もう気の早い「アヤメ」が咲き始めた。アヤメという名前は花弁の網目模様からつけられたのだという。園芸種ではないふつうのアヤメがなんとなくなつかしい。「草に咲くあやめかなしく旅遠し 富安風生」。かっこう花という別名については、Wikiによると、「かっこう花(かっこうばな)は、カッコウという鳥が鳴く頃、すなわち初夏に花を咲かせることから名づけられた植物である。どの種をかっこう花とするかは土地により異なり、咲く時期のほか共通点を持たない」とされている。ただしアヤメがこの名前で呼ばれることが多いという。
(2021年春 川崎市)
■春の花シリーズ
「サクラソウ」(春の花 21-01)
「ワスレナグサ」(春の花 21-02)
「ヒメツルソバ」(春の花 21-03)
「レウィシア」(春の花 21-04)
「オオキバナカタバミ」(春の花 21-05)
「スイート・アリッサム」(春の花 21-06)
「ドウダンツツジ」(春の花 21-07)
「カントウタンポポ」(春の花 21-08)
「ホウキモモ」(春の花 21-09)
「アリウム・トリケラトゥム」(春の花 21-10)
「シャガ」(春の花 21-11)
「チョウセンレンギョウ」(春の花 21-12)
「キブシ」(春の花 21-13)
「キランソウ」(春の花 21-14)
「アネモネ」(春の花 21-15)
「タネツケバナ」(春の花 21-16)
「ヘビイチゴ」(春の花 21-17)
「山吹」(春の花 21-18)
「ホトケノザ」(春の花 21-19)
「海棠」(春の花 21-20)
「セイヨウシャクナゲ」(春の花 21-21)
「ホウチャクソウ」(春の花 21-22)
「ラミウム・ガレオブドロン」(春の花 21-23)
「キツネノボタン」(春の花 21-24)
「ビオラ・ソロリア・プリセアナ」(春の花 21-25)
「シロヤマブキ」(春の花 21-26)
「 アニソドンテア・マルウァストロイデス」(春の花 21-27)
「オランダミミナグサ」(春の花 21-28)
「斑入りビンカ・マジョール」(春の花 21-29)
「チエリーセージ」(春の花 21-30)
「スズラン」(春の花 21-31)
「ユウゲショウ」(春の花 21-32)
「レンゲ」(春の花 21-33)
「フジ」(春の花 21-34)
「シラン」(春の花 21-35)
「ヒメウツギ」(春の花 21-36)
「ナルコユリ」(春の花 21-37)
■早春の花シリーズ
「チロリアンデージー」(早春の花 001)
「クリスマスローズ」(早春の花002)
「ツルニチニチソウ」(早春の花 003)
「ペーパーホワイト」(早春の花 004)
「日本水仙」(早春の花 005)
「黄水仙」(早春の花 006)
「カラスノエンドウ」(早春の花 007)
「ラッパスイセン」(早春の花 008)
「ヒマラヤユキノシタ」(早春の花 009)
「ジンチョウゲ」(早春の花 010)
「ヒメオドリコソウ」(早春の花 011)
「アラセイトウ」(早春の花 012)
「オオイヌノフグリ」(早春の花 013)
「ハクモクレン」(早春の花 014)
「玉縄桜」(早春の花 015)
「タチツボスミレ」(早春の花 016)
「河津桜」(早春の花 017)
「ノースポール」(早春の花 018)
「ヒヤシンス」(早春の花 019)
「ミモザ」(早春の花 020)
