徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

至の月、階段と迷路の街にて 8

2019-11-17 11:18:36 | 小説








 本文詳細↓



 いつの間に這い出てきたのか、僕の肩の上でアダムは頷いていた。鼻の下は、相変わらず伸びたままだった。
 「どうぞ、こちらです」
 やがて見えてきたのは、洗練された白亜の建物だった。厚い木の扉がギィと押し開かれた。タイルを貼った床には赤いカーペットが敷かれ、温かい色味の上品な家具が並んでいた。
 「おかえりなさい、エクレア。……おや、その人達は?」
 柔らかく落ち着いた声は、壁の燭台に火を入れている陰から聞こえた。高い天窓から入ってくる夕日の光はか弱く、室内は薄暗くて陰にいるそのひとの顔は見えなかった。
 「ただ今戻りました、司祭様。こちらの方々は先ほど蛟の三番通りでお会いしたのですが、月桂冠の宿へ行くとおっしゃられたのでお引き止めしたんです」
 「なるほど。そうでしたか」
 こちらに歩み寄り、光の当たるところに出てきた『司祭様』は敬虔な黒い服に身を包んだ山羊の獣人だった。
 「はじめまして。この救貧院の長のようなものをさせてもらっています。皆さんからは司祭と呼ばれておりますので、そのように」
 そう言って片手を差し出してきた。あまり熱を伝えない動物特有の皮膚を持つその手を軽く握り返す。
 「はじめまして、司祭様。僕はトルヴェール・アルシャラール、こっちは連れのアダムです。お言葉に甘えて、今夜はこちらで休ませていただくことになりました」


コメント
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