・成層圏でクッキング
「所さんの目がテン」で宇宙での食材の変化の実験、だいぶ以前の事ですが、興味深く、面白い企画でしたので掲載です。2016年11月に「所さんの目がテン」で実験をしていました。
放送28年目突入記念大実験、地上11kmから50kmの間にある宇宙の大気の温度が約-50℃、気圧が地上の200分の1の成層圏です。気圧が低いので水分が蒸発しやすく乾燥しやすいといいます。
食品は当初、乾燥しフリーズドライのようになるのでは、豆腐が高野豆腐になるのではとのことでした。
東洋大学調理科学の露久保美香先生では「根菜類は、一度冷凍させると繊維が壊れて柔らかくなり、食感が変わる。乾燥するという環境ならば生の大根がたくあんになるかも」との回答でした。
先生方の意見をヒントに、成層圏でおいしくなって帰ってきそうな食材を選抜しました。名づけて「成層圏DE和定食!」
ちなみに、今回気球を打ち上げる場所は障害物の無い大平原の広がるモンゴルでいろいろな食材を気球にくくり付け成層圏へ打上げます。
食塩水の中に、生のアジの開きを浸して干物の準備。
生魚の開き → 干物になる?
豆腐 → 高野豆腐になる?
大根 → 半月切り…たくあんになる?
千切り…切り干し大根になる?
殻ごとの生卵 → 冷凍卵になる?
ビール → フローズンビールになる?
成層圏に打ち上げる実験が千葉工業大学惑星探査研究センターなどの全面協力のもと、モンゴルで気球(ゴム風船)に微生物収集装置をつけて飛ばし、気圧が少ない成層圏に入って膨らみすぎた気球が破裂し、地上にパラシュートで落としたものを回収するという実験です。モンゴルの乳製品アーロールも一緒に打ち上げられました。
打上げでは無事に飛んでいきました。
ここからすぐさま回収準備と気球を追跡開始します。
打上げ10分後、高度は4500m。地上の温度は20℃でしたが上空ではマイナス4.4℃です。この時、食材は特に変化なしでしたが、そんな中、干物に早くも変化が、打上げのときと比べて少し表面が乾いたように見えます。そのまま様子を見つづけてみると、30分後には、かなり干物のような姿になっています。
そのころ、ビールも一部凍り始めたように、さらに観察していくとブクブクと泡が発生しフタに開いた、ストローの穴から泡が飛び出してきて、フローズン状態になってきました。
気球が上空20km地点で空が暗くなり、地球が青く見えて来ました。そして30km付近では気球が破裂する予定でしたが、まだゆっくりと上昇しています。地球の輪郭を大気の層がぼんやりとふちどり幻想的な世界です。
成層圏に浮かぶアジ、見た目はすっかり干物です。大根や豆腐は、中の様子がわかりません。ビールはフローズンを超えてカチカチのようすです。卵やアーロールは判別不能です。
その時、地上から肉眼で30km以上上空に浮かぶ気球が見えました。打上げのときに直径3mほどだった気球は、20m近くまで膨らんで、なお上昇し続けていました。その大きな気球に、ちょうど太陽の光が反射して、肉眼でも見えたのだといいます。
そして、ついに放球から2時間13分後でした。気球は、この日の最高到達点33.125kmに達し、丁度この時、気球は短冊状に破裂、天然ゴムの気球ですが、マイナス数十℃の気温の中で固くなり、ガラス玉が割れるようにバラバラの破片になったと考えられています。食材を乗せた装置は空気抵抗のほとんどない成層圏を急降下です。
地上の追跡隊は落下してくる気球を追います。打ち上げよりも回収が大変で緻密な計算で割り出した着地点は放球場所から直線距離でおよそ70kmです。
途中、対流圏の上空、成層圏の境に吹くジェット気流のあるエリアで予測しても、あっという間に遠くに流されるなど、追跡3時間以上、既に気球はどこかに着地しています。
車数台で大草原をローラー作戦です。最後に示した信号を目指して、道なき道をすすむこと1時間後に、ついに気球発見です。
放球からおよそ4時間後、予測地点から、およそ34km離れた場所で発見しましたが、着地の衝撃で大事な実験装置が離脱、幸い近くに転がっていた装置を発見して、実験は一応の無事成功です。
早速、食材たちの様子を観察します。
◇生魚の開き → 干物になる?
生の状態のアジは絶品の出来で干物のようになっていました。
◇豆腐 → 高野豆腐になる?
豆腐は見た目とさわった感触が高野豆腐っぽいでした。食感は、ボロボロ。水分は、かなり抜けているものの、高野豆腐には、惜しくもなりきれなかったようです。
◇大根 → 半月切り…たくあんになる?
千切り…切り干し大根になる?
食感は切り干し大根を戻したときの感じです。半月状に切った大根は、食感がたくあんになったのですが、味がなぜか辛くなっていました。
◇殻ごとの生卵 → 冷凍卵になる?
卵は冷凍卵になっていませんでした。
◇ビール → フローズンビールになる?
ビールがあった場所が空洞に!落下中にどこかへ行ってしまいました。
◇更にモンゴルのお菓子アーロールを実験に使いました。アーロールは牛乳から作ったヨーグルトを煮詰めて布で濾し水分を出すため重石をして放置します。水分が飛んで白い塊になり、それを糸で切って2日間天日干しすると完成です。ということで乾燥の実験として一緒に打ち上げています。
モンゴル現地食材のアーロールは乾燥が足りなくて失敗でした。
大根とアジはクッキングは、成功としたといえます。
-50℃の成層圏に行ったことで、氷点下にさらされて大根が凍結し細胞を破壊して酵素が化学反応を起こします。辛味成分が生まれた瞬時に凍結・水分の蒸発が行われたことから辛味を持った大根が作られたと考えられます。大根おろしで起こる反応と同じものです。
成層圏で大根は、ちょっと珍しい、「ピリ辛たくあん」になったとのことです。
アジが美味しい干物になったことについて、地上の温度は20℃で打上げ10分後、高度4,500m(4.5km)でしたが上空では-4.4℃、この時、アジ(食品成分表による水分:生74.4%・開き干し68.4%)に早くも変化がみられています。打上げのときと比べて少し表面が乾いたように見えます。
そのまま様子を見つづけてみると、30分後には、かなり干物のような姿になっていたようです。
食品研究家から低温で水分が蒸発し凍結乾燥状態で低温なのでうま味成分の分解が抑えられたのだと思う。という一方で、他の意見では気圧が下がりアジの細胞膜が膨らんで壊れて、うま味成分が流出しておいしくなったのではとのことです。
私からの意見としては、フリーズドライで水分の凍結と蒸発が同時におこなわれ旨味の凝縮が進んだものと考えられると思います。
放球から2時間13分後に気球は、33.125kmに達し気球は破裂し落下しています。凍結卵・高野豆腐・アーロールの完成品はできませんでした。卵の殻・豆腐・ヨーグルトの性質、放置・停留時間の違いなどもあったと思われます。興味のある実験結果でした。
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