/03)]から判断すると、
・f-MRIの中で左手と右手のどちらでボタンを押すかを自由に決めさせる。
・前頭葉のBA野の神経活動の位置によりどちらの手で押すかを"予告"できた。
ということのようです。リベットの実験のような神経活動の"時間的パターン"ではなく、位置すなわち"空間的パターン"でというのはニコニコ動画の画像からの判断です。またニコニコ動画は6秒前としていますが、これは単一の実験例であり、1秒程度のばらつきはあるのだと推定できます。元論文のabstractでは10秒となっているくらいですから。
そうすると例えば、「赤という言葉を聞いたら右、青という言葉を聞いたら左」という課題の場合はどうなるのかというのが気になります。仮説を言えば、赤なら右で青なら左という決断には7秒かかるが、言葉を聞いてからボタンを押すまでは反射的で事後に「自分の意志で押した」と錯覚する、というところでしょうか。ではどんな言葉で右にするかが直前にしか知らされない場合はどうか? とかいろいろ考えられますね。
右押して、左押さないで・・・
つい最近wiredの記事で、「自由意志」は存在する(ただし、ほんの0.2秒間だけ)(2016/06/13)というものもありました。これはリベットの実験でも述べられていた"特異的電位変化"の後に行為を停止できるかという話で、リベットもこの現象には自由意志が認められると考えていたようです。私自身は"自由意志"という言葉をそう狭く使うことには反対ですが。
用語の点ではHaynes論文の"decision"(決断)というのがいいですね。「表に現れる"行為"の"決断"はいつどこで生じるのか?」「"決断"はどのような神経現象に対応しているのか?」という問いにすると、定義がはっきりするように思えます。
ところでHaynes論文の左右選択課題で、ロゲルギスト『物理の散歩道』に載っていたひとつの話を思い出しました。それは要約すると「等価な選択肢が複数示されると迷って時間がかかり手遅れになることがある」という話です。例えば「電車に乗り込んだら空席が2つあり、どちらに座るか迷った隙に2つとも座られてしまった。空席が1つだけだったら迷わず座れたのに。」という例です。さらに立てた鉛筆とか現在なら自発的対称性の破れの題材になりそうな事象に結びつけていました。
確かに7秒もかかるのでは間に合いませんね。仮説的に言えば左右どちらにするか脳内でサイコロが振られているのかも知れません。いやむしろルーレットが回されていて止まるのに7秒ほどかかるとか。
蛇足ですが、上記の電車の席取りの例では、「空席があれば座る」という意志・意図・決断は乗り込むずっと前になされており自覚もされていたはずです。いや案外、自覚するまでもない「日常的習慣」だったかも。
-----------------
7秒前実験の情報の日本での紹介(時系列順)
2008年、発表直後
・粉末@それは風のように (日記)「意識下における意思決定前に、意識に上る前にすでに判断が為されている」。<2008年4月17日 WIRED VISION>から。
・理科と広告とコピーのおはなし(2008/07/24)
・「意識による判断の7秒前に、脳が判断」(2009/04/19)。「日本語版:ガリレオ」より引用。
2011年、テレビ等で紹介
・birch99的スピリチュアリズム周辺の「意識による判断の7秒前に、脳が判断」(2011/03/02)。元番組不明。
・ニコニコ動画の「自由意思は存在する?脳は6秒前から行動を決定している」(2011/06/03)。ひとつの実験。ここでは6秒前だった。
出典:Haynes自身のドイツでの講演ビデオ(2008/10/17)
2016年、テレビで紹介
・「ホンマでっか!?TV」での「第六感は本当にあるのか!?」(2016/05/04)
本ブログの関連記事
自由意志とは何か(1)(2015/05/10)
自由意志とは何か(2)(2015/05/12)
心脳問題-論点の多様性-(2012/01/15)
心脳問題-心と意識-(2012/01/16)
心脳問題-覚醒と昏睡の間-(2012/01/19)
1) リベット(B.Libet)。意志の自覚の400ms前に補足運動野に前兆がある。
2) ヘインズ(J.D.Haynes)。意志の自覚の7秒前にBA10に前兆がある。
3) シリング。頭頂葉に刺激を与えると意志が生まれる。
1は自由意志とは何か(1)(2015/05/10)で書きました。3は元情報を探すのが手間そうなので今回は省略します。そこで2の話です。
