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「いや、そこが崩れては話が成り立たぬであろう」
「そりゃそうか……」
黒布のナニかがハッハッハと声をあげた。その音は笑い声のはずなのに、砂よりも乾ききっていて生きているという気配をまったく感じなかった。
「正解は、ひとつ、『少年はいつも大釜の前にいた』。ふたつ、『岩場に隠された宝』。これだけさァ」
「えっ、ランプの魔人は?」
「それは優先されるべきものじゃァない。活劇の整合性をとり、舞台を盛り上げるためのものだからねェ」
たしかに『ランプの魔人と盗賊退治』の一番の見せ場は、終盤の魔人と盗賊たちによる派手な立ち回りであるけれど、アダムが言った通りそもそもランプの魔人が登場しなければ話が始まらないはずだ。けどそれを指摘しようにも、黒布のナニかはもう僕たちのことなんか見ても聞いてもいなかった。
「ああ、口惜しや! 宝も知らず、ワタシを置き忘れたも知らず、この煮える湯と岩しかない島から船を持ち去った卑しい盗人どもめ! 末代までも呪うてやる! さらに呪わしきは賢(さか)しきあの狐よ! 隣の島からワタシを嘲笑い、宝を横取りした狐! ああ、恨めしや恨めしや!! キィィェァァアアアーーーー!」
突然立ち上がったかと思うと、黒布のナニかはそう叫んで出て行った。周りにいた他のお客さんたちは、我関せずを貫くか僕たちと同じようにギョッとした目を向けるかのどちらかだった。