徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

重の月、書架と画廊の街にて 8

2020-04-06 20:25:41 | 小説






 本文詳細↓



 朝焼けのルビー、しだれ柳のエメラルド、晴天の庭のクリスタル、花飾りのアメジスト、雨にむせぶサファイア、蒸留酒のトパーズ。山のような美しい宝の前で、一人の男が歓喜に踊っていた。
 「やった! これでオレも億万長者だ! そうだ、誰にも見つからないように隠しておこう! そして大陸に戻ったら新しい船を手配してすぐ戻ってくるぞ!」
 男はちょうどよい岩場の穴を見つけると、そこへ宝を運んだ。見つかりそうになったときはこう誤摩化した。
 『お頭、今あちらで何か物音が』
 『では様子を見に行こう』
 「なに、風の音でございましょう」
 『おお、そうか。では次へ行こう』
 『お頭、今あちらで何か物音が』
 『では様子を見に行こう』
 「なになに、腹の虫の音でございましょう」
 『おお、そうか。では次へ行こう』
 その男はとある盗賊団の新入りで下っ端で、いなくても気にする者はいなかった。男が全ての宝を岩場へ運び終えたとき、盗賊団は男のことなどすっかり忘れて、船に乗って大陸へ戻っていた。
 男は狂わんばかりに叫んだ。岩だらけの島には木の実ひとつなく、沸いてる湯は飲むのに適さない。やがて男は呪詛をまき散らしながら餓え死んだ。
 隣に浮かぶ緑豊かな島から、この一部始終を見ていた狐がいた。


コメント
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