中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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ルートバーン(30):ルートバーントレッキング第3日目(4)

2011年05月07日 07時07分14秒 | ニュージーランド;ルートバーン

                                    <クイーンズタウン近郊のポプラ>

     ルートバーン(30):ルートバーントレッキング第3日目(4)
              (湘南カラビナ隊)
         2002年1月25日(金)~2月5日(日)

第7日目:2005年2月2日(水)
 (つづき)

30 一路クイーンズタウンへ

<ルート地図;ルートバーン→クイーンズタウン>



<羊の群>

■バスに乗車
 私たちは3日間で,総延長約32キロメートルの行程を踏破した.ここはルートバーントラックの終点でもあるが,同時に反対廻りの出発点でもある.ここからルートバーン滝までの往復1日コースもあるという.小学生達が,よくこのコースを歩くそうである.
 そういえば,1月30日にリマーカブルズを案内してくれたデビッドが,数名の客を案内しているのに,仲間の一部の人が,先ほど出会ったと言っていた.お互いに笑顔で挨拶を交わしたらしい.
 ガイドブックによると,ここからダブルバレルウオーク(Double Barrel Walk)と呼ばれる散策路があるらしい.所要時間は約15分だという.私個人は,折角だから,このルートも歩いてみたかったが,そこへは行かないとのことである.
 私は右足首を捻挫していたが,テーピングのお陰で,遅れることもなく,何とか歩き通すことができた.一部の仲間から,
 「貴方は捻挫して丁度良いスピードになったよ」
と冷やかされる.もちろん,それはオーバーな言い方である.私はそんなにタフではない.
 私たちは,ルートバーントレックの始点かつ終点を表す標識の前で記念写真を撮りあう.
 13時52分,送迎バスに乗車する.
 まず,借りていたシーツを,運転手に返却する.そして,リュックを荷物室に預ける.
 「現金と,カメラをリュックから出しておいて.後でお酒飲むから」
とチャドが言う.
 私は,外国人の集団が乗り込んでくる前に,素早くバスに乗車する.バスのどちらの窓が,見晴らしがよいのか分からないが,右側の真ん中辺りの席に座る.私の後から仲間が乗り込む.Sさんが,
 「沢山乗られますので,2人掛けでお願いします」
と,至極当然な注意をする.この注意を受けて,左手前の窓際に座っていた仁王様が私の隣の席に移ってくる.
 13時56分,バスはクイーンズタウンに向けて発車する.

■羊のお通り
 バスは単車線,未舗装の道路の道路を走る.道路は素晴らしい林の中をくねくねと続いている.時々,枝間から遠くの山が見え隠れする.雪を戴く峻険な山並みが美しい.いつの間にかバスの冷房が入っている.気がつくと,車内が随分と涼しくなっている.
 前から2台の乗用車が来る.バスはすれ違いに苦労する.砂埃でまっ白に汚れた乗用車が向かって右側に寄って止まっている脇をスレスレにバスが通過する.ときどきバスは上下に大きくバウンドする.そしてゆっくりと前進する.
 14時05分頃,バスの前方に凄い砂埃が立っているのに気がつく.その直後,バスが停まったまま動かなくなる.バスが余りにも長く停まっているので,訝りながら前方を見ると,沢山の羊が道路を占有している.羊の群の後ろに,2人の男女と数匹の犬がせわしく動きながら羊の群を誘導している.羊が動くたびに大量の埃が舞い上がっている. 

<羊飼いと羊の群れ>

■羊に阻まれて交通渋滞
 羊が原因のトラフィックジャムに遭遇したのは初めての経験である.しかし,車内で文句を言う人は誰もいない.バスは,羊の移動する速度に合わせて,ゆっくり,ゆっくりと進む.
 14時13分,ようやく羊の群が右手の牧場に入っていく.羊が牧場に入ると,羊飼いの夫婦は入口のゲートを閉めている.2人の近くで,さきほど羊を追っていた2匹の犬がしっぽを振っている.私は,何だかとても良いものを見たような気がして,ほのぼの感で一杯になる.

<牧場に入る大量の羊>

<グレーノーホテルで休憩>

■グレノーキーホテルに到着
 バスは,ようやく通常の速度で走り始めた.道は牧場のまっただ中を通っている.
  14時17分,バスは三叉路に突き当たる.そこを左折し,川を渡る.私は何となく眠くなる.バスは山に囲まれた広い平野の真っ直中を走っている.そして,最初の休憩地,グレノーキーホテル(Glen Orchy Hotel)に,14時32分に到着する.

<グレノーキーホテル>

■贋画伯
 広い駐車場の向こうに切妻の屋根を十字に組み合わせた2階建ての建物が建っている.この建物がグレノーキーホテルである.入口に「Glenorchy Hotel , A Classic Experience, Bar & Restaurant Accommodation」と書いた洒落た看板が貼り付けてある.なかなか面白い看板である.
 早速,私は,この看板をスケッチする.どこからか,私がスケッチする様子を見ていた女性従業員が私の所に近寄ってくる.そして,
 「スケッチを見せてくれ」
という.私は見せ物ではないので,戸惑ったが,素直に書きかけのスケッチを見せる.
 「あぁ,なるほど,お前さんはアーティストか」
と聞かれる.私は,
 「とんでもない.ただの趣味ですよ」
と答える.まことに恥ずかしい限りである.正直なところ,もっと,もっと,絵が上手に描けるようになることを願っている.
 建物の中に入る.建物の中は,向かって右手がちょっとした売店になっている.そして,左手が食堂である.仲間達は,食堂の中央にあるテーブルに分かれて座る.フクロウ,ノシイカ,それに私が一方の机,その他のメンバーは隣の机に座る.

<女性従業員が覗き込んだ私のノート>

■美味しいビール
 ほぼ全員がビールを注文する.地ビールである.
 下戸の私もまわりの勢いに押されて,同調する.中ジョッキ1杯が4ドル50セントである.

<現地ビールで乾杯>

■団欒
 大きなボールに山盛りのポテトチップスが,それぞれの机に1皿ずつ付いてくる.ボールには6角形の模様が水平方向に並んで付いている.素敵な入れ物である.早速スケッチする.ポテトチップスに付けるタレが,隣のテーブルと違うらしい.どうやら,隣のテーブルに付いてきたタレの方が美味しいようである.
 15時04分頃,テーブルに座っている様子をお互いに写真に収める.
 
<お互いに写真を撮りあう>

<クイーンズタウンへ>

■追憶の電信柱
 15時07分,再びバスに乗る.15時09分,バスが発車する.この辺りからは2車線の舗装道路になっている.バスは快調に飛ばす.
 15時14分,進行方向右手に大きな湖が見え始める.懐かしいワカティブ湖である.私の隣に座っているフクロウが居眠りをし始めた.バスはワカティブ湖に沿って,淡々と南下する.快晴である.雲一つない青空が広がっている.湖の対岸には,山頂に雪を抱いた素晴らしい山並みが続いている.バスは湖畔の断崖の中腹に作られた道路を,淡々と進む.道路に沿って,木製の電柱が並んでいる.3本の電線が電柱の腕木に張られている.バスが進むに連れて,電線が上に行ったり,下に下がったりをリズミカルに繰り返しているように見える.そんな単調な電線の動きを見ていると,なんとも眠くなる.
 木の電柱と,3本の電線を見ていると,子供の頃読んだ宮沢賢治の「月夜のでんしんばしら」を懐かしく思い出す(注1).
 「ドッテテドッテテ,ドッテテド
  でんしんばしらの軍隊は
   はやさ世界にたぐいなし・・・」
 この童話集には,月夜に電柱が行進する挿絵が描かれていた.私は子供の頃見たこの絵を,今でも鮮明に思い出すことができる.
 15時27分,バスは見晴らしの良い小高い丘の上で停車する.眼下にワカティブ湖が一面に広がっている.
 (※写真30-4を挿入)

■ワカティブ湖に沿って
 バスはここで写真休憩を取る.眼下に青い水を満々にたたえたワカティブ湖が広がっている.雲一つない青空が湖面に反射している.
 15時34分,発車する.沿道の至る所に,北海道大学のポプラ並木顔負けの見事なポプラの並木が見える.沿道に沿って建っている電柱と,電線が上下するのを見ている内に眠くなる.隣の席に座っているフクロウは,先ほどから居眠りをしている.ときどき力の抜けた身体で私の方に寄りかかってくるので,重くて仕方がない.そうこうしている内に,私も何時とはなしに居眠りを始める.

<ワカティブ湖>

■インフォメーションセンターに到着
 16時04分,ふと我に返ると,バスはもうクイーンズタウンの街の中を走っている.沢山の人を久々に見る.久々に山から帰ると,この小さな街,クイーンズタウンが,大都会に見えるから不思議である.
 16時05分,インフォーメーションセンターに到着する.ここは,ルートバーントレッキングの初日に,ガイドと参加者が集合したところである.
 バスから下車する.

<インフォメーションセンターに到着>

■ノボテルホテル着
 インフォメーションセンターで解散.私達は徒歩で今日の宿泊ホテルのノボテルホテルへ向かう.久々に繁華街を歩く.たった3日しか山中にいなかったのに,街がとても新鮮に感じる.
 16時15分,ノボテルホテルに到着する.Sさんがチェックインの手続きをする.16時24分,Sさんが一括してホテルのセフティボックスに預けていたパスポートを,それぞれに返却する.そして,部屋の鍵を手渡す.私はまたもや風邪引きフクロウと同じ部屋である.
 Sさんから,明日の行動予定など,懇切丁寧な説明を受ける.
 これから暫時解散である.その後,18時30分に再びロビーに集合する.そして,ノボテルホテルの食堂で行われるルートバーントレッキングのフェアウエルパーティに出席する.
 「カジュアルな服装でも良いですが,こざっぱりした服装で出席してください.女性の方は,できるだけオシャレをしてください」
とSさんがコメントする.
 私は,余計な衣類は一切持参していない.したがって,着の身着のままでパーティに出席するしかない.

■フクロウと私の調子が悪い
 16時40分頃,一旦部屋に入る.私たちの部屋は駐車場に面している.西日が部屋一杯に射し込んでいる.室内はかなり暑いが,部屋には冷房装置がない.一休みしていると,Sさんが私たちの部屋に来る.丁度このとき,フクロウはシャワーを浴びている.Sさんは,
 「では,フクロウさんに,この風邪薬を渡してください」
と言いながら風邪薬6錠を私に手渡す.
 次いで,Sさんは,捻挫した私の右足首のテーピングを外しながら,様子を見る.
 「まだ,腫れていますね.テーピングをしておいても良いんですが鬱血しても困るので,今日は外しましょう.明日から必要ならば,またテーピングしましょう」
と心配顔である.
 「とにかく氷で冷やしてください.寝るときはこの湿布薬を貼ってください」
と言って冷却シートを置いていく.
 「なかなか行き届いたケアーをする人だな.素晴らしい添乗員だ」
と私は心底から感心する.
 テーピングを外してみると,やっぱり足の調子は良くない.痛みはそれ程ないが,どうも,何かの弾みでギクリとやりそうで頼りない.明日は,足の様子を見て,トレッキングせずに遊覧飛行に切り替えようかなとも思い始める.
 一方,フクロウの風邪の様子も余り良くないようである.「ゴホン,ゴホン」と質の悪い咳を盛んにしている.
 17時58分,私はSさんから戴いた冷却シートを患部に貼る.10時間は効力があるとのことなので,夜明けの4時までは大丈夫ということになる.
 私たちが風邪や捻挫で,意気消沈しているときに,外で消防隊長が大声で何かを盛んに話している.本当に元気な方である.あの元気が全くうらやましい.それに較べて,この部屋の男どもは哀れである.風邪引きフクロウと,捻挫男の2人は,元気な消防隊長の声を,ぼんやり聞きながら,ベッドでダウンしている.
 とはいえ,明日の準備もしなければならない.面倒だなと思うが,やむなくリュックの中を片づける.今朝慌ててリュックの中でひっくり返してしまった「せんべい」が,粉粉になっている.リュックを裏返して,粉をゴミ箱に捨てる.昨日,水しぶきを浴びて動作不能になったオリンパスのデジカメを調べると,いつの間にか元通りに回復している.
 風呂に入る.捻挫した足を暖めないように,右足を空高く上げながら,変な格好でバスに浸かる.ついでに,下着の洗濯をする.洗濯した後,バスタオルにくるんで,できるだけ水分を取ってから衣紋掛けに干す.
 私がゴソゴソしている間,フクロウはベッドにひっくり返って,ゴホン,ゴホンしている.
                                     (つづく)

(注)
1.原文は次の通り(宮沢清六・堀尾青史(共編),1969,pp.246-259).
 「ドッテテドッテテ,ドッテテド/でんしんばしらの軍隊は,/はやさ世界にたぐいなし/ドッテテドッテテ,ドッテテド/でんしんばしらの軍隊はきりつ世界にならびなし./ドッテテドッテテ,ドッテテド/2本うで木の工兵隊/6本うで木の竜騎兵(注2) /ドッテテドッテテ,ドッテテド/いちれつ1万5千人/針金かたくむすびたり」(以下略)」
2.竜騎兵は,16,17世紀以降,ヨーロッパで銃を持った騎馬兵のこと.また,その伝統をつぐ装甲騎兵隊の兵のこと(Zaurus附属『マルチメディア辞書』).

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[編集後記]

2011年5月7日(土)
 雨

 ここ数日,何となくイヤな気分だった「クラクラ感」も,やっと元の状態に戻った.今日辺りは塔ノ岳に復帰する絶好の日だと思っていたが,あいにくの空模様である.朝から冷たい雨が降っている.季節が1ヶ月ほど逆戻りしたかのような寒い朝を迎える.
 こんな天気では,朝からどこかへ出掛けるわけにもいかないので,午前中は温和しく家に籠もって,新しい水彩画の制作にとりかかろうと思う.
 私が新しい絵の構想に頭を捻っていると,心の奥底に住み着いているもう一人の私が,私に,
 「お前さん・・なんで,何時もセカセカ,ゴソゴソと何かしていないと気が済まないんだよ・・お陰で,オレも,ちっとも休めないよ.たまには何もせずに,ボンヤリ昼寝でもしていたら・・本当に落ち着きがないんだから・・・こんなことじゃ出世できないよ」
と悪態をつく.
 「そうだな・・でも,この年齢になって,今更,出世もないだろう・・」
と表の私が答える.
 「うんニャ・・それも,そうだな.お前さんには出世は無理だよ・・たとえ若くても」
 「何でだよ・・」
 「だって,お前さんは無趣味だからだよ・・出世するには“近代五種”を全部できなければダメだよ」
 ここまで言われると,サラリーマン時代の悪夢が蘇る.
 “近代五種”とは,酒,麻雀,ゴルフ,カラオケ,それにもう一つ.何だったかな? 良く覚えていないが,ボーリングだったかな?
 サラリーマン時代の私は,近代五種全部が不得意・・というかできないし,やる気もなかった.確かに40歳代中頃になると,サラリーマンとしての自分の行く末が,自分でもハッキリと見えていた.これ以上の出世もできそうもないし,その気にもなれず,結局は定年と同時に近代五種の要らない業種にトラバーユした.
 ・・・で,近代五種とは無関係の登山や水彩画にうつつを抜かすことになってしまった.
 「でも,これで良いんだ・・」
 こんなことを思いながら,新しい絵の制作に取り組み始めた.目指すは秋の展覧会である.
                           (愚痴おわり)
 



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