「フレンチ・ラベンダー」(早春の花 021)
「シデコブシ」(早春の花 022)
「ムスカリ」(早春の花 023)
「レンギョウ」(早春の花 024)
「クロッカス」(早春の花 025)
「馬酔木」(早春の花 026)
「ヤグルマギク」(早春の花 027)
「雪柳」(早春の花 028)
「イベリス」(早春の花 029)
「オオアラセイトウ」(早春の花 030)
「スノーフレーク」(早春の花 031)
「モクレン」(早春の花 032)
「ハナニラ」(早春の花 033)
「ヤマザクラ」(早春の花 034)
「ネモフィラ」(早春の花 035)
「キンギョソウ」(早春の花 036)
「福寿草」(早春の花 037)
「ベニスモモ」(早春の花 038)
「ソメイヨシノ」(早春の花 039)
「ハルジオン」(早春の花 040)
「キュウリグサ」(早春の花 041)
「コブシ」(早春の花 042)
「ヤエベニシダレ」(早春の花 043)
「カタバミ」(早春の花 044)
「ゼラニウム」(早春の花 045)
「ハコベ」(早春の花 046)
「おやゆび姫」(早春の花 047)
「ヒュウガミズキ」(早春の花 048)
「ヒイラギナンテン」(早春の花 049)
「ムラサキサギゴケ」(早春の花 050)
「源平枝垂れ桃」(早春の花 051)
「レッドキャンピオン」(早春の花 052)
「イワニガナ」(早春の花 053)
「アブラナ」(早春の花 054)
「ジャノメエリカ」(早春の花 055)
アヤメの基本情報
学名:Iris sanguinea
和名:アヤメ(菖蒲) その他の名前:かっこう花
科名 / 属名:アヤメ科 / アヤメ属
特徴
アヤメ(Iris sanguinea)は高さ30~60cm、葉はまっすぐに立ち、茎の先端に1~3輪の花を咲かせる多年草です。多数の茎が株立ちになり、短く這う根茎からは多数のひげ根が伸びています。湿地の植物のように思われていますが、低山から高原の明るい草原に見られる植物です。古くから栽培されていますが、ハナショウブやカキツバタほど園芸品種は生まれませんでした。
コアヤメ(I.sibirica)はヨーロッパ中部からバイカル湖西部原産で、高さ50~80cm、湿った草原などに見られます。アヤメと異なり花茎が枝分かれします。シベリアン・アイリス(Siberian Iris)はコアヤメとアヤメ、その近縁種をもとにしてつくられた園芸植物です。ジャーマンアイリスを小ぶりにしたような豪華な花と、豊富な色彩があり、とても丈夫なので日本でも少しずつ栽培が広がっています。
イチハツ(I.tectorum)は中国中部から南西部の原産で、標高500~3500mの草原や日当たりのよい丘などに見られます。高さは30~50cm、葉は幅広くて垂れ、4月から5月に10cmほどの青紫色の花が咲きます。
ニオイアヤメ(I.germanica ‘Florentina’)や、ジャーマンアイリスの古い園芸品種を「イチハツ」と誤認されていることがあります。
基本データ
園芸分類 草花,山野草
形態 多年草 原産地 日本を含む東北アジア
草丈/樹高 20~50cm 開花期 5月
花色 紫,白 栽培難易度(1~5)
耐寒性 強い 耐暑性 強い
特性・用途 落葉性,耐寒性が強い,初心者でも育てやすい,盆栽向き
あやめ の例句
あさまだき草にあやめのこむらさき 日野草城
