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朝焼けのルビー、しだれ柳のエメラルド、晴天の庭のクリスタル、花飾りのアメジスト、雨にむせぶサファイア、蒸留酒のトパーズ。山のような美しい宝の前で、一人の男が歓喜に踊っていた。
「やった! これでオレも億万長者だ! そうだ、誰にも見つからないように隠しておこう! そして大陸に戻ったら新しい船を手配してすぐ戻ってくるぞ!」
男はちょうどよい岩場の穴を見つけると、そこへ宝を運んだ。見つかりそうになったときはこう誤摩化した。
『お頭、今あちらで何か物音が』
『では様子を見に行こう』
「なに、風の音でございましょう」
『おお、そうか。では次へ行こう』
『お頭、今あちらで何か物音が』
『では様子を見に行こう』
「なになに、腹の虫の音でございましょう」
『おお、そうか。では次へ行こう』
その男はとある盗賊団の新入りで下っ端で、いなくても気にする者はいなかった。男が全ての宝を岩場へ運び終えたとき、盗賊団は男のことなどすっかり忘れて、船に乗って大陸へ戻っていた。
男は狂わんばかりに叫んだ。岩だらけの島には木の実ひとつなく、沸いてる湯は飲むのに適さない。やがて男は呪詛をまき散らしながら餓え死んだ。
隣に浮かぶ緑豊かな島から、この一部始終を見ていた狐がいた。