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本文詳細↓
「たいしたおもてなしはできませんが、どうぞごゆっくりお寛ぎください。エクレア、お部屋へご案内を。おつかいの荷物は私が預かりましょう」
「はい。お願いします。では、こちらへ」
司祭様は僕たちに小さく頭を下げると、右奥の扉の先へ消えていった。僕たちは左奥の扉から上の階へと向かう。木の階段がギシギシと軋んだ。ちょっと静かすぎて、いいようのない不安が心の内に滲む気がした。
「ここには私と司祭様の二人しかいません。今日は他に泊まられる方もいらっしゃいませんし、ゆっくりできると思いますよ」
「それも不思議なことよ。そなたはトルルと同じ純血の人間であろう。それがなぜ、このようなところに?」
「それは私が、山に置き去りにされていた捨て子だからです。もう十年以上前の話ですが」
蝋燭の光に浮かぶ彼女の顔色は変わらなかった。今はもう、辛いと思っていることはなさそうだ。
「本当の親の記憶も曖昧ですから、お気になさらず。ただ私は、司祭様に助けていただいたご恩を、お返したいと思っているだけです」
彼女は階段を上がってすぐの部屋のドアを開けて、中の燭台に火を移した。そして僕は銅の鍵を渡された。
「それではこちらの部屋をお使いください。お食事のご用意ができましたら、また呼びに参ります。お体を清めるのにお湯は使われますか?」