あやめうり揚屋町へとすゝみ行 鈴木道彦
あやめかけて草にやつれし枕哉 加藤曉台
あやめぐさ加茂のかり橋今幾日 嵐雪
あやめさす軒さへよそのついで哉 荷兮
あやめとは引ての後の名なるべし 鈴木道彦
あやめの辺束ねて軽き洗ひ髪 桂信子 月光抄
あやめふくけふもはなより草の庵 松岡青蘿
あやめふく女房の家に宿からむ 許六
あやめふく粽の露の竿つたひ 許六
あやめふけ目白の不二の暮ぬうち 松窓乙二
あやめふけ鵜を飼ふ宿のなまぐさき 松窓乙二
あやめよりすゝきの名より哀なり 松窓乙二
あやめわく明り障子のみどり哉 其角
あやめ咲きおのづと舟着場をなせり 大野林火 海門 昭和十一年
あやめ咲きつぎをあてたる足袋をはく 桂信子 月光抄
あやめ咲きひとりでわたる丸木橋 桂信子 月光抄
あやめ咲き十一面の次の面 岡井省二 有時
あやめ咲くことを思へり厨房に 三橋鷹女
あやめ咲くそこからもずつと奥にある一間 荻原井泉水
あやめ咲く野のかたむきに八ケ嶽 木村蕪城 一位
あやめ咲けり白馬岳削りて落ち来し水 村山故郷
あやめ売すゝめるふりもなかりけり 正岡子規 あやめ
あやめ引砥石を水の辺に忘れ 飴山實 辛酉小雪
あやめ濃く仔牛遊べり牧の端 山口青邨
あやめ濃し蝌蚪も紫光りして 富安風生
あやめ生ふ湖畔の馬頭観世音 阿波野青畝
あやめ真菰夏さだまりて五月雨るゝ 長翠
あやめ色とはこの色と咲きゐたり 鷹羽狩行
あやめ草切よとひけば延にけり 田川鳳朗
あやめ草宵は月ある六日かな 風国
あやめ草綾の小路の夜明かな 松岡青蘿
あやめ草蜑は械さす軒端哉 万子
あやめ草見えゐてものをねぶるなり 岡井省二 前後
あやめ草賀茂の仮橋今幾日 嵐雪
あやめ葺いそぎや神も二所帯 支考
あやめ葺日にさへなれば泪かな 桜井梅室
あやめ見にゆくと女等裾つらね(兼六園) 細見綾子
あやめ見よ物やむ人の眉の上 嵐雪
あやめ見る女を男見易けれ 永田耕衣
あやめ見る男を女見難けれ 永田耕衣
あやめ黄に卯月はものを思ひもす 三橋鷹女
あやめ~白むらさきに心なし 百里
いさぎよやあやめむすびし神の馬 長翠
いつしんに柱のそばのあやめ咲く 岡井省二 五劫集
かくれ喪にあやめは花を落しけり 鈴木真砂女 居待月
かつまたの池の雫やふきあやめ 正岡子規 菖蒲葺く
かはる~五尺のあやめ袖にせよ 白雄 白雄句集
きのふ見し妹が垣根の花あやめ 加藤曉台
きる手元ふるひ見へけり花あやめ 其角
ことぶきや亀のひたひの花あやめ 三浦樗良
こなたにもこれがたけよりあやめ草 此筋
このあやめ軒にさしても水邊也 小西来山
このやうにあやめ葺いても寒かな 松窓乙二
この軒にあやめふくらん来月は 上島鬼貫
さながらに黄のあやめ見て雨泊り 森澄雄
さびしめば夏庭にあやめ実のかたし 細見綾子 桃は八重
さみしめば夏庭にあやめ実のかたし 細見綾子
さをとめのあやめを抜て戻りけり 正岡子規 早乙女
しうとめにはしり過たるあやめかな 朱拙
しくるゝや檐より落つる枯あやめ 正岡子規 時雨
そり橋や散らぬ花ふむあやめ草 露言 江戸広小路
つめたさの中にあやめの返り花(唐招提寺芭蕉忌(十一月十三日))細見綾子
はなあやめ五尺曇りの薄匂ひ 加藤曉台
はなあやめ刈際清し蘆の角 野坡
ひとまたぎの堀もかよへり花あやめ 山口青邨
ふき籠り女姿のあやめ哉 乙訓
ふりほどく力見せけりあやめ草 りん女
ほり上てあやめ葺けり草の庵 炭太祇
