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本文詳細↓
形も大きさも違ういくつものブロックに分かれて宙に浮く、階段と迷路の街の変わり果てた姿が待っていた。
「⁉」
反射的にのどを震わせた音は、口の中の布に吸い込まれて外に漏れることはなかった。呆然と街を見上げていると、ペロンと目の前に紙が垂れてきた。
『どれぞの悪魔の仕業だろう。こうして街を浮かせて、谷底の泉への道を開いていたのだ。層ごと持ち上げるのではなく、バラして浮き島のようにするあたり、連中の美意識が窺えるわ』
僕のポケットに入っていればいいのに、アダムは僕の頭の上で寝そべって、動こうとはしなかった。
とにかく行くしかないと、目の前に浮いている階段を掴んで、懸垂の要領で体を持ち上げた。エクレアさんに手を貸しながら、ずいぶん見通しのよくなった谷を見下ろした。気のせいか星々の光も遠く、夜の世界はいつもの何倍も黒いように思えた。
さあさ、寄れや歌えや祭の宴
そのとき、オス・モルガーンに楽しそうな歌声が響き渡った。耳栓をしているのに、はっきりとその声は聞こえた。