元論文は"Unconscious determinants of free decisions in the human brain" Nature Neuroscience 11, 543 - 545 (2008) で、"Wired"日本語版(2008/04/17)で紹介されています。元論文を読んでいないので曖昧な点がありますが、wiredの記事とサイエンスゼロの放送と、Haynes自身のドイツでの講演ビデオ(2008/10/17)の一部編集らしいニコニコ動画の映像[「自由意思は存在する?脳は6秒前から行動を決定している」(2011/06/03)]から判断すると、
・f-MRIの中で左手と右手のどちらでボタンを押すかを自由に決めさせる。
・前頭葉のBA野の神経活動の位置によりどちらの手で押すかを"予告"できた。
ということのようです。リベットの実験のような神経活動の"時間的パターン"ではなく、位置すなわち"空間的パターン"でというのはニコニコ動画の画像からの判断です。またニコニコ動画は6秒前としていますが、これは単一の実験例であり、1秒程度のばらつきはあるのだと推定できます。元論文のabstractでは10秒となっているくらいですから。
そうすると例えば、「赤という言葉を聞いたら右、青という言葉を聞いたら左」という課題の場合はどうなるのかというのが気になります。仮説を言えば、赤なら右で青なら左という決断には7秒かかるが、言葉を聞いてからボタンを押すまでは反射的で事後に「自分の意志で押した」と錯覚する、というところでしょうか。ではどんな言葉で右にするかが直前にしか知らされない場合はどうか? とかいろいろ考えられますね。
つい最近wiredの記事で、「自由意志」は存在する(ただし、ほんの0.2秒間だけ)(2016/06/13)というものもありました。これはリベットの実験でも述べられていた"特異的電位変化"の後に行為を停止できるかという話で、リベットもこの現象には自由意志が認められると考えていたようです。私自身は"自由意志"という言葉をそう狭く使うことには反対ですが。
用語の点ではHaynes論文の"decision"(決断)というのがいいですね。「表に現れる"行為"の"決断"はいつどこで生じるのか?」「"決断"はどのような神経現象に対応しているのか?」という問いにすると、定義がはっきりするように思えます。
ところでHaynes論文の左右選択課題で、ロゲルギスト『物理の散歩道』に載っていたひとつの話を思い出しました。それは要約すると「等価な選択肢が複数示されると迷って時間がかかり手遅れになることがある」という話です。例えば「電車に乗り込んだら空席が2つあり、どちらに座るか迷った隙に2つとも座られてしまった。空席が1つだけだったら迷わず座れたのに。」という例です。さらに立てた鉛筆とか現在なら自発的対称性の破れの題材になりそうな事象に結びつけていました。
確かに7秒もかかるのでは間に合いませんね。仮説的に言えば左右どちらにするか脳内でサイコロが振られているのかも知れません。いやむしろルーレットが回されていて止まるのに7秒ほどかかるとか。
蛇足ですが、上記の電車の席取りの例では、「空席があれば座る」という意志・意図・決断は乗り込むずっと前になされており自覚もされていたはずです。いや案外、自覚するまでもない「日常的習慣」だったかも。
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7秒前実験の情報の日本での紹介(時系列順)
2008年、発表直後
・粉末@それは風のように (日記)「意識下における意思決定前に、意識に上る前にすでに判断が為されている」。<2008年4月17日 WIRED VISION>から。
・理科と広告とコピーのおはなし(2008/07/24)
・「意識による判断の7秒前に、脳が判断」(2009/04/19)。「日本語版:ガリレオ」より引用。
2011年、テレビ等で紹介
・birch99的スピリチュアリズム周辺の「意識による判断の7秒前に、脳が判断」(2011/03/02)。元番組不明。
・ニコニコ動画の「自由意思は存在する?脳は6秒前から行動を決定している」(2011/06/03)。ひとつの実験。ここでは6秒前だった。
出典:Haynes自身のドイツでの講演ビデオ(2008/10/17)
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