まじまじと見しはじめなる肥後あやめ 細見綾子
むつまじのあらむつまじの軒あやめ 加舎白雄
むらさきを垂れてあやめのかへり花 日野草城
やさしくもあやめ咲きけり木曽の山 正岡子規 あやめ
やはらかな芦にあやめは咲いてをり 阿波野青畝
ゐもり見て清きあやめを剪りにけり 百合山羽公 故園
をかしやな葎の中にふくあやめ 夏目成美
セルと重ねあやめ模様の襦袢かな 三橋鷹女
ペリカンを悪(にく)めばあやめ咲きあふれ 渡邊白泉
一刀見せんあやめの九節 嵐雪
一茎のあやめ雲呼び日を迎へ 山口青邨
一雫あやめ見あぐる門はつち 野坡
三日あと必ず咲くといふあやめ 細見綾子
三日と待たず二日に咲ききりしあやめ 細見綾子
不二の図のあやめもしらず軒甲 舎羅
世のあやめ見ずや菰の髑髏 嵐雪
世はあやめそけてひと日は花がつみ 加舎白雄
九節竹見る窓やあやめ草 野坡
二階からあやめ葺きゐる廓者 後藤夜半 翠黛
五日迄水すみかぬるあやめかな 桃隣
五月闇あやめもふかぬ軒は哉 正岡子規 五月闇
五月雨や軒より落るあやめ草 井上士朗
交りを結ぶもけふのあやめかな 中川乙由
京を出て山高くなるあやめぐさ 鷲谷七菜子 天鼓
今朝あやめ猶草深し小家ども 杉風
伸び出でし沢や五尺のあやめぐさ 健等 新類題発句集
佇ちなやむ人間といひあやめといひ 永田耕衣
何もかも昔あやめの返り花 高野素十
何人を住せて神も花あやめ 支考
俤は軒のあやめのはつ時雨 松窓乙二
俳諧のあやめ結ばむ禿頭 阿波野青畝
冬あやめ 熟年という陽の椅子得て 伊丹三樹彦
出代やあやめの後のかきつばた 午心 発句題叢
初やんまあやめ畑をゆきにけり 岡井省二 明野
加茂かけて走る子の日のあやめ苅 早野巴人
加藤洲の藪のまぎはのあやめかな 阿波野青畝
北陸やあやめの水はうす濁り 橋閒石 朱明
十万の軒やいづこのあやめ草 高桑闌更
十万家その尾につゞくあやめかな 中川乙由
単衣着るあやめ紫水に恋ひ 細見綾子 桃は八重
古妻やあやめの冠着たりけり 松窓乙二
叩頭すあやめあざやかなる方へ 飯島晴子
四辻や匂ひ吹みつあやめの日 高桑闌更
壁ひと重雨を隔つや花あやめ 上島鬼貫
壷二つ挿し分けにけるあやめかな 細見綾子
壺二つ挿し分けにけるあやめかな 細見綾子 牡丹
夕づきてさゞなみまぶし花あやめ 桂信子 月光抄
夕月のありしあやめの返り花 高野素十
子と母の夕餉あやめを眸にゑがき 三橋鷹女
宿の夕餉は日のあるうちの水にあやめ 荻原井泉水
富士は雲に沈みあやめの濃紫 渡邊水巴 富士
小坊主がひやりとさせしあやめ哉 野坡
少しふくあやめ長きを選びけり 三宅嘯山
屋のむねのあやめゆるくや石の臼 正岡子規 あやめ
屋根にあやめ軒にすたれや衣かへ 正岡子規 更衣
屋根裏にそよぐもかりのあやめ哉 林紅
山水のひゞく紫白のあやめかな 日野草城
嶺のあやめ折るや虚空に色流る 木村蕪城 一位
川に音人に面てのあやめかな 岡井省二 鯛の鯛
常臥しのわれも曠野かねぢあやめ 森澄雄
常陸野はみどりのたひらあやめ咲く 藤田湘子 神楽
庭芝にあやめ草さへ許さざる 清崎敏郎
廊閣のあやめも翌日はしほれなん 壺中
引るゝを水のつぶやくあやめ哉 千川
形斗ふくや関屋のあやめ草 三宅嘯山
待ち焦がれゐしごと濃ゆき花あやめ 後藤比奈夫
思ひよるいづれかあやめかきつはた 正岡子規 杜若
思ひよる姿やあやめかきつはた 正岡子規 杜若
