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「これは、この島に生えてる木の樹液と花の蜜を混ぜて作った油だよ。臭いがキツいから室内では使えねえけど、これにつけた火はどんな風でも雨でも消えないから、特に漁に出る船で使われるんだ」
「そうなんですね。じゃあ火の番っていうのは」
「ああ。あの石柱の天辺は窪んでてな。毎朝そこにこの油を足してるんだよ。……で? お前らはなんでこんなとこに来て、あの火に何の用なんだよ?」
僕は、ナイトウォーカーとの出会いからフィレモンの教えまで、全て話した。アスキリオさんは相づちを打って最後までしっかり聞いてくれた。
「だからどうか、僕に天の火を下さい! お願いします!」
金銭とか、何かの対価は求められるだろうと身構えていたけど、意外なことに何も言われなかった。むしろ逆に、頭を下げても何も反応がないから不安になった。
おそるおそる顔を上げて彼の様子をうかがうと、口元を手でおおって何かを考え込んでいる様子だった。
「これ、何か言ってはどうだ」
アダムもそう言ってくれたけど、彼は無言のまま立ち上がり、暖炉の上に飾られていたシンプルな箱を持ってきた。
「さて思うのだが、《世界》とは何だろう」
その言葉に、どくんっと心臓が大きく震えた。だってそれは、僕もずっとずっと考えていたことだから。