恋のはしもかくるやあらむあやめうり 松岡青蘿
我とわが舌を舐むるにあやめ咲く 三橋敏雄
我むかし坊主太夫や花あやめ 其角
我宿やつゐなげあげて葺あやめ 凉菟
我牛をめでゝやふけるあやめ草 黒柳召波
我門やあやめ一間香一間 沾徳 五子稿
戸明れば今朝の影さすあやめ哉 松窓乙二
提て行僧は憎けれあやめ草 早野巴人
新宅のあやめに木香の雫かな 許六
旅人に雨の黄あやめ毛越寺 高野素十
旅人の笠にやどるやあやめ売 桜井梅室
暮れてより白きあやめの盛りかな 草間時彦
書き倦めりあやめを想ひ旅を欲り 三橋鷹女
書よめば卯月は黄なりあやめ草 三橋鷹女
月照寺精舎黄あやめとくだんに 燕雀 星野麥丘人
月遠し折角さした軒あやめ 田川鳳朗
朝冷や蒲団にまとふあやめ刈 野坡
朝風に惟子軽し花あやめ 内藤露沾
朝食の味噌汁肥後あやめの前 細見綾子
木隠るる故のあやめの返り花 高野素十
板橋や踏めば沈みてあやめ咲く 村上鬼城
根深ひく麦の早苗やあやめ草 其角
梅は落枇杷やあやめの初仕事 野紅
森をでて森に水入る花あやめ 百合山羽公 故園
母のふところ雪深々とあやめ咲く 橋閒石 荒栲
水の香をしるべにしたりあやめ宿 飴山實 花浴び
水呑むや十日のあやめ六日の菊 橋閒石 和栲
水広き故のあやめの返り花 高野素十
水車廻りあやめ咲かせて住みなせる 渡邊水巴 富士
沢も田もあやめの畦となりにけり 阿波野青畝
浅草やあやめゆかたも吊りて売る 山口青邨
濁り江や茂葉うつして花あやめ 飯田蛇笏 山廬集
熱汐のわくらにそゝぐあやめかな 桜井梅室
燕来と風に吹かるる花あやめ 松崎鉄之介
父の忌にあやめの橋をわたりけり 永田耕衣
片折レのあやめハ雨に直リけり 子珊
献身やあやめをざつと見渡して 飯島晴子
白あやめ紫あやめ部屋~に 高野素十
白き歯よあやめのそばで笑ひしは 細見綾子
白き飯カレーと置かれあやめを言ふ 三橋鷹女
百姓家あやめの花に出窓かな 阿波野青畝
石にあやめ雨がみるみる流れになる 荻原井泉水
石山のあやめの花の薄暑かな 日野草城
笠摺や葺わたしたるあやめ草 杉風
粽なしあやめの節会来つれども 臼田亜郎 定本亜浪句集
納屋古くあやめわかずの芋茎かな 阿波野青畝
素裸はあやめの束を枕とす 阿波野青畝
紫のさむるやゆめの花あやめ 卯七
終ひの家あやめの返り花一花(越後、島崎に良寛遺跡を訪ふ) 細見綾子
絶息や即ちあやめ色を発す 橋閒石 荒栲
肥後あやめの手中に落ちし十日かな 細見綾子
肥後あやめ冴え~と色欲しがらず 細見綾子
肥後あやめ抱ききれぬ程抱きて来し 細見綾子
肥後といふ国は知らねどこのあやめ 細見綾子 牡丹
腰老て二重に廻るあやめかな 田川鳳朗
膝の砂あやめの水に払ひけり 桂信子 月光抄
色淡く且ついさぎよく肥後あやめ 細見綾子
芋洗ふ池にあやめや忘咲 村上鬼城
花あやめどこかに蜘蛛の糸かゝる 飴山實 辛酉小雪
花あやめ五尺の露をあぐるかな 加藤曉台
花あやめ五歩にも足らぬ橋渡る 中村苑子
花あやめ幟もかほるあらしかな 其角
花あやめ浄土うつせし園池かな 角川源義
花あやめ潮来は情濃かりけり 後藤比奈夫
花あやめ繊き莟のかく解けし 渡邊水巴 富士
花あやめ食べれば睡き横坐り 岡本眸
花の似たあやめにも似ず杜若 田川鳳朗
花活にむらさき褪せしあやめかな 飯田蛇笏 椿花集
苗代にあやめぐさ咲く十二橋 阿波野青畝
茎長に刈を手がらやあやめ草 桜井梅室
草あやめ苞もむらさき莟あぐ 山口青邨
草に咲くあやめかなしく旅遠し 富安風生
菖こそ蛙のつらにあやめ哉 其角
葛飾は花あやめ時日筋ふむ(江戸小紋、小宮康助翁をたずねて) 細見綾子
葺そへて能き虹光やあやめ草 野坡
葺とはや霧ふきかけるあやめ哉 松窓乙二
葺事ぞ何のあやめもしらねども 小西来山
虫入は客に散る筈花あやめ 梢風尼
蚊の声は床のあやめに群れにけり 正岡子規 蚊
蝙蝠の屎も子になれあやめ草 其角
行水の湯に巻入てあやめかな りん女
衣をぬぎし闇のあなたにあやめ咲く 桂信子 女身
討死の甲に匂ふあやめかな 正岡子規 あやめ
訪へばあやめを活けてをられけり 清崎敏郎
足の豆つぶして旅やあやめ草 森澄雄
足垂れてあやめの水を濁しけり 桂信子 月光抄
軍めく二人の嫁や花あやめ 桃隣
軒あやめ市に牛かる思ひあり 加舎白雄
軒あやめ苔うちはらひ~さす 寥松
軒ふかく根はかたまりぬあやめ草 田川鳳朗
軒並も一夜の沢のあやめかな 林紅
返り咲く紫紺のあやめ暮の秋 福田蓼汀 山火
通りぬけ路地の翌檜みそさざい 佐藤鬼房
道連れや開くあやめと舌出して 三橋敏雄
都辺や手苗捨てもあやめ草 鈴木道彦
醤油やあやめ隠れの村の中 永田耕衣
野あやめのなびけば駈くる仔馬あり 水原秋櫻子 晩華
野あやめのむらさき一つ他は白し 水原秋櫻子 蘆雁
野あやめの咲く畦づたひ伊勢神楽 藤田湘子 神楽
野あやめの花に離々たり牧の馬 水原秋櫻子 晩華
野あやめの離れては濃く群れて淡し 水原秋櫻子 残鐘
野あやめの黄なるを綴り牧の原 石塚友二 玉縄以後
鉢巻もあやめなりけり菖蒲酒 馬場存義
鎌倉山越え来ればあやめ葺く家々 村山故郷
鎌研ぎ場小さきあやめの返り花(金沢郊外、湯涌温泉にて) 細見綾子
長~と肬にかけたりあやめ売 加舎白雄
降らひでもぬるゝ名のあるあやめ哉 千代尼
陶器市一壺に挿してあやめ咲く 平畑静塔
陶粉の窯家嫌はずあやめ咲く 百合山羽公 寒雁
隠れ栖む故のあやめの返り花 高野素十
雨ふりて水はなれするあやめ哉 りん女
雨雲のましたあやめの色の濃き 桂信子 月光抄
雨雲の尾が垂れくるよ山あやめ 佐藤鬼房
雨雲やとがりてうすきあやめの葉 桂信子 月光抄
雫持うらのつよみやあやめ草 りん女
雲の脚あやめの花に渦つくる 山口青邨
雲下りて咫尺のあやめ消ぬべくも 山口青邨
霜枯の萱もあやめも日なたかな 鈴木道彦
青鵐鳴き野あやめ霧にしづくせり 水原秋櫻子 蘆雁
音ばかり筧失なふあやめ哉 千代尼
須らく靄去る勿れ沼あやめ 阿波野青畝
風よりも雫のものぞ軒あやめ 千代尼
風吹て燕の落すあやめかな 正岡子規 菖蒲葺く
風筋に立つ野あやめの二三本 星野麥丘人
馬ひやすなみやあやめの雄上川 三浦樗良
馬借て伊香保に行んあやめ哉 建部巣兆
高々と檜皮目出たし葺あやめ 三宅嘯山
高原の水秋にして花あやめ 渡邊水巴 富士
髪うすく幸うすくまたあやめ咲く 桂信子 月光抄
髪結ぬ海士の娘もあやめ哉 一笑(金沢)
鯨取(いさなとり)けふはあやめを引きにけり 飴山實
鯨取けふはあやめを引きにけり 飴山實 次の花
鶏が塒(ねぐら)もあやめふきにけり 上島鬼貫
鷺や来むあやめふきたる湯の茂り 支考
鷺立て人やら分るあやめ草 李東
黄あやめに霽れてたそがれつづきをり 森澄雄
黄あやめのどこにも咲きて沼多し 高野素十
黄あやめや紙幣のやりとり盆の上 波多野爽波
黄あやめを阿波手の神に奉る